22周年記念特別号

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経営コラム SOLID AS FAITH 22周年記念特別号
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ご挨拶

第1章:残念な社長の条件(性格編)
第2章:残念な社長はこうしてできる
第3章:残念な社長の言い訳
第4章:残念な社長の条件(組織運営編)
第5章:実録!姉弟子が見た残念な社長
第6章:残念な社長がわかる本

特別付録:『小さな会社のオーナー経営者分類』
あとがき

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☆注意:お読みになる際には、枚数がかさみ恐縮ながら、プリントアウトの
上お読みになることを、心よりお奨め申し上げます。
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ご挨拶

ソリアズ読者のみなさま。こんにちは。会社の萬屋 企画改善請負本舗の奥
田美幸です。通常号にて『萬屋日和』や『萬屋のもっと深く愛してい』で登
場しており、“拙い文章を書く例の市川の弟子”だと既にご認識くださって
いる方もいらっしゃるかもしれません。

2020年夏に独立してから、1年余が経過しました。(私生活では結婚生活か
らも独立しましたが…)個人事業主として独立後、師匠・市川の厳しくも温
かな教えを請いながら、市川と同じドメインで中小零細企業の経営支援を行
なっています。

昨年発行した500話記念特別号につづき、大変ありがたいことに、22周年記
念特別号の本文を書く機会をいただきました。今回のテーマは、「残念な社
長はこうしてできる!」。

独立してから一番の変化は、経営者の方々との交流が増えたことです。私自
身、独立した身としてまだまだ未熟ではありますが、経営者の方々とお話す
るなかで、実にさまざまな経営者がいることに気づきました。わずか1年余
で個性溢れる方々がこれほどいるのだから、多様な個性を持った経営者はさ
ぞかし多いのだろうと思い、このテーマ立案に至りました。

「こういう社長いる、いる!」「え~、こんな社長も世の中にはいるんだ!」
「昔はこういうときもあったなあ」などと、読者の皆さまのご経験や立場に
より、さまざまな視点でお楽しみにいただけるものになっているかと思いま
す。ぜひご笑覧ください。

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第1章 残念な社長の条件(性格編)

残念な社長と言っても、身近にいらっしゃる経営者によって、皆さまの持つ
“残念な社長”のイメージはさまざまかと思います。残念な社長の条件は色
々とあるかと思いますが、今号では、なぜ、彼らは「残念」なのか、その特
徴と理由について、「性格編」と「会社の方針編」に分けて考えてみること
にします。

第1章の「性格編」では、社長個人の性格に重点を置き、社長として望まし
くない点について考えてみます。後継者や幹部にふさわしい人を見極める際
のチェックリストとしてもご活用いただけたら幸いです。

(1)お金にだらしない:支払期日を守れない。なかには、支払いが遅れる
ことを事後報告する人もいます。お店で物を買うときや、自販機でお茶を買
うときなど、お金を払わないと物が手に入らないのは当たり前ですが、請求
書払いなどになると感覚がにぶってしまうのでしょうか。相手側のなかには、
一度の支払遅延で取引停止を判断する経営者もいます。会社の信用を損なわ
ないためにも、支払期日を守ることは非常に重要です。

(2)時間を守れない:「凡事徹底」。小さな会社で特に大切だと言われる
要素です。打合せ開始時間や訪問時間など、約束の時間が設定される場面は
さまざまです。仕事として、きちんと守れていますか。ちょっとした約束も
きちんと守る。遅れてしまいそうなら、早めに連絡することが会社としての
信頼を得るためにも大変重要です。

(3)見栄っ張り:派手なものにお金を使う。必要以上に人にふるまうなど
散財する。現実に見合った生活なら良いですが、自身の見栄のために、本業
を追い込むことになってしまったら元も子もありません。個人の見栄やひけ
らかしのためではなく、会社の方針に沿った判断ができると良いですね。

(4)プライドが高い:人を見下すような言動をしたり、人の話を聞かな
かったり、自分は何でも知っているような態度を取るプライドが高い方、周
りにいませんか。自尊心は必要ですが、傲慢や尊大なのは問題です。周囲の
方々は些細なことでも何かしら自身にとってプラスのことを与えてくれてい
ると、常に感謝を抱くようにするだけでも言動は全く変わるはずです。

(5)気が短い:気に食わないことがあるとすぐに怒る。もちろん社内教育
のために叱ることはあるでしょうが、単に怒鳴り散らして、建設的に話がで
きなくなってしまうのでは、良い状態とは言えません。感情をただ抑えると
いうことではなく、相互にコミュニケーションがとれるよう、冷静に対応で
きたら望ましいですね。

(6)勉強しない:経験で得られることももちろん重要です。時代の変化が
かなり早くなっている昨今、従来のやり方の盲目的な継続はかなり危険です。
自分の経験・知見を過信せず、新しい情報を取り入れて、時代の変化に合わ
せることが必要です。そのためにも勉強は欠かせません。

(7)人間観察が苦手:共感性が低い。相手がどう思うかを考慮せず、相手
が不快に思うことを気にせず言ってしまう。「社長ってこうだよね」と理解
してくれている従業員の態度に甘えていると、彼らの心が離れ、突然の退職
宣言となることもあるかもしれません。

(8)読解力が低い:日本人の読解力低下が少し前から話題です。文章や書
籍を読み取る能力だけでなく、「空気を読む」、「間合いを読む」などを読
み取る力もまとめて“読解力”と表現します。読解力がないと、従業員やお
客様、取引先の方々、経営者仲間から、「会話が成立しない人」、「話題に
ついてこられない人」、「空気の読めないやつ」と敬遠されているかもしれ
ません。

(9)危機感が乏しい:日本人は西洋人に比べ、「防衛的悲観主義」の人が
多いため、将来に対する不安を感じやすく、真面目な人が多いと言われてい
ます。しかし、将来に対する危機感をあまり持たず、「今のままでなんとか
なる」と思っている社長もいるようです。毎週伺っているクライアントのあ
る社長は「昨日と同じ、今日は来ない。今日と同じ、明日は来ない」が口癖
で、常に危機感を持っています。新たなことに挑戦し続けなければいけませ
ん。

(10)マナーも含む細かな配慮ができない:相手に良い驚きを与えることこ
そ、「お客様満足」につながると市川もよく言っています。日頃お店に買い
に来てくれているお客様に感謝を伝える気遣いなどの配慮ができていないと、
結果、お客様満足度の低い状態となってしまいます。コミュニケーションを
取る上で、相手がこちらに対してプラスの想いを持ってもらえると嬉しいで
すよね。

(11)言い訳する:できなかったこと、できていないことについて、何でも
言い訳している社長もたくさんいます。理想通り上手くいけば良いですが、
常に上手くいくとは限りません。上手くいかなかったあとの発言が「言い訳」
から始まると、あてにならない、無責任な社長と思われてしまう可能性が高
いです。失敗してしまったときも言い訳をするのではなく、上手くいくため
にどうすれば良いか考えて発言できる社長だと、頼りにされます。

(12)他人のせいにする:上項と関連して、できなかったとき、失敗してし
まったときにすぐに「他人のせいにする」のはまさに“残念な社長”です。
「お客様が来ないのは、向かいにお店ができたからだ」「コロナだから」な
ど、自分の努力不足や怠慢を棚にあげ、今の状況を「仕方ない」と自分にも
周囲にも言い聞かせています。どんな状況でも経営が上手くいっている会社
はあります。コロナ禍でも売上が上がっている製菓店や遊興店も、私のクラ
イアントにいらっしゃいます。コロナ禍も古くはリーマン・ショックも、も
ともときちんと経営してこなかった企業を淘汰しただけだという意見も聞き
ます。そんな淘汰される方の会社の社長に、ついていきたいと思う人はいる
のでしょうか。

いかがでしょうか。このような社長の条件に、思い当たる方はいましたか。
もちろん、当てはまっているからもう駄目だと性急に判断する必要はありま
せん。後継者や幹部候補にあてはめた場合は、現状をより良くするための可
能性として考えることさえできると思います。

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第2章 残念な社長はこうしてできる

第1章では、“残念な社長”の言葉からイメージされやすい、社長の「性格」
について述べてきました。本章では、それらの“残念な社長”がどうやって
生み出されるのか、奥田が見た実例をもとに、いくつかの代表的パターンに
ついてまとめてみました。

▲甘やかされた後継社長
 オーナー企業において、相続などの観点から、子どもが後継者になるケー
スは多数あります。オーナー経営者の子どもということで、比較的経済的な
余裕があるので、子どもの頃から甘やかされて育ち、あまり苦労せず生きて
きた方も多いように思います。お金を使うのは得意ですが、親からお小遣い
をもらえるので、アルバイトをしたこともなければ、自分で稼いだ経験もあ
りません。失敗するようなことは最初から取り組まない主義なので、大きな
挫折経験もありませんし、ましてや自社の従業員とはいえ、他人の失敗のた
めに自分が頭を下げるなんて考えられない、もはや考えてもいません。

▲「好きを仕事にする」と言われて起業した女性事業家
 採用の広告でよく見かける「好きを仕事にする」というフレーズ。少し前
にヒットしたマンガ『バクマン』でもあるように、好きなことを仕事にして
食べて行けるようになるとは限りません。好きなものだとしても、誰にどう
やって売るか、いくらで売るか、利益はどれくらいになるかなどきちんと計
画を立てる必要があります。手作りの子供服を素材にこだわっているのに、
かなりの安値で2か月近くかけて1着作っている女性事業家と話したことが
あります。好きなことでも、商売として成立は難しいでしょう。

▲良いものであれば必ず売れると思っている若手経営者
「○○でしか採れない貴重な素材で作られている」「限られた職人しか作れ
ない世界に5個しかないもの」。「こんなにこだわって作ったもの」だから、
知ってもらえさえすれば、絶対売れるはず、と自社のサービス・商品をア
ピールする若手経営者がいたりします。
 商売はお客様の持つ「ニーズ」と自社の「商品・サービス」のマッチング。
お客様は商品・サービスそのものが欲しいのではなく、それで得た「結果」
が欲しいのです。どんなに良いもの、希少価値が高いものでも、お客様のニ
ーズに合っている売り方をしていなければ売れないままです。
 どんな風に宣伝するか、どこで売るか、いくらで売るか、などマーケティ
ングの考え方を元に、お客様のニーズに合致した売り方をしないといけませ
ん。認知度が高くもないのに、「良い商品だ」と唱えているだけでは、お客
様のもとには届きません。10人のうち9人が嫌っても、残った1人の常連さん
が絶対に手に入れないと気が済まない、お店に行かないと落ち着かない状態
を作れれば良いのです。母数は僅かかもしれませんが、10%の人々が欲しが
るものこそ大手企業が参入しにくい小さな市場を形成し、小さな会社に儲け
のチャンスをもたらすのです。

▲性善説でものをとらえる社長
 性善説でものを捉える。人をすぐに信用し、“自分なりの”努力をしてい
るからいつか良くなるときがきっと来るはずと思っている社長もいたりしま
す。人生をポジティブに捉えていると無理矢理解釈することもできますが、
社長の立場ではかなり危険な考え方です。
 こうした性善説的発想は特に人間評価の際に顕著です。たとえば、特に取
締役など信頼していた人が、本人自身の利益になるよう会社のお金を不正に
使っていたとします。取締役が不倫相手に良い顔をするために、会社の経費
を使い込んでごまかしていたという、ドラマのような実際の話を私も知って
います。不正が発覚した後でも、長年、社長の右腕としてやってきた人だと、
「彼はそんな人ではない」と頑なに信じないような、性善説を唱える社長も
存在するのです。
 努力しているから、頑張っているから、いつか上手くいくはずと思ってい
る社長も、性善説に従って経営している人です。その努力が計画的かつ正し
い方向でなされていれば、明るい未来が訪れるかもしれませんが、思い込み
による誤った努力をしているだけなら、話は違います。単に「頑張ったこと
全て」が良い結果につながるわけではないのです。

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第3章 残念な社長の言い訳

第2章で、“残念な社長”がどう生み出されるかパターン別に紹介しました。
第3章では、そんな社長を想像し、世間のイメージに対する言い訳について
社長の生の言葉を妄想してみることにします。

▲甘やかされた後継社長
「社長、社長って言われるし、一応、登記上も社長だけど、別に社長になり
たくてなったわけじゃないからね。たまたま親父が会社を経営していて、た
またま俺が長男だったから、仕方なく継いだけどよぉ、別にどうしてもやり
たかったわけじゃねえんだよな。小さい頃から夏休みとか冬休みとかは基本
手伝わされるしよぉ。社員とちがって人件費もいらねぇし、いろいろ面倒な
ことを任せられるから、親父のパシリ同然だな」
「“これだから二代目社長は…。”とか言われているのは知っているよ。聞
くたくねぇけど勝手に聞こえてくるのな、そういうのって。“社長の息子だ
から、甘やかされてきた。”とかも言われているみたいだけど、子どものと
きからしょっちゅう怒られてたし、厳しく育てられたよ。それでも、“社長
の息子”ってイメージだけで、そう思われちゃうのな。」
「元々は親父の会社だし、俺のせいで潰れたって言われたくねぇから努力は
してるけどよ。やっぱ不景気には勝てないよな。最近の若いのは雇ってもす
ぐに辞めるし、そんな時代なんだろうな、きっと。まあ、だけどなるように
しかならないからなあ。」

≪奥田が妄想する脳内「師匠・市川」の辛辣コメント≫
 オーナー経営者の子どもなんだし、子供の頃から手伝っているなら覚悟決
めなきゃダメ。仮に努力をしているつもりでも、“正しい努力”ができてい
ないなら、“なるようにしかならない”と諦めるのはおかしい。経営者であ
れば、収益を上げて会社を長く存続させるために必要なことをどんどん実践
していくべき。

▲「好きを仕事にする」と言われて起業した女性事業家
「今はね、こういう高くて良い生地で、オーダーメイドの子供用のお洋服を
作っているの。見てみて、これとかかわいいでしょう。ちょっと値が張るん
だけどね、ほら、6ポケットっていうでしょ。1世帯あたりの子供が少ないか
ら、高くても良いものを、って考えるおじいちゃん、おばあちゃんもいるか
らね。オーダーは半年先まで埋まっているの。1着で2か月くらいかかるん
だけど、世界で一つのお洋服だし、お出かけのときとかに着てもらうことが
ほとんどね。」
「元々お洋服を作るのが好きで、親戚の子供が生まれたときに、作ったのが
きっかけね。すごい喜んでくれて、夫も『君が好きなことなら良いんじゃな
いか』って後押ししてくれたの。結婚してすぐ寿退社したから、働いた経験
は人より少ないけど、自分の好きなことをやってお金をいただけるって本当
に幸せ。お洋服を来た写真をお客様が送ってくれるんだけど、それが本当に
嬉しくてねぇ。ついつい続けちゃうのよね。“好きを仕事にする”って本当
に素敵よね。これ以上幸せなことはないって思っちゃう。どうせ働くのなら、
好きなことをやっていたいわ。」

≪奥田が妄想する脳内「師匠・市川」の辛辣コメント≫
 採算度外視である以上、事業ではなく趣味である。お客様のニーズも全く
考えられておらず、自分がやりたいことを自分のペースでやっているだけ。
事業としてやっていくのであれば、自社で満たすべきお客様のニーズを定め、
売る商品やサービスをそれに合わせて設定する。いわゆるマーケット・イン
の発想が必要である。その際には採算を合わせるため、劇的な効率化なども
必要になるだろう。

▲良いものであれば必ず売れると思っている若手経営者
「これは○○でしか採れない貴重な素材で、僕の知り合いの独自のルートで
しか、関東では手に入らないんです。札幌とか大阪、福岡に行けば別なんで
すが、これを扱っている他のお店では、県外からもお客様が来店していると
聞いています。それほど貴重で質の高いものなんです。僕がやっているお店
は関東で唯一手に入る場所なので、絶対に売れないはずがないんです。なか
なか手に入らないと買いたくなりませんか?」
「元々旅行好きで、福岡のお店で見つけたのがきっかけなんです。漠然と自
分で起業したいなと思っていたんですが、何か良いアイデアがないかと思っ
て、旅行していたんです。そのときに、ちょうど見つけまして。“絶対売れ
る!”って確信しましたね。」

≪奥田が妄想する脳内「師匠・市川」の辛辣コメント≫
 質の高いものであれば、必ず売れると信じている経営者は多い。この事例
の方の場合も同様、どれほど質の高い商品でも、自社の商品で満たせるお客
様のニーズがわからなければ、きちんと売れるようになるのはかなり厳しい。
それを明確にした打ち出し方をしていなければ売れるはずがない。お客様は
自社の「商品・サービス」そのものではなく、商品・サービスを手に入れた
「結果」をほしがっているのである。

▲性善説でものをとらえる社長
「取締役の佐藤くんもね。悪い人じゃないんですよ。息子さんのことで、家
庭で色々あったみたいでね。誰でも何かしら、そういう悩みはありますでし
ょ。付き合っている女性のために会社の経費を使っていたっていうのも、経
営しているなかで出てくる色々な課題のうちの一つだと思うんですよ。僕も
妻と色々上手くいかないときもあったので、佐藤くんの気持ちが痛いほどわ
かるんです。ちょっとした気の迷いっていうやつですね。今までたくさん会
社を支えてもらったので、佐藤くんには今後も頑張ってもらいますよ。」
「僕もね、何ができるかって考えると、税金をたくさん納めて、社員も問題
なく暮らせるようにして、会社をちゃんと続けていかないといけないんです。
税金も払い、お給料も払って、ちゃんと社会貢献してますよ。それなのに、
業績は悪くなるばっかりで。でも、続けていればいつか、いつになるかはわ
かりませんけどね、きっと上手くいくんだろうなあって思いますよ。」

≪奥田が妄想する脳内「師匠・市川」の辛辣コメント≫
 性善説で物を捉え、実質的な“横領犯”にも同情し、懲罰さえ考えない社
長。他の従業員から呆れられるのが目に浮かぶ。中小零細企業の社長は「不
安」「孤独」「猜疑心」を抱えているとよく言うが、普段から社員は信用で
きないと思っていたとしても、いざ、社員の不正が目の前に現れると、波風
を立てることを怖れたり、なかったことにしたくなるのではないか。一方で、
いつかきっと上手くいくはず、と具体的な計画もなく努力もせずにいる社長
が、ある日急に質の高い経営を実現するのも全く現実的ではない。

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第4章 残念な社長の条件(組織運営編)

第1章で紹介した、「残念な社長の条件(性格編)」とは異なる視点(「組
織運営編」)で残念な社長を考えてみました。“残念な社長”はどのような
経営観を持っているのか、そういった視点でももちろん考えていきたいと思
います。後継者や幹部にふさわしい人を見極める際のチェックリストとして
もご活用ください。

(1)本業以外にのめり込んでいる
 地元の人たちとの関係性維持のため、地元の商工会や法人会など、さまざ
まな活動に参加している経営者の方も多いかと思います。本業の営業活動の
一環として、売上向上や人脈形成など、会社にとってプラスになることもあ
ります。無計画な新規事業の立ち上げ、ギャンブルや異性関係、趣味などに
のめり込むあまり、会社に来る頻度が極端に減り、経営について真面目に考
えなくなっているなら、要注意です。新規事業も現業との相乗効果で、売上
が上がるようなものではなく、全社業績まで赤字に引きずり込むほどになっ
てしまっては元も子もありません。

(2)会社のことを把握していない
(不在にしている、他の人が実権を握っている)
 本業以外にのめり込んで不在にしている時間が長かったり、他の人に実権
を握られているなど、いくつかの要因が考えられますが、社長が会社のこと
を把握していないのはかなり危険です。常に会社の状況を報告してくれる優
秀な右腕もいないのに、会社にいる時間が少なければ、会社のことを把握し
続けるのは困難です。信頼できる方が実権者であれば問題ありませんが、信
頼できない人物が会社のすべてを執りしきっている場合は、乗っ取りは時間
の問題かもしれません。

(3)後継者問題を放置している
 後継者不足で倒産する会社が急速に増えています。社長の引退が迫ってい
るなか、後継者が決まっていないのは、話題にすることさえ避けられている
ことが多いですが、明確な経営危機です。自分が辞めたら会社もたたむと公
言する社長もいますが、お客様第一の観点から後継者をきちんと決めておく
のは最低限の義務です。後継者がいないことで将来性が不安視され、他社か
らの信頼が毀損し、取引が減ったりする事例もあります。取り返しのつかな
くなる前に、後継者問題の解決を図ることが必須です。後継者がいても、社
内外から支持されていない状況だと、やはり他社からの信頼に影響が出てく
るでしょう。周囲が支持する後継者に育成することが、社長の最後の役割と
言っても過言ではありません。

(4)会社のお金を公私混同している
 非上場企業はオーナーの持ち物です。会社のお金も自分のお金と同じよう
に使ってしまい、なかには生活費まで経費として計上する人もいます。従業
員から見たら、自分たちが作った売上が社長の趣味に無駄に費やされている
と、口には出さなくても憤慨していることもあるでしょう。人材定着にも悪
影響を及ぼす可能性があることは認識しておくべきです。高級品の購入を節
税対策の一環としてやっていることもあるかと思いますが、合法の範囲で行
なうことはもちろん、節度をわきまえることが大事です。

(5)ビジョンが定まっていない、
 社長の仕事は実質「決断すること」だと師匠の市川はよく言っています。
判断軸となる会社のビジョンが明確でなく、気まぐれで、判断の善し悪しが
時と場合によって変わったり、すぐに判断できない社長もなかにはいます。
すぐに判断できたとしても、計画性のある実践ができないのもまた問題です。
自分の会社だからといって、気分が乗っているときだけやりたいことをやる
のは良い社長とは言えません。

(6)三方良し的な発想がない
 ステークホルダーの利益を考えた経営をできていない社長もなかにはいま
す。ステークホルダーとは「利害関係者」のことで、会社から見ると、取引
先やお客様、仕入元などを指しています。例えばAmazon。消費者からしたら、
気軽に頼める、頼むとすぐ来るので日常的に利用している方も多いのではな
いでしょうか。ただ、Amazonに出品するには、高い料率を掛けられている企
業もあるようです。利用者が多いので、出品すると多くの売上は見込めます
が、買い叩かれることもあるようです。出品者からしたら、踏んだり蹴った
りかもしれません。また、Amazonの浸透により、物流企業の業務量のひっ迫
も一時期話題になりました。それもやはり、この「三方良し的な発想がない」
ことが要因と考えられます。

(7)機動性のある対応をしない
「拙速をもって好しとする」とは、師匠・市川がよく言う中小零細企業にお
ける「凡事徹底」の重要要素の一つです。小さな組織だからこそ、最高品質
のものを時間をかけて提供するより、最低限の質を担保した状態でスピード
感を持った対応をできた方が望ましいです。小さな組織だからこそできるこ
とをやらないと、生き残りは難しくなるのです。

(8)広く法律を無視する
 年々法令規則は厳しくなってきているのに、勤務時間をごまかすためにタ
イムカードを早い時間に押させるような会社が今も残っていると聞きます。
社用車で営業していた社員が、車で事故を起こした際に車の修理代を自腹で
負担させる社長も中にはいます。バレなければ良いと思っていても、SNSの
発達した昨今、どこから情報が漏れるかわかりません。最低限のコンプライ
アンス厳守は必要です。

(9)改善を怠る
 ミスが起きたときの改善・対策は当たり前ですが、改善を試みず、そのま
ま同じミスを繰り返してしまう会社はよくあります。ミスは誰にでもありま
すが、だからこそたゆまぬ改善・解消の努力は必要です。同じミスを繰り返
せば、他社からの信頼もなくなってしまいます。ミスが発生したら、やれる
範囲ででも改善を試み、ミスを防止する仕組みづくりを行なうことが大切で
す。

(10)人材を育成する気がない
人材を育てる気がない社長、会社はよくあります。何も教える必要がない
ほど、スキルの高い優秀な従業員しかいないなら話は別ですが、多くの中小
零細企業の場合は残念ながらそうではありません。入社当初から基本的なス
キルが備わっていて、常にやる気もあるような社員はほとんどおらず、勝手
に従業員が育つことはほぼありません。二代目社長などが「俺は親父の背中
を見て育ってきた」と考え、従業員の育成のために何も指導をしないのは怠
慢と言われても仕方ありません。

(11)権限委譲を進めない
 自身が持っている権限を、部下に任せることができない社長もなかにはい
ます。社長が抱える「不安」「孤独」「猜疑心」のうち、「猜疑心」がその
根本にあると捉えられます。全幅の信頼を寄せることができていなくても、
会社を長く続けていくためには、後継者や幹部、部下を育てることが重要で
あり、そのためには権限委譲も必須です。「ゴーイング・コンサーン」を実
現するためにも社長自身の業務さえ引き継いでいくことが求められます。

(12)社内での情報開示を進める気がない
 権限委譲と同様、社内での必要な情報の開示を進めていくことも大切です。
従業員に知られることによって、退職を誘発するような情報まで開示する必
要はありませんが、社長の考えを浸透させるためにも、会社の方針に基づい
て、少しずつでも情報開示をするのが望ましいでしょう。従業員の方々のIT
リテラシーがきちんとできていれば情報開示しても問題ないはずです。情報
開示を進めると同時に、従業員のITリテラシー教育を行なうことで、情報の
扱い方をきちんと把握している組織に変わっていきます。

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第5章 実録!姉弟子が見た残念な社長

第1章『残念な社長の条件(性格編)』及び第4章『残念な社長の条件(組織
運営編)』では、残念な社長の特徴を具体的に説明しました。本章では、独
立してから9年経った姉弟子である山口佳織氏が、上述の特徴を読んで思い
当たる残念な社長について語ってくれました。

奥田「山口さんがキャッシュ・カウと呼ぶ人がいると聞きましたが、どんな
人だったんですか。」

山口「ああ、キャッシュ・カウ(cash cow)。元々は、「PPM(プロダクト
・ポートフォリオ・マネジメント)」って言う経営分析手法から来ている
の。本来、キャッシュ・カウは日本語だと「金のなる木」って言うみたいで、
市川さんに教えてもらったんだけど、「成長は見込めないけど、案件が続い
て、安定してお金を落としてくれる経営者・その方が経営している企業」の
ことね。
 それで、キャッシュ・カウって呼んでいた社長の話ね。悪い人ではないん
だけど…、時間にもお金にもルーズな人で、費用の支払いが遅れるのは毎回
のことで、待ち合わせも時間通りに来たことがなかったんだよね。本当困っ
ちゃうよね。最初の方はお仕事をもらっているのだからと付き合ってたんだ
けど、当日の朝にリスケの連絡をしてきたり、待ち合わせから2時間遅れる
こともよくあったからさすがにねぇ。2日前まで時間変更は受け付けるけど、
2日前以降のリスケはお金をもらうようにしたの。それでも遅刻癖は治らな
かったけどね。
 あとは、その社長、人間観察が苦手で、人を見る目がない人なの。能力の
ある人に任せておけば何とかなるだろうって考えている人で、人を育てる意
思がなくて。
 おまけに、プライドが高くて、見栄っ張りで、周りの人に仕事を出してあ
げなきゃっていう想いが強いのはありがたいんだけど、発注してくる指示も
明確じゃないのに、自分の理想になっていないとすごく厳しい人なんだよね。
私も何回も怒られたことあったなあ。
 他にも、自分の会社のことなのに、自分が発注した内容を把握していない
のはびっくりしたよ。私が把握していたから良かったものの、もし把握して
いる人がいなかったら、多分業者にたくさん巻き上げられていたんじゃない
かな。」

奥田「そうなんですね。自分の会社のことを知らないのは恐ろしいですね。
よく市川さんは飲食店とかサービス店舗は一般的に経営の質が低いことが多
いと言っていますが、そういう方っていらっしゃいましたか。」

山口「いた、いた!自分がパスタが好きだからって、元飲食店を買収してお
店を始めた社長がいたんだけどね、とにかく売上が立たなかったみたいで、
結構すぐに閉店してたなぁ。さっきの社長と同じで、人材を育成するってい
う概念がないのよ。中小企業が雇える人の質ってたかが知れているけど、新
人のスタッフが何かの作業をできないことに対して、とにかく文句言うだけ
で、育てない。
 それでも、集客の依頼があってお手伝いをしたけど、育成していないスタ
ッフの接客では難しいよね。お手伝いした費用も督促するまで払われなかっ
たし、結構売上厳しかったんだろうね。私も含めて取引先への支払のために
キャッシングしてお金を集めていたって、周りには言っていたみたい。危機
感があまりないみたいで、計画的に考えてお金を回すこともできない人だっ
たね。まさにこのカテゴリーに当てはまるような人だよね。
 経営に関しては、あんまり真剣に考えている人ではなかったけど、人脈は
とにかくすごかった。有名芸能人とかスポーツ選手とかその人脈の中で何と
かやっているみたいだったけどね。」

奥田「飲食店の経営の質が一般的に低いっていうのは本当なんですね。そう
いえば、市川さんや私の仕事に比べて、山口さんの仕事は案件が取りやすい
けれど長続きしにくいと聞きました。よく言えば、気軽に依頼してきて下さ
る。悪く言えば、安易に頼んでくるお客様も多いということですよね。そう
いう方への対応はどうしているんですか。」

山口「先方の課題をヒアリングした上で、提供できることを考えて、支払い
可能な範囲で対応するしかないよねぇ。支払いに関しては、信頼できると判
断するまでは先払いでお願いすることもあるね。特に長期の案件になった場
合は、払われなかったときの損失が大きいから…。それで大変になったとき
も何度かあったけど…。
 あるクライアントさんでは、みなし残業代を超えた分の残業代を払わずに
経費削減していたからね。大手企業と比べても、資金をダブダブに持ってい
るわけじゃないから、売上が下がると支払がすぐに大変になるのもある程度
仕方ないのかもしれないけど…。他の会社だと、集客の施策をしたり、後継
者をきちんと育てたり。もっと真面目に経営すれば、売上を増やす余地があ
る会社もあるよね。このクライアントさんでは、自分たちでお客様を新規開
拓しようって気持ちがあまりなかったみたいでさ。私だったら、売上が下が
るなんてわかったら、何が何でも売上を上げる方法を考えて実行するけど
な。」

奥田「売上が下がるのは怖いですよね。独立してから、正社員雇用の安定感、
個人事業主の不安定さを身に染みて感じます。あ、そういえばさっきの会社
って以前聞いた建築会社さんのお話ですよね。山口さん、建築会社のお客様
が何社かあって、他にも悪い意味でかなり印象の強い社長がいると市川さん
から聞きましたが、どんな方だったんですか。」

山口「あぁ、あの人のことかな。市川さんから聞いているのって、不倫を誘
ってくるおじさまのことだよね。すごい典型的な見栄っ張りで派手好きな社
長でね。オフィスも都内の一等地に立派な内装で設えていて。経営に関して
は、根拠がない自信っていうのかな…。そういう感じでちゃんと販促すれば
売上も上がると思うんだけど、特にそういった施策は興味がないみたいで、
何とか上手くいくだろうっていうことをずっと言っていた社長だった。世の
中で話題の儲け話とかをすぐ始めようとしたりして、私にも「経営の相談し
たい」と言っていたけど、全然話通じなかったね。勉強もキライだったみた
い。みんなに奢ったりして、派手にお金を使っている人だったねえ。」

奥田「残念な社長の実態を詳細に教えていただきありがとうございます!き
ちんと経営について考えないといけないなと身に染みて感じますね。ご協力
ありがとうございました。」

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第6章 残念な社長がわかる本

ここまで、実例を交えながらさまざまな“残念な社長”を描いてきました。
最終章となる本章では、“残念な社長”についての理解を深めるための本を
4冊紹介したいと思います。

●『あの会社はこうして会社は潰れた』(藤森徹著)
 国内最大の企業情報データベースを保有している帝国データバンクの「情
報部」で25年間企業取材を行なっていた著者が、実際の中小企業の倒産事例
をもとに、企業が潰れるきっかけや倒産を予測するために必要なことについ
て説明しています。倒産が起こりやすい傾向や倒産に陥りやすいポイントに
も言及していて、建設業界や旅行業界、アパレル業界や出版業界など、さま
ざまな業界の破綻劇が取り上げられています。本レポート・第1章や第3章の
「残念な社長の条件」と合わせて読んでいただくと、倒産した要因がより鮮
明に見えてきます。中小企業の多数の倒産事例を一挙に知りたい場合にお薦
めの1冊です。
https://nikkeibook.nikkeibp.co.jp/item-detail/26337

●『知識ゼロからのいい会社、悪い会社の見分け方』(月舘堅著)
 1冊目にご紹介した『あの会社はこうして会社は潰れた』と同じく、帝国
データバンクの現役社員が書いた書籍です。著者である月舘堅氏は、企業へ
リスク回避の重要性を説くため、「危ない企業の見分け方」をテーマにした
講演活動を行なっています。新規取引先を調べる際に(1)ホームページな
どのインターネット上でアクセスできる情報、(2)登記簿や決算書などの
書類からわかる情報、(3)現地への実地調査でわかる情報の3つの観点から、
「いい会社」・「悪い会社」を見分ける方法を提示しています。既に取引し
ている会社を調べるにも、もちろん有効です。
 チェックポイントが羅列しているなど気軽に読みやすい内容となっており、
“危ない企業を見分けるための知識と嗅覚を鍛えるためのヒント”が詰まっ
ている1冊です。
https://www.gentosha.co.jp/book/b5074.html

●『実況!会社つぶれる!!』(全国宅地建物取引ツイッタラー協会著)
 ツイッター上で交流し合う不動産業界関係者により結成された団体である
全国宅地建物取引ツイッタラー協会(全宅ツイ)。その全宅ツイが「#会社
なくなる」というハッシュタグで、主に不動産関連会社の方から募集した実
体験倒産ツイートを紹介している1冊。
「はじめに」の中で、“本書で学べることはほとんどない”と断言されてい
ますが、倒産する会社の前兆を「来年」「来月」「来週」「今日」「つぶれ
た」の5段階に分け、起こった事象をおもしろおかしく紹介・分析していま
す。
 ひどい会社の事例を誇張しすぎている傾向が、玉に瑕かもしれません。
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784584139486

●『社長になっていい人、ダメな人
  社長になる人が知っている「経営者の常識」』(丸山学著)
 著者は法務面だけでなく、マーケティング面やビジネス・モデル構築の場
面など経営全般において、起業家をサポートする行政書士。この本は、年間
100社以上の会社を設立し、「新社長」を続々と誕生させた著者の経験をも
とに「成功できる人」と「できない人」の法則を見出し、まとめた1冊です。
社長になる前から心掛けるべきことなどにまで言及している数少ない書籍で
す。起業の場面における企業家に関わっていたからこその視点で書かれてい
ます。社長として最低限おさえるべきことに焦点を置いていて、わかりやす
い内容となっています。
https://booklive.jp/product/index/title_id/358251/vol_no/001

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特別付録:『小さな会社のオーナー経営者分類』

本メルマガを作成する以前から、中小企業のオーナー経営者の経営観を理解
するために、師匠・市川からオーナー経営者の分類についてヒアリングした
内容を『小さな会社のオーナー経営者分類』という図にまとめました。以下
URL、萬屋のウェブサイト「資料置き場」のページからダウンロードが可能
となっています。
https://kaisha-yorozuya.support/stockpile/

本章では『小さな会社のオーナー経営者分類』について解説してまいります
ので、ぜひダウンロードの上、合わせてご笑覧いただけますと幸いに存じま
す。

この図の見方について、まず、縦軸がオーナー経営者の経営観のレベルを表
しています。「経営観」とは会社を経営する上での考え方のことで、いわゆ
る「経営方針」にも繋がる重要な要素です。経営観の質が高いほど、お客様
満足度の高い事業を運営していると考えることができます。経営観の質のレ
ベルによって、上から3つに分類しています。

3分類について、簡単に説明してまいります。
(1)理想的なオーナー経営者:ビジネス遂行能力があり、経営観も高い
(2)ビジネス遂行能力のあるオーナー経営者:ビジネス遂行能力があるが、
  経営観は高くない
(3)趣味性の強いオーナー経営者:ビジネス遂行能力はほとんどなく、
  経営観も皆無に近い
上に行くにつれて、「ビジネス遂行能力」・「経営観」のどちらも高いレベ
ルのものを持ち合わせています。できるだけ上に位置する方が理想に近い
オーナー経営者であることを示しています。

図の左下にある「下流志向的タイプ」は、オーナー経営者ではありますが、
“下流志向が強い人”を表します。「下流志向」とは、内田樹の著書『下流
志向』から引用している表現で、無知であることに不快を感じず、行なった
仕事の成果をすぐに求め、求められる以上の努力をしない人のことを表して
います。

世の中に「下流志向」の人が増えていて、オーナー経営者にも下流志向的に
物事を捉える人が一定数存在しています。この図では左下の点線三角の中が
そういった経営者群です。できるだけ、図の上部に位置するオーナー経営者
であることが望ましいですね。

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あとがき (市川正人)

 独立して丸一年経った頃の奥田美幸が、弊社のクライアント企業経営者か
らも非常に評判が良く、色々と重要性の高い案件のご依頼をいただいている
ので、弊社の仕事の考え方や進め方を徹底的に教え込んで、弊社の後継事業
者ということでクライアント企業様にも紹介するようになりました。
 
 とにかく学ぶことに躊躇のない奥田に、「22周年記念特別号書いてよ。テ
ーマは好きに決めて良いから」と言ってみたところ、ほぼ一択の状況で
「“オーナー経営者”について書きたい」と言ってきました。オーナー経営
者は当コラムの中心モチーフなので、今更何も珍しいことがありません。退
屈な展開を予想したのですが、奥田が「“オーナー経営者”さん達は興味深
いです」と目を輝かせているので、「まあ、じゃあ、それにしたら」とぞん
ざいに放置しておいたら、できた原稿が今回読者のあなたにお読みいただい
たこの原稿です。
 
 確かに興味深くはありますが、“オーナー経営者”一般論ではなく、
“オーナー経営者”あるべき論でもなく、“残念なオーナー経営者”をピン
ポイントで掘り下げた内容になっていました。特に第三章は圧巻で、如何に
もIQかEQか何かの数値が残念そうな口調が生々しく再現されています。さら
に第五章では、姉弟子にあたる山口佳織まで引きずり出してインタビューを
敢行し、ここでもまたビジネス書に登場するような経営者像とは程遠い生々
しいダメ経営者像を突きつけています。あまりの生々しい再現文章の表現に、
山口から奥田にクレームが入ったと漏れ聞いています。

(幸い私は奥田の妄想に登場するだけで済み、酷いオーナー経営者を論うの
を免れました。)
 
 ここまで散々に“残念なオーナー経営者”を暴いておいて、本文末尾では
独自のオーナー経営者の分類を示した上で、「図の上部に位置するオーナー
経営者であることが望ましいですね」と告げてあっさり終わる。まるで癌に
よる余命宣告を受けて医院を去る絶望の患者に向かって、明るく元気に「お
大事にどうぞ」と声をかけ見送る受付嬢のようなノリです。「ああ、このア
ンバランスに平気でいられるのが奥田の強烈な強みだったか」と改めて得心
しました。奥田の事業展開にご関心が湧いた方は是非奥田のウェブサイトを
ご笑覧いただければと思います。
 
「幸福な家庭はみな一様に似通っているが不幸な家庭はいずれもとりどりに
不幸である」というのは有名な言葉ですが、ネットで調べてみるとトルスト
イの『アンナ・カレーニナ』の中の言葉のようです。同様に、人柄には勿論
違いがあるものの、良いオーナー経営者には相互に似通った部分が多くあり、
残念なオーナー経営者は、少なくとも表面上では、かなりまちまちです。

 合資会社MSIグループの仕事は経営コンサルティングではないので、残念
なオーナー経営者の残念な経営観や残念な経営手法にも(一応一旦はあるべ
き姿を提案しますが)非常に寛容です。報酬さえいただければ、残念な中で
もオーナー経営者が夢想する何らかの着地点に組織とその事業が進むよう、
最大限のサービスを提供します。そういう背景から、もしかすると、見慣れ
てしまっている“残念なオーナー経営者”を過去の周年記念特別号ではきち
んとまとめてみることができなかったのかもしれません。

『経営コラム SOLID AS FAITH』はこのたびお陰様で22周年を迎え、今後も
まだまだ継続することができそうです。ご愛読いただいているあなたに心よ
り御礼申し上げます。

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https://kaisha-yorozuya.support/
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(完)