558 被暗示性

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経営コラム SOLID AS FAITH 第558号
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 ご愛読ありがとうございます。第558話をお届けします。

 先日、東京のビッグサイトで4日間開催された展示会にクライアント企業
が出展したので、4日間ずっとビッグサイトに足を運びました。テレビでは
GWの人の動きが通称武漢ウイルス禍以前の水準に大分近づいたと報道されて
いますが、GWに先立つこと半月。ビッグサイトの展示会もかなりの人出でし
た。外国人来場者もたくさんいました。

 外国企業の展示ブースも床面積ベースで全ブースの5分の1ぐらいを占めて
いるのではないかと思うほどたくさんありましたが、どのブースにおいても、
出展担当者達はやる気なさ気で、スマホを気怠く弄っていたり、驚くことに
ブース内のテーブルを囲んで食事をしながら担当者同士で歓談していたりす
ることも見受けられました。勿論、自ブースの前を通る来場者に声掛けをす
るなどという前向きなブースは一つも見当たりません。

 調べてみると、日本法人が存在しない会社が殆どなので、わざわざ海外の
地にまで出店を設けるのに、愚鈍な社員を送り込むとは考えにくいように思
いますから、これらのブースでグダグダしている人々が、これらの海外企業
の中程度以上の質の社員なのでしょう。こんな人々と比べて日本の企業の生
産性が低いなどと評される謂れが全く理解できません。もしかすると、ジョ
ブ型雇用の彼らのジョブ・ディスクリプションには、ブース出展とは書かれ
ていても、契約獲得とか見込み客確保とは書かれていないのではないかとさ
え思えてきます。それでも、日本に比べて圧倒的に寡占化が進んだ市場ばか
りの海外諸国なら、経営努力もなく価格はどんどん引き上げることができる
でしょう。生産性は上がる訳です。

 その海外の多くの国々は、中央銀行が景気減速を仕掛けていたり、殆ど妄
想に近いような環境保護を掲げて発電量を抑制したりするので、これから数
年単位で空前の不景気に襲われると言われています。その結果、日本の輸出
も伸び悩むと言われていますが、「安い日本」と散々騒がれてきたのですか
ら、安くて良質な製品をどんどん不景気な海外に押し売ればよいものと思え
てなりません。宇露戦争の余波でブロック経済化も収まる気配が見えません
ので、多くの国内の中小零細企業にとって、業績伸長のチャンス到来です。
 
 今回の号は『被暗示性』と題して、似非科学一歩手前の理論や原理の有用
性を考えてみました。たとえば、「褒めねば人は伸びない」という説もあれ
ば、「褒めると単に慢心するだけで良い結果につながったというエビデンス
はない」などの話もあります。ネットをみれば、何に関しても賛否両論で、
そんな議論にAIが参入して実しやかに嘘を語るので、さらに何が正しいのか、
何が妥当なのかが、大混乱状態です。そんな中、メラビアンの法則のように
明らかな誤解釈の方が定着してしまっているものもありますが、かなり普及
して、実践すれば効果が出るとされていた経営の原理や理論も、「再現性が
ない」などの物言いがついていることがあります。

 今回の『被暗示性』は、物言いはついているものの、一応学術的な観点を
踏まえた経営の原理や理論の「正確性」や「真実性」ではなく、「妥当性」
や「有効性」について考えてみた内容です。ご意見・ご感想をお待ちしてお
ります。頂戴したご感想などへのお返事の目標納期は5営業日!!

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その558:被暗示性

 或るパチンコ店チェーンの営業部長から各店舗の事務所の中で店長達の様
子を観察し、その上で店長達と面談した結果を報告するという仕事を貰った。
その頃は存在しなかったモラハラやパワハラなどの懸念も含め、店長達の管
理者としての資質を調査する仕事。
 
 金銭管理や営業機密管理の配慮から事務所内には通常外部の人間を入れな
い。事前に電話してから最初の店舗の事務所に入る。壁一面にモニタが並び、
部屋のど真ん中に机の島があって、店長はお誕生日席にかけていた。机以外
の空きスペースは狭く、通路と見做せる場所も、やたらとものが床に直置き
されていたり壁に立てかけられていたりする。机上も作業に使えるスペース
は残り少なく、色々なものが放置されている。
 
 二時間ほどお茶を飲みながら事務所の中をずっと観察し店長と面談を始め
ると、彼は少々おどおどしながら私の感想を尋ねた。私は裏紙を貰って5Sの
概念を図で解説したり、「割れ窓理論」を事例で説明したりして、片づけを
強く意識させた。経営論など知らず、本を読むことも殆どなかった彼は裏紙
の図を押し頂くようにして仕舞って感謝していた。
 
 或る保育園のウェブサイトによる児童集めの企画を考えることになり、現
地に赴いた。近隣の住宅街を徘徊してイメージをつかみ、競合と思しき保育
園を観察してから、クライアントの園に到着した。説明をしてくれていた園
長も聞いていた私も、保育士と子供のやり取りにどうしても注意が向かって
しまう。本来仕事の範疇を超えているが、園の保育方針について意見を求め
られたので、マシュマロ実験の話をした。エピソード満載に話していると、
保育士どころか、子供達まで何かの演芸と思ったのか聞き入っていた。
 
 マシュマロを食べずにいられた子供は皆我慢強いのではない。単にマシュ
マロから注意を逸らし続けられただけの子供も多数いる。我慢の問題より自
分の欲望の制御の重要性を理解しているというべきだろう。園長も保育士も、
もっと聞きたいと要望するので、ダックワースの『やり抜く力 GRIT(グリッ
ト)…』を取り敢えず奨めておいた。

「割れ窓理論」には効果を疑う反論や批判がある。マシュマロ実験の数十年
に及ぶ追跡調査の信憑性を疑う批判があると読んだこともある。人体に投与
する薬の治験でさえ、検証するのが大変なのに、街全体の窓修理の効果の測
定や、マシュマロを食べずにいられた数百人の子供達の追跡調査は、さぞ大
変だろう。効果が再現できないとの批判を読んでも、私は全く驚かない。理
論が示す関係が因果ではなく、単なる相関でしかなくても構わない。

 尤もらしい理論が分かりやすく存在すれば、人が信じて行動を起こすに足
る。

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【MSIグループの仕入完了報告(抜粋)】

■『隷属なき道 AIとの競争に勝つ…』 R・ブレグマン 著
■『キーエンス解剖 最強企業のメカニズム』 西岡杏 著
■『世界経済の分断点を乗り越えよみがえる日本』
  馬渕睦夫、B・トッテン 共著
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発行:「企業から人へのコミュニケーションを考える」
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次号予告:
 第559話 『ラブ&ピース』 (5月10日発行) 
 よく伝統的な中小企業組織の風土を指して「社員が家族のように」などと
表現されていることがあります。「家族的経営」、「アットホームな職場」
についてちょっとだけ考えてみました。

(完)