『笑う警官』

バルト9の平日朝早い回を仕事前に見てきました。チケットカウンター前には、信じられないほどの長蛇の列で、何事かと思いつつ、仕方なく並んでいると、その列は上映間近のワンピースの新作の前売券を買い求める人々であることが数分後に分り、慌ててスカスカの脇のカウンターに行って券を買い求めました。

昔売れていた『ケ?サツの横はドブ 』などの本を読んでいたら、札幌の地元のニュースで、道警の裏金汚職の問題を見るようになりました。そのニュースもどこかで収束し、その後どうなったかをメディア上で見ることはなくなっています。そんな中で、道警を舞台に組織の腐敗を描いた映画と聞けば、一応、見ておこうかと考えました。

最近はドキュメンタリー系の映画を立て続けに見ていたので、エンターテインメントでもあり、実話に基づいた展開で少し方向修正をしようかと思ったのですが、出てくる風景や地名がまさに実際のものである点以外は、全くドキュメンタリー的には感じられませんでした。以前に見た『アンフェア』や『相棒』よりは、まあリアルで、ハードボイルドタッチになった『踊る大捜査線』ぐらいの位置付けに思います。

私の育った町に比較的近い羽幌(はぼろ)と言う街がいきなり冒頭に現れ、そこで警官が拳銃自殺する場面から映画は始まり、結末に至った段階で、若手刑事が左遷されるのも羽幌で、余程、羽幌は最果ての人里離れた街として認識されているのかと、苦笑しました。

ストーリーはほぼ1日弱の出来事を追いかける展開で、スピード感がありますし、昔懐かしんだ角川映画の独特の画風の中の夜の札幌を舞台にした、誰もが信じられない状況での推理劇は、すごく楽しめます。たるみを感じる場面はあまりありません。長まわしの場面は多いのですが、それも緊張感があります。

ただ、パンフレットによると脚本は途中で書き換えられており、その中で植村と言う刑事のウラの顔が結末で垣間見られるようにされたらしいのですが、どうも、この部分と100条委員会で不正を暴いた津久井と言う刑事の末路を描いた部分は、蛇足に思えました。また、もともと、内部告発するという意味の「うたう」から『うたう警官』と言うタイトルだった原作は文庫本化の際に『笑う警官』に改題されたとのことですが、「笑う」イメージを強調するためか、時々、組織悪の“悪魔”の笑い声が劇中で響き渡ります。こういった、変な演出や、微妙に無理な展開も、昔ながらの角川映画のようにも感じられます。

役者勢は、実力派が結集したとパンフレットにある通り、どこかで見たことのあるような人々だらけです。鹿賀丈史や宮迫博之から色々、こんな人まで出てるのかと思ってばかりでした。『デトロイト・メタル・シティ』の「ファ?ック!」と大声で言う女社長の松雪泰子は、今度はきりりとした女刑事になっています。安心して見ていられる名演技です。その女社長にタバコを額に押し付けられていた松山ケンイチまでが、特別出演でパチンコ屋に出入りするチンピラ役には似合わないぐらいの存在感で登場します。さらに、刑事達が集うバーのウラのあるマスターには、なんとハウンド・ドッグの大友康平です。『人のセックスを笑うな』にも登場し、『地球でたったふたり』ではヤクザの兄ちゃんだった若手男優が新人刑事役と、映画版「ウォーリーを探せ」と言う感じで、飽きさせません。

しかし、それよりも何よりも、「おお!」と思わず見入ったのは、事件の中心に位置づけられる殺人の被害者で、この被害者である女性警官は、『お姉チャンバラ』の主人公の乙黒えりが演じています。おまけにサービスカットと言うわけでもないでしょうが、東大卒キャリア警察幹部とのSMプレーでS役を平然とこなしています。殺された状態もキャミソール姿です。絞殺されながら、こちらをジッと見つめる瞳がやたら印象的です。ガッツリやってくれます。

二時間少々の映画があっという間に終わります。楽しめます。角川流エンターテインメントとは、確かにこんな感じであったと思います。ただ、そのツルンとした面白さゆえに、もう一度見たいと思うかどうかは、全く別の話です。DVDは、入手せずに済ませられるように思います。