10周年記念特別号 後編

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経営コラム SOLID AS FAITH 10周年記念特別号
『ソリアズ的オーナー経営者論概説 後編』
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目次
1 ご挨拶
2 株式会社ハラサワの日常に根付くソリアズ
3 有限会社ムーンライトから再発信されるソリアズ(1)
=マインドもの編=
4 オーナー経営者の経営観 Twitter 的アプローチ(1)
5 恒例! 著者によるタイトルベスト20
6 オーナー経営者の経営観 Twitter 的アプローチ(2)
7 有限会社ムーンライトから再発信されるソリアズ(2)
=マーケティングもの編=
8 あとがき

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☆注意:お読みになる際には、枚数がかさみ恐縮ながら、プリントアウトの上
お読みになることを、心よりお勧め申し上げます。
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1 ご挨拶

合資会社MSIグループの市川です。とうとう10周年となりました。書き溜
めた原稿を35歳のサラリーマンの時に発信し始めて、翌年には人材紹介会社の
契約社員になり、その翌年には零細事業者となりました。どこからを独立と呼
ぶのかも、どこからを創業と呼ぶのかもよく分らないうちに、今の働き方がド
メイン的にも、営業スタイル的にも、生活スタイル的にも形成されました。今
月誕生日が来たので、46歳になりました。

1、2周年頃では、“盛り上がり” を表現するべく周年記念特別号を作っ
ていました。その頃ソリアズは「読者のもの」であって、読者の意見や感想が
せめて周年記念特別号には反映するべきだと強く思っていました。人気投票や
寄稿に読者の協力を仰ぎました。ブログ化が色々な意味でのターニングポイン
トとなって、「著者のもの」を読者になり得る方々に選別してもらえば良いと
考えるようになりました。ご寄稿を今尚仰ぐことはありますが、依頼する方々
のソリアズに対する価値観のようなものを非常に意識するようになりました。

そんなソリアズも、コンセプトやテイストを大きく変えることなく、私の生
活習慣となって、或る意味で淡々と10年の歳月を越えて発行することができ、
今日に至りました。この間、読者の方々の間でも、月2回めくるカレンダーの
如く、日常の一部として受け止めて頂けているようによく伺います。ブログ化
をした後にも、読者数が大きく減ずることなく、メールマガジンの形で発行が
続けられるのも、その証左なのであろうと認識しています。

10周年記念特別号の企画を考えるに当たって、当たり前の特集号的なコン
テンツはやり尽くした感があり、かなり思案致しました。思案の末、原点に戻
って、ソリアズの各号に一貫して描かれる「オーナー経営者の経営観」を掘り
下げてみることとしました。第三者プロデュースの前編とは異なり、後編は私
のクライアント企業の組織の中で息づき、経営者の思考の中に根付くソリアズ
を実名入りで描きます。それらの企業に浸透するソリアズを考える時、「ソリ
アズ的オーナー経営者像」が浮かび上がるものと考えます。通常号とはかなり
テイストが異なりますが、ご笑覧下さい。
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ソリアズの通常号の本文は弊社ブログのこちらのページでご覧下さい。
http://tales.msi-group.org/?cat=2
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2 株式会社ハラサワの日常に根付くソリアズ

株式会社ハラサワの岸下明弘と言います。私は今春大学を卒業して、株式会
社ハラサワに入社しました。株式会社ハラサワでは7年も前から社員による勉
強会が開かれており、そのうち、数年前までの殆どは合資会社MSIグループ
の市川氏が企画運営を行なってきました。近年は、その運営を勉強会の経験の
厚い社員が行ない、市川氏と数年以内に社長に就任する予定の原澤勝義専務が
状況を監督することが多くなっています。

毎週一回火曜日の午後に市川氏は来社しますが、市川氏自身の言葉で語られ
る以上に、ソリアズは専務や社員によって言及されています。代表的なものを
幾つか紹介したいと思います。

昨年までは、学生向けの会社説明会にも市川氏は参加していたので、面識は
ありましたが、私がソリアズの存在を知ったのは、昨年9月の内定直後のこと
です。内定者向けの課題として、ソリアズの感想文を書くようメールで指示が
来ました。『雑用に勤しむ社員』です。入社後読み返してみて、「仕事は指示
者の意図を汲むことが重要」との主旨が、骨身に染みるようになりました。

内定者教育や新入社員研修にはソリアズが課題としてよく用いられています。
社員数約20名の当社において、今年の四月には私も含め三名の大卒社員が入
社しました。同期入社の井戸坂駿は、市川氏が非常勤講師をしていた大学の出
身で、市川氏を通して当社の存在を知り、入社前にソリアズの読み解きの課題
を毎月行なっていた様子です。

現在、私は毎週開催される「OG勉強会」と呼ばれる勉強会のメンバーにな
っています。OGと言うのは、「オーダー・ゲッター」の略で、営業組織がな
い町工場の株式会社ハラサワにおいて、以前からの元請企業などの大手・中堅
企業から仕事を“受身”で貰うだけではなく、自ら開拓に行くことが組織的に
可能になるようにしてゆくための勉強会です。

OG勉強会の発足理由は、社内では「いつまでも、未明の野菜でいる訳には
行かないから」と説明されています。これは勿論、ソリアズの『未明の野菜』
の内容を知らないと分らない表現ですが、社内ではかなり広く共通言語として
流通しています。井戸坂などは「未明の野菜」状態でいることを指して、「ミ
メっている」とさえ言います。

7年に渡って、市川氏と二人三脚で社員勉強会の体制を維持し、組織の成長
に結び付けてきた専務の言葉には、これまで紹介した二話以外にも、多数のソ
リアズがタイトルそのままに埋め込まれています。

入社して数ヶ月経った頃、専務と二人で取引先を訪問したことがあります。
移動の車中で、何かの話題から、専務が「若いうちだから許されることが沢山
あるし、体力的にも若いときにしかできないことがたくさんある。だから、間
違っても失敗してもいいから、どんどんそういうことをやれ」と私に言ったこ
とがあります。続けて専務は「『四季の早送り』じゃ、人生がつまらないもの
になってしまう」と言ったのでした。今年36歳になった専務ですが、「20代の
前半には、女と車に夢中で、まともな人間ではなかった」と時々述懐すること
があります。専務は、女性を知ることも遊びに耽ることも、人間は経験の枠の
中でしか物事を認識判断できない以上、若いうちに“枠”を大きく広げておく
べきだと言うのです。

遊びを含む人生全般に関しても、ソリアズを道具として、若手社員に一定の
価値観を示そうとする専務ですので、仕事の場面でも、あるべき姿がソリアズ
を用いて表現されることがかなりあります。多分仕事の場面で最も頻出するの
は『正しい努力』です。製品の梱包の様子一つにも、「岸下、それは『正しい
努力』になっているか。お客が見たら、代金に見合う梱包だと思うのかってこ
とだ」などと注意されることがよくありました。

以前、ソリアズを転載しているサイトで、ソリアズの次号が誤って発行日の
5日前にアップされていたことがありました。その事実に逸早く気付き、市川
氏に連絡したのは当社の社員です。当社のそんな状況をよく知っている市川氏
は、専務に「自分が今仮に死んでも、ソリアズは色々な人々にこれからも長い
こと活用されるんでしょうね」と笑って言うことがあったと言います。今とな
って、私も、その時の専務の答えが簡単に想像できるのです。

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『ハラサワ物語』が楽しい株式会社ハラサワ様のホームページはこちらを。
http://www.harasawa-m.com/
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文中のオーダー・ゲッターの簡単な説明は、こちらをご覧下さい。
http://www.msi-group.org/MSI-Sales-Strategies-vol1.html
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ソリアズの通常号の本文は弊社ブログのこちらのページでご覧下さい。
http://tales.msi-group.org/?cat=2
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3 有限会社ムーンライトから再発信されるソリアズ(1)
=マインドもの編=

私が社外役員を務める有限会社ムーンライト(通称「月光」)は、リーガル
シューズ岡崎店を運営するFCオーナー企業。月光の尾崎社長が発信するメー
ルマガジン『REGAL靴コミ情報WEB版』には、毎号一話ずつソリアズが
転載されています。ソリアズに添えられた尾崎社長のコメントが毎号非常に秀
逸で、本人も保存していないとの噂のコメントのバックナンバーを私は過去39
号に渡って保存しています。
毎号一話ずつ転載されるソリアズは、殆どダブリがないのですが、私が知る
限りたった二話だけ、二度転載された話があります。ソリアズ一話に対して、
二回別々のコメントが存在するということは、尾崎社長にとって、何らかの強
く共感できる部分があったと考えるべきでしょう。そのソリアズ二話と各々二
回分の尾崎社長のコメントを「転載返し」してみます。

第175話 余命の堆積 ★★★★ ★★★★ ★★★★ ★★★★

或る二代目社長と呑みに行くことになった。先代の創業社長は会長となって、
今尚、株も半分以上持っている。会長は自分でも語るほどに、起業してからや
りたい放題で事業を大きくしてきた。社員の中にも顧客にもその強引なやり方
を厭う者は多く、業務も改善の施せる所が山ほどある。社長の代替わりの遥か
以前から、業績は横這いか悪化を繰り返し、能力の限界を悟っての筈の交代劇
を経て、今尚会長は会社の内外で、精神論をぶち続けている。もうすぐ本当に
引退するので、最後の足掻きとは、本人の弁である。

社長と四方山話を続けて、「しかし、会長が元気すぎて、大変でしょうが、
それよりももっと大変なのは、業績の悪化ですね。よく、親族でもないのに社
長を引き受ける気になりましたね」と私は言った。社長は笑って誤魔化してい
たが、店を変えてから、語り始めた。

「いえね。たいした会社じゃないんですよ。会長には言えませんがね。仰る通
り、穴だらけで、どこから手を付けようかと言う感じですよ。ただ、それでも、
うちの商品が良いと言うお客はちゃんと居るし、目の前に休みもしないできち
んと出てくる社員も居るじゃないですか。潰すには本当に勿体無い。それだけ
ですよ。その役回りが私で勤まるなら、残った人生でそれをやっても良いんじ
ゃないかと思いましてね」。

40を過ぎて、哲学っぽい本やら人生論の類を、たまに手にしてみる。子供が
できると、人は否応なく死を意識し命が軽くなると、どこかに書いてあった。
自分でも感慨と共に実感できる。事故や災害の場面で、助かる道を選べる人数
に制限があると、決まって投げ出される命は老人のものである。未来ある命と
老い先短い命。人の命は何より重いが、その命の間には軽重がある。朽ちる物
が、これから萌え栄える物の糧になるのが道理であろう。

40代前半、起業8年目の社長が、社員4名の自社について言う。
「いやあ。自分で独立することになってやってきた仕事が、多少増えてきたの
で、社員を雇っただけですからねぇ。会社の理念とか方針とかねえ。社員は、
そういうのはないのかと言うんですが、ピンと来ませんよ。事業と言うより、
仕事の延長ですからねえ」。

「なるほど。では、一つ教えてください。社長もいつかは引退する日が来ます
ね。例えば、20年後としましょう。その最後の出社日。引き払って何もない部
屋に一人で鍵をかけたいですか。それとも、『社長、お疲れ様でした。これか
らもお元気な限り、顔を出してください』と社員に見送って欲しいですか。後
者なら、それなりに準備が要りますから、早めの判断が必要でしょう」と私は
言った。

ちっぽけな生業の形に過ぎないと、多くの零細会社の社長は言う。そして、
矮小な組織でも、脆弱な事業でも、永続する「法人」と言う人なら、余命を投
じて育てる価値があると言う人も多い。

『REGAL靴コミ情報WEB版』転載第一回目 尾崎社長コメント ★★★

これは自分で独立して会社を持った人(私のことですね(^_^;))にはけっこう
身につまされる話で、超零細1店舗社員数3人のうちの会社でも、先のことを
考えると気持ちが重くなります。

本来なら、バラ色の未来を想像して、先のことを考えると気持ちがどんどん楽
しくなるくらいでないといけないのでしょうけど、そんなことを言ってられな
いというのが本音です。やっぱり気持ちが重くなるといった方が本音に近いで
す。

自身に信用も何もほとんど無く、その状態で一回潰れかけたお店を継いで5年。
まさに、本文にある2代目社長の心境で始めたリーガル岡崎店ですが、なんと
か改装もして、商売としての形になってきました。正直言って、ここまで周り
を見る余裕もなく突っ走ってきたという感じです。

店も改装しました、私どものお店を面白いと言ってくれるお客様も増えてきま
した。さて、それでは次は?といったところで、実は気が重くなるのです。い
え、もちろん、何年後は何店舗で売上いくら!利益率はいくら!などといった
将来計画はありますよ。そのための行動も少しながら考えています。

でも、私の考える経営者の持つべき「経営の本質」とはそういった数字に表れ
ない部分だと思ったりするのです。

大抵の経営者はそこの部分がはっきりしないから、目に見える数字の部分で、
個人の不正蓄財をしたり、売上高や利益だけを追いかけたりして時には善悪の
判断も付かなくなったりするのではないかと思っています。実際、そうなる気
持ちは私にも分かるような気がするのです。本当は気を抜いていると私自身も
そうなりかねない魅力があります。数字を見ているだけの方が簡単で楽しいか
ら。でもそれだけではたぶん引退する際(いつ引退となるか判らないけど)に、
寂しい気持ちになるだろうなあと漠然と思うのです。

恐らく、それに対する正解は冒頭の「自分が楽しいと思うことを、人にも楽し
んでもらい喜んでもらうこと。」だと思うのです。でもこの言葉、言うはたや
すいけど、なかなか簡単に自分の腑に落ちてくれないだろうなあと思ったりし
ます。まだまだ修行が必要ですね。(>_<)

『REGAL靴コミ情報WEB版』転載第二回目 尾崎社長コメント ★★★

私も市川氏に「尾崎さん、あなたは会社を1代で潰すつもりですか?それとも
永続させたいですか?」と聞かれたことがあります。その時にどう答えたかは
ここでは書きませんが、その結果、市川さんの判定は「道楽」でした。(もう
答えを書いたかも同然かも)それ以来、口癖のように何かあったら「尾崎さん
は道楽で会社やっているんでしょ?」と言われるようになりました。

事実、道楽みたいなものです。でも、道楽ってのは少なくとも自分の命つきる
までつきあうものであって、決して軽いものではないです。前になぎら健壱が、
『趣味の世界のヒエラルキーってのがあって、一番底辺の言葉が「趣味」、そ
の上が「マニア」、その上が「好き者」、最上位が「道楽」だ!』とテレビで
言っておりましたが、道楽ってのは本来、女房子供を捨ててでもその世界に生
きる位のものらしいです。

んで、判定結果が「道楽」の私の仕事を後継いでやろうと言う人はどんだけい
るんだろうかと。本文の会長じゃないですけど、僕も好き勝手にやらせてもら
っているし、事業は決して大きくなっていないけど、まあやりたい放題です。

とはいえどこかで歯止めをかけないと、ぼちぼち壁が見えてきているのも事実
です。ハンドルを切って壁をよけるか、壁を乗り越えるか、気にせず壁をぶち
破るか、考えどころです。それは20~30年後の会社の存続を含めて、どう
考えていくかの勝負所が、もう少し先に近づいているような気がします。

それは僕自身が「自分の道楽」を良しとするか、「複数の力を束ねること」を
良しとするかの決断の時でもあると思うのです。決断には痛みが伴いますけど、
はてさてどうしましょうかねえ。

まだ、決断を出すには自分の事業欲には個人的な欲望も混ざっているような気
がしているので、もう少し思案が必要だなあと思っている今日この頃です。

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4 オーナー経営者の経営観 Twitter 的アプローチ(1)

●パワーポイントで美しくまとめられた提案書をめくりながら。
「こういう綺麗な提案書はいつも作っているのか。じゃあ、うちは字だけの提
案書で良いから、その分安くしてくれ」

●中途採用の応募者の履歴書を見比べながら。
「頭のいい奴とか、できる奴は、結局会社を乗っ取ってしまうだろ。乗っ取ら
ないなら、直ぐに飽きて辞めてしまうかだな。かといって無能な人間でも困る
し。さじ加減が難しい」

●チーム・ビルディングやチーム・マネジメントの書籍を数冊読んだ後に。
「けどな。チーム造るって言っても、どいつもこいつも議論一つ満足にできな
い国語力じゃ話にならんよな。中国人労働者の方が、よほど返事が良かったり
するしな」

●出産後の女性の職場復帰の際のキャリア断絶についての記事を読んで。
「他の社員は残っているのに、子供の面倒を見るために先に帰るということな
のか。じゃあ、評価が下がるのは当り前じゃないのか。よほど、とんでもない
貢献をしてくれているって話じゃないんならな」

●幹部育成についての書籍を読んで。
「こういう本って言うのは、どこにも幹部の定義を書いていないんだよな。う
ちの会社の誰を指しているのか全く分からん」

●残業ゼロのために業務効率化が必須とのセミナー後。
「効率的な作業で儲かる状態になって、社員に残業してもらったら、もっと儲
かるだろ。何で残業をゼロにしなきゃならんのか全く分からん。社員も残業代
を当てにしてるぞ」

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5 恒例! 著者によるタイトルベスト20

周年記念特別号の中で、時々紹介してきたのですが、最近少々ご無沙汰でし
たので、在庫状態の未発表原稿も含めて、タイトルで著者の私が気に入ってい
るものを、一気に20個リストアップしてみました。

● 第238話『能動の基点』
英語の受動態の説明で、日本語では能動態に訳す場合があるのは、何でなの
か考えたりしたのが懐かしいです。

● 第217話『有り触れたラムネ瓶』
ボトルネックが生産工程途上でバンバン動き回ったら、と考えた結果の、か
なり気に入っているタイトル。

● 第213話『線香花火』
大塚愛の『金魚花火』のPVのイメージや、遥か以前、薬師丸ひろ子が主演
映画の中で呟く「ヴィのような花火」と言うセリフから。

● 第214話『積木遊び』
大好きな椎名林檎の多分一番好きな曲のタイトルで、一度使ってみようと思
っていたのが、ここまで上手く内容に嵌って、悦に入っています。

● 第206話『ラスト・ラスツ』
以前もどこかで書いた通り、増刊号を含むソリアズ全話の中で、唯一の体言
止めルールを破った例外的なタイトル。かなり気に入ってます。

● 第200話~205話『斜陽の樹影』(シリーズタイトル)
モチーフとなった書籍の著者名と、その書籍に描かれる下流的な志向の進む
方向を端的に現すシンボルとしての木立の影を、上手く絡められた秀作。

● 第196話『水底の想い』
芥川龍之介の『蜘蛛の糸』のイメージや、水底のヤゴから見たトンボの姿な
どをイメージしてつけたもの。ちゃんと「みなそこ」と読んでください。

● 第181話『非破壊検査』
フィルムメーカーの日本法人に居た時に、レントゲンフィルムの部署の担当
者から初めて習った言葉。パイプラインの溶接部の検査もレントゲン撮影。

● 第175話『余命の堆積』
『敦盛』では人生僅か50年。人間の生物的能力が伸びるのはたかだか30年。
多くの経営者は能力が下降線を描き始めてから経営に打ち込むということ…。

● 第154話『雨滴の気配』
世の中測れないことってかなり多く、「こうすれば、こうなるのが当り前」
と信じ込まないと、プラシボ半分でも見えない結果は、結構あるかも。

● 第151話『閉鎖社会』
「閉鎖的」と言う言葉の一般的なネガティブなニュアンス。時々疑問に思いま
す。狭い所・薄暗い所、結構好きですし、SPIではかなり人嫌いです。

● 第120話『逃げない象』
本文にあるタールに沈み行く象の姿はかなり印象的です。『オツベルと象』
など、象に関わる話は多く、経営書にまで登場した故に成立できたタイトル。

● 第114話『未明の野菜』
『夜明け前』のタイトルの意味に読後驚愕した記憶があります。英語の「野菜
状態」を組み合わせた時、未明の薄暗い広大な畑のイメージとなりました。

● 第98話~100話『XYZの彼方』(シリーズタイトル)
X理論、Y理論、Z理論から付けてみましたが、実はそれほど詳しくありま
せん。動機付け理論なら、私はハーズバーグが一番好きです。

● 第89話『雲霞への対処』
発表当時より事態は深刻になったように思います。問題ある内容との指摘を
戴いたこともある号ですが、タイトル自体の意味はより重くなりました。

● 第84話『賢女の悦楽』
会社員時代の経験でも、この登場人物のような女性は多数知っているので、
彼女達に捧ぐと言う感じで。「けんにょ」と読んでください。

● 第80話『手中の藁蘂』
藁蘂長者の話と「溺れる者は…」の諺を組み合わせてみました。自省的な内
容の号ですが、タイトルの嵌りようが非常に気に入っています。

● 増刊第一号『信念の着脱』
「通常号なら何話分だろう」と後悔しながら書いた増刊号ですが、読み返すと
実験的で楽しめます。9・11をモチーフに、タイトルも踏み込みが深めです。

● 第59話『よほどのこと』
日常「あの会社は“よほどのこと”がなきゃ、まずいよ」などと使っている
表現です。“奇跡”と似たニュアンスですが、こちらは覚悟が要ります。

● 第30話『情人に乞う身請け』
難産のタイトルでした。音感としては、今でもいいできとは思えませんが、
経営にも通じる“情念”的ニュアンスはアタリだと思っています。

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6 オーナー経営者の経営観 Twitter 的アプローチ(2)

●社会に貢献している企業が学生に人気と聞いて。
「税金を払うのが最大の社会貢献だから、うちも大人気だな。税理士に言って、
ここ数年、ずっと黒字にしてもらっているからな」

●売り込みに来た営業担当者がマインドマップを描いているのを見て。
「おい。お客になるかもしれない俺が話をしているんだから、落書きなんかし
ていないで、ちゃんと聞け」

●派遣村のニュースを見て
「派遣の連中ってのは、他人に仕事を決めてもらっているんだろ。で、その他
人がその仕事を取り上げたって話か。うちには仕事があっても派遣会社さえ売
込みに来ないがな」

●ワークライフ・バランスの説明を聞いて。
「ワークとライフぅ。頭は一つしかないんだから、よっぽど器用じゃないと、
繋がっている時間を二つに分けるなんてできないだろ。大体、俺も含めて能力
の低い人間はずっと仕事のこと考えてるぐらいじゃないと、食ってけないぞ」

●他社の社是社訓を見て帰社して。
「社是とか社訓とか、額に入れて壁に掛けたら、少しは勘違いした社員が減る
かな。理念の浸透とか言うのはそういうことだろ」

●名刺交換相手の会社のサイトを社員に開かせて。
「ホームページってのは、作ると何か凄く儲かる秘密でもあるのか。この程度
のわざとらしい情報しかないのに、作るのに100万以上かけたらしい。うちな
んか、書くことが、そもそもないぞ」

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7 有限会社ムーンライトから再発信されるソリアズ(2)
=マーケティングもの編=

有限会社ムーンライト(通称「月光」)発行の『REGAL靴コミ情報WE
B版』からのソリアズ・コメント「転載返し」第二弾です。尾崎社長は10年続
いたソリアズの歴史の中で特別な存在です。

彼は私に面識が全くない状態で、業務を紹介するサイトのページも存在しな
い時代に、ソリアズの本文だけの評価で、独立さえ果たしていない契約社員の
私に、大型研修企画を発注した人物です。ソリアズだけの評価で私に仕事を出
した人は、彼以外に存在しません。ソリアズに対する彼の共感度の高さが結実
した結果、3年以上に渡って、一度もソリアズの内容について質問することが
なく、秀逸なコメントを発信し続けられたのであろうと思っています。

前半のマインドもの編でもお分かりの通り、尾崎社長のコメントは所謂美文
ではありません。自分から選び取って、零細小売店の店主・オーナー経営者と
なった一人の人間の実感に裏打ちされた高密度のソリアズ解説になっていると
私は思っています。マーケティングもの編の一回目のコメントは単なる自店商
品の説明となってしまっていますが、二回目のコメントの方は、彼の商売への
向き合い方が滲み出ている名文だと思います。

第151話 閉鎖社会 ★★★★ ★★★★ ★★★★ ★★★★

6枚のCDに収められることとなったローカルFMラジオの番組『市川正人
の知らなきゃアブナイ 仕事選びの常識非常識』。番組制作の経緯をよく尋ね
られる。私が役員を拝命している愛知県の靴店運営会社を訪れた時、その街に
は第3セクターのローカルFM局があり、商店街振興も一つの目的であると伺
った。見渡してみると、近所の時計店の店主も往年のフォークソングの特集番
組を持っている。それならば、こちらも何か番組をと持ちネタから探したのが、
大学での就労観教育のコンテンツのラジオ番組化であった。

私が時折お仕事を戴く札幌の書店店主は、やはり、ローカルFMで早朝から
読書の面白さを伝える番組のDJをしている。早起きは報酬を貰っても気が進
まない私は、一度として聞いたことが無いが、自店の宣伝色は全く無い番組と
聞いた。町内会の防犯活動に参加して夜回りをする町工場の社長。盆踊りに駐
車場を提供して準備に勤しむ商店店主。公衆一般との関係性を築くのが、PR
活動の原義なら、これらの零細企業経営者の活動もれっきとした企業のPR活
動であろう。

企業の社会責任が問われていると言う。ドキュメンタリー映画『ザ・コーポ
レーション』によれば、企業は法律上で人と同等に扱われるので、その行動を
人同様に診断したら、他人に配慮無く無責任な行動を繰り返す人格障害となる
と言う。なるほど、それは濡れ衣とばかりに、大手企業は色々なことに取組ん
でいる。熱帯雨林保護、地球温暖化対策、貧困根絶、地雷除去、障害者社会進
出など、枚挙に暇が無い。

或る大手IT系企業の事業部長に話を聞くと、その会社も第3セクターに出
資し、障害者の雇用創出に貢献していると言う。そこに勤める障害者は花を栽
培する事業を営んでいるらしい。花の生産高が増えてきたので、グループを挙
げて、本領のITとは全く関連の無い生花の販売に取り組むと聞いて驚いた。
訝る私に事業部長は説明する。
「おまえだって、CSRと言うのは知っているだろう。現代の企業はオープン
・システムなのよ。だから、社会のあちこちと繋がっているんだから、社会の
参画者の一員として、具体的な形で、貢献することが大切な訳よ」。

オープン・システムと言うのなら、こちらを見つめる相手が果てなく存在す
る筈だ。まるで総ての家がガラス張りにでもなったかのような不気味さを私は
感じる。いつ誰がどのような責任の履行を迫ってくるか分かったものではない。
誰もが土足で入り込んで来ては、こちらの責任を言い立てるのではないか。

ローカルFMの可聴域は実質半径10キロに及ばない。町内会は尚狭い。責任
を問うて来るのが社会であって、その責任を果たさねばならないのなら、社会
をいっそ狭くした方が、無責任の謗りを免れ易そうだ。

『REGAL靴コミ情報WEB版』転載第一回目 尾崎社長コメント ★★★

今回は、以前当店がFMおかざきで提供した番組の話が冒頭に出てきます。た
だ、「企業の社会責任」などというそんな大それたことを考えてやっていたわ
けではありません。(結果としてそうなるのかもしれませんが、当時は全然意
識をしていませんでした)この『市川正人の知らなきゃアブナイ 仕事選びの
常識非常識』は、放送当時就職活動を控えた市内の大学生が聞いているであろ
う時間を考えて放送したのですが、見事にほとんど反響のない番組になりまし
た。

内容が面白くなかったのかというとそんなことはなく、後に発売したCDで聞
いた人は例外なく「面白かった」「仕事や就職に対しての考え方が変わった」
「ここまで教えてくれる本やセミナーは無かった」などかなりポジティブな評
価をしてくれました。反響がなかったのは恐らくターゲットとしていた視聴者
層と内容にずれがあったのではないかと思います。つまり今時の大学生はロー
カルなFMラジオなんて聞かないという仮説です。(FMおかざきの人がみて
いたら怒るかな?)

ならばというので、今度はラジオで放送をしないことにして、CD販売用に
「ラジカル中小企業診断士 市川正人の知ってて当然。うまく行く営業の超基
本発想」などというタイトルでFMおかざきさんで録音し発売を開始しました。
これは新入社員の人や若手サラリーマンが聞いたら目から鱗が落ちるような話
になっており、特に営業職の人には確実に役に立つ(成績アップにつながる)
CDになっています。このCDは実はあまり宣伝をしていないのですが、それ
でもそれなりの数のお客様にお買い求めいただきました。

これらのFM放送やCDは「社会責任」を考えて出したのではなく、本心を告
白すると私たちの潜在顧客の方々に「納得できる仕事についてもらい」「社会
人として出世してもらい」「裕福になってもらえれば」、たくさん当店で良い
靴を買ってもらえるという下心があって出したのです。お客様が将来的に幸せ
になれば私たちも繁盛できるという遠大な計画がそこにはあったのです。(い
や、ホントの話)「そんなわけで購入された方は早く出世してください。」

『REGAL靴コミ情報WEB版』転載第二回目 尾崎社長コメント ★★★

冒頭のCDの話はうちのことですね。
FMおかざきさんで以前12回に渡って放送したことがあります。放送時の反
響はほとんどなかったことを思うと、視聴者は0に近かったんでしょうね。も
ともと、このネタはCD化して販売をすることを考えていたから別にそれでも
良かったのですが、ちょっとは反応が欲しいなと思ったことはあります。

地方のミニFM局ってのは大変だなあと思いました。その後CDを販売し、ま
あ、それなりに売れましたから良かったのですが、放送だけで言えば大赤字で
す。でも、それで終わりじゃなくて第2弾までCDを作ってしまったのですか
らあきれたものです。さすがに、2回目は放送すらせずにCDだけを作ってし
まったのですが。
http://moonlight-regal.com/topix/shigotoerabi.html

で、CDで元を取ったとかは別として、私たちのような零細小売店のレベルで
FM局に何らかのスポンサーとなって番組を持つということ自体を是とするか
非とするかと問われたら、それは是だと言ってしまいます。ただし、あまり結
果の期待をせずに、自分が面白ければいいじゃんという割り切りが必要ですけ
ど。その結果、「これは面白い!」と聞いている人で思ってくれる人が何人か
でもいればスポンサードは成功だし、やる価値があるというものです。こうい
うのを捨て金と思わない自分はかなり変わっているかもしれませんけど。

で、ですね。私も「ザ・コーポレーション」を見ましたけど、まず企業は悪あ
りきからスタートしている映画なので、100%賛同できませんでしたが、概
ね当たっていると思いました。ドキュメンタリーにご興味のある方なんかは見
てみて下さい。よく出来てます。

企業による社会貢献とやらが、その悪の後ろめたさを隠すために行っていると
したらそれは本末転倒で、我々消費者はそんなことを求めているわけではない
のです。ならば、その企業そのものが善に基づいた善意の経営を行っている方
がよほど社会貢献であり、我々の求めていることでもあるのです。

ハンバーガーの会社が難病の子供達と家族のためのゲストハウスを造って無料
で提供することは立派だけど、反面「スーパーサイズミー」という映画で糾弾
されているような事実もあります。そもそも本来の企業活動の方でヘルスケア
をきちんと考えたメニューを作っていれば、そちらの方に消費者が喝采するの
ではないでしょうか。

オープン・システムが責任を求められて監視されている社会が前提なら、無理
して社会貢献事業に取り組まなくていいと思います。本業で社会貢献していれ
ば、例え花を作らなくても、FMのスポンサーにならなくても消費者は無責任
だとは言わないと思うのです。

本当に消費者が喜び、良いと思ってくれるのは、本業がきちんと社会の役に立
っていて、その上で面白いからという理由でFM番組を作り、花を作り、いろ
いろな町の行事に取り組む。そういった姿勢を持った人たちを見かけたときじ
ゃないでしょうか。その結果、意図しない形で会社やお店の売り上げにつなが
っていく…結果としてPR活動になるのではないかと思うのです。

社会貢献と思われる行為を、義務やPRでやらなければいけないと思っている
のなら、最初からやるべきではないと私は思います。ましてや、無責任と言わ
れるのを恐れてだとしたらなおさらです。だって、面白くないでしょ?そうい
うのって。意外に消費者って簡単に見抜いてしまうと思うのですが、どうでし
ょう?

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http://moonlight-regal.com/
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8 あとがき

前編・後編の二回に分けて、「ソリアズ的オーナー経営者像」を掘り下げて
みました。お楽しみ戴けたでしょうか。私自身がそうであるためなのか、私の
周囲のオーナー経営者の方々には、血気盛ん、やる気満々で、オーナー経営者
になった方があまり見当りません。逃げ場なくその立場になって、または、
ひょんな成功から始めてしまって止められず、やるからにはキッチリやらねば
と日々自分に言い聞かせているような方々が多いように感じられます。

経営とは何であるのか、社長の役目とは何であるのか、社員にはどのように
向き合うべきなのか、なぜ売上が上がらないのか。毎日、考えても答えが見つ
からないままに次の課題が目の前に現れることの連続で、日々が過ぎてゆくと
言った方が良いでしょうか。映画『ディア・ドクター』には、笑福亭鶴瓶演じ
るニセ医者が無医村で名医として村人から頼られている姿が描かれています。
ニセ医者を続けている理由を、「来たボールを打ち返し続けているうちに今に
至ってしまった」と苦しげに吐露するシーンに、私は深く頷けました。

私自身、コンサルタントではないと自社サイトのトップページに書いてみた
ものの、未だに自分の仕事が何であり、何が喜ばれてクライアントから報酬が
戴けているのか明確に理解できていません。分からないので、今尚大枠で「企
画請負業者」と名乗っています。究極の差別化ですが、既成の形のないままの
仕事のあり方には、逡巡の湧き立つ余地が付き纏います。

文章のネタのメモを見ながら本文を作成しつつ、本文を途中まで書きかけて
はタイトルを練り直す。「あらら、また自分のセリフが長くなっているな。こ
こを削るか」とか、「つながりが悪いから、もう一エピソード、入れるか」な
どと本文を弄る。そんなことを、週末を中心に繰り返してきて、もう10年にな
りました。「独創的」、「独特の世界観がある」などと言って戴ける文章は、
何屋にも成り得ないままだから書ける面もあるのかもと、最近思っています。

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文中に登場の『ディア・ドクター』鑑賞の感想はこちらにて。

『ディア・ドクター』


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