566 普通の人々の仕事

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経営コラム SOLID AS FAITH 第566号
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 ご愛読ありがとうございます。第566話をお届けします。

 8月も終わりに近づいて今年も後半戦真只中です。中小零細企業では、通
称武漢ウイルス禍が完全に明けた状態の新卒採用が、大手企業が大きく膨ら
ませた採用枠のせいで、夏休み過ぎまでだらだらと続き、人材確保に奔走し
ている所が目につきます。四大卒採用の最大のメリットはコストが比較的安
いことと、比較的安定した質の人材を狙った通りの数比較的雇いやすいこと
です。

 中途採用の労働市場は母集団形成も難しく、人材の質も当たり外れが非常
に大きく、計画や目論見がなかなか成立しません。常に金をかけて採用体制
を維持する体力勝負に打って出ても結果が伴わないこともよくある、博打状
態になりやすいでしょう。そのように言うと、新卒は育てる手間がかかると、
殊更に新卒採用に否定的な見解を示す経営者がいます。しかし、今時、無名
の中小零細企業が中途採用で雇える人材の質は総じて極端に低く、中途半端
な知識や経験は寧ろマイナスなことも多いはずです。中途採用でも結局育成
しなくてはまともな戦力にならないという話はよく聞きます。

 高齢化対策として採用を行なう中小零細企業なら余計のこと、若手社員の
採用は新卒採用・中途採用の別に拠らず、それなりに手厚い育成が必要と心
得た方が良いでしょう。現実に弊社へのご相談でも中途採用者ばかりの組織
のスキル・マップ制作のケースが増えています。
 
 今年も10月末日には恒例の周年記念特別号を発行いたします。今回のテー
マはズバリ「離職抑制」です。「雇えない」の悩みの裏側には、多くの場合
「すぐ辞められてしまう」の悩みがより大きく存在しています。初手で離職
抑制に成功すると、採用があまり必要になりませんので、採用コストも育成
コストも抑制することができます。在職期間が数年以上の社員が増えれば、
オペレーションも安定し、組織全体の機動的な動きも実現しやすく、サービ
スの質も上がります。いいこと尽くめです。
 
 それでも「すぐ辞められてしまう」がいつまでも止められない最大の理由
は、中小零細企業に合った身の丈の離職抑制対策を経営者が分かっていない
からです。少々本を読めばすぐ誤りに気付くような、馬鹿げた施策に高いコ
ストをかけ、効果ゼロを繰り返しているようなケースは散見されます。方針
や経営計画を明確にする、将来のキャリアの展望を聞かせる、給料を上げる、
休みを増やす、制服をカッコ良くする…などなど。見た目が良くなるので採
用には僅かな効果があるかもしれませんが、離職抑制には殆ど効果が生まれ
ません。今風な言い方をすれば、これらの施策が殆ど意味を成さないことに
は「科学的エビデンス」が存在します。今回の周年記念特別号で、誤った離
職抑制対策をあからさまにしてみたいと思っています。
 
 今回の号は『普通の人々の仕事』と題して、或る障碍者雇用で有名な企業
のドキュメンタリー映画を観たことをきっかけに、組織の障碍者活用につい
て考えてみた内容です。ご意見・ご感想をお待ちしております。頂戴したご
感想などへのお返事の目標納期は5営業日!!

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その566:普通の人々の仕事

 その映画館のスクリーンに大映しになったのは、手に持った小石に短いシ
ャーペンの芯のような藻をピンセットで植え込む作業を座ってしている人々
の背中だった。熱帯魚の水槽に入れる藻の生えた石の「生産」には、高い集
中度と正確な作業の反復が常時要求され続ける。どう見ても1個1時間で終わ
りそうもない作業の対価は、小石一個20円。授産所と呼ばれる障碍者施設で
行われている、オカミが定める就労継続支援の事業のB型には雇用契約がな
く、対価は法定の最低賃金とは無関係に決まるらしい。

 そんな障碍者の人々の「惨状」に心動かされた社長が興した、障碍者雇用
を大量に行なう製菓会社のドキュメンタリー。社長は「利益は薄いが、障害
があっても従業員には最低賃金は必ず払っている」と胸を張る。職場を巡回
する指導員が「障害があっても働くうちに少しずつやれることが増えていく」
と指す先には、多様な障害のある人々が真剣に働いている。世の多くの働き
手が遥か昔に忘却した「働く喜び」がその表情に浮かんでいる。

 しかし、再三登場する丁寧な現場指導の内容は作業手続きのテクニカル・
スキルばかりで、組織の一員として機能するためのヒューマン・スキルや未
来を想定して行動するコンセプチュアル・スキルは殆どない。社員はマニュ
アルにない判断を、経営者の理念や考え方に沿って行なうことはない。ただ
機械の如く黙々と現場作業を行なう。社長の代弁者・代行者は劇中では見当
たらず、大口注文一件でさえ、社長が細かく監督しないと完結しない。現実
に大失態・大混乱が起きているが、自律的に対応する社員は登場しなかった。

 大口受注の大混乱には生産管理体制が必要だと社長も認めている。片手が
麻痺している聡明な青年従業員はレジに始まり、店内作業を学ぶばかり。機
会と手段を与えれば、生産管理をバリバリ学び実践しそうであるのに、それ
をこの会社が期待することはない。

 人間の欲求を三段階に分けたアルダファのERG説はマズローの五段階より
もシンプルで使い勝手が良い。ERGは各々「存在(Existence)の欲求」、
「関係性(Relatedness)の欲求」、「成長(Growth)の欲求」の三段階の
人間の欲求を指している。機械のように働いても、そこで得られる承認や組
織への貢献の実感は大きい。他では得られない健常者並みの賃金はその事実
だけで誇りに感じられるかもしれない。

 この会社では多様な障碍者の「できること」を組み合わせて、事業を進め
る姿勢を「凸凹を合わせる」と表現している。しかし、なぜか「できること」
の中に新たな学びで社会観や世界観まで変えるような「成長」は含まれてい
ない。機械でも作業は黙々と行なう。この会社はアルダファの言う最高の悦
びを未だ障碍者に与えずにいるように見える。

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【MSIグループの仕入完了報告(抜粋)】

■『結局、自律神経がすべて解決してくれる』 小林弘幸 著
■『流山がすごい』 大西康之 著
■『知識経営のすすめ ナレッジマネジメントとその時代』
 野中郁次郎・紺野登 共著
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発行:「企業から人へのコミュニケーションを考える」
 MSIグループ 市川正人
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次号予告:
 第567話 『無関心の輸入薬』 シリーズ『閉じた群像』(9月10日発行)
 ダイバーシティが組織には重要とまだまだ言われ続けています。その達成
イメージは大抵女性の役員・管理職登用の割合増加だったりします。久々の
シリーズでダイバーシティについての誤謬を明らかにしてみたいと思います。

(完)