507 側面図の世界

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経営コラム SOLID AS FAITH 第507号
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 ご愛読ありがとうございます。第507話をお届けします。

 廃業・倒産が増えています。後継者がいなかったり社員が雇えなかったり
で黒字でも消えていく会社が増えることは1年前ぐらいから予想されていま
した。弊社では過去に個人事業主の方から「あと3ヶ月で自己破産確定」と
いう状態からの事業再建策のご依頼や、中小流通業の会社から「二回連続の
ボーナスゼロ回答」に当たって大量離職の回避策のご用命をいただいたこと
があります。ですから、大倒産・大廃業時代になれば、そうしたギリギリの
状況での緊急処置のような案件が増えるものと想像していました。

 現実は全く異なりました。新規事業や新規出店に関わるご相談は増加して
いますし、通称武漢ウイルスのせいで消化が儘ならなかった予算を年度末で
何とか消化しきるための急ぎの調査案件も重なり、さらに、以前とはまるっ
きり様変わりした大卒者の就活市場への対応策立案案件が加わるなど、倒産
・廃業の話など全くお聞かせいただくことがありません。テレビどころかイ
ンターネット上でも、個人や企業の苦境が強調され続けていますが、単に明
暗が分かれているだけなのか、それとも苦境の人々や企業群はほんの一握り
であるのか、弊社の周囲の企業様の状況は巷間に言われるものとは大きく乖
離しています。興味深い時代になりました。

 今回の『側面図の世界』は、通称武漢ウイルスの流行や労働慣行など、昨
今非常によく耳にする「欧米では」・「先進国では」などの所謂「“出羽守”
論調」について考えてみたものです。たとえば、当コラム第436話『次世代
タンス預金』で描いたように、「来るべき次世代。財産はカネではなく信用
に変わる」と言われています。実は福沢諭吉や渋沢栄一の文章を読むと、遥
か以前から財産はカネではなく信用であったようですから、特に目新しいこ
とではありません。ただ、その傾向が社会が飽和し資本主義が行き詰まり、
平和の中で経済成長が他国に比しても困難になった日本だから、より明確に
顕現したのではないかと思われます。

 もしそうであるのなら、賃金が増加しにくくなっても構わないどころか、
そうであるのが他国に先駆けて日本では必然と考えることができなくはあり
ません。「来るべき次世代。財産はカネではなく信用に変わる」と占う一方
で「他国に比べて賃金の上りが少ない」と騒ぐ構造は、矛盾を孕んでいるよ
うに思えます。現実を踏まえない「“出羽守”論調」について、ひと時、ご
一緒にお考えいただけたら幸いです。読後には「今日のニューヨークは一週
間後の東京」などの話が如何に胡散臭いかに考え至るかもしれません。ご意
見・ご感想をお待ちしております。頂戴したご感想などへのお返事の目標納
期は5営業日!!

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■第436話『次世代タンス預金』 http://tales.msi-group.org/?p=1222
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その507:側面図の世界

 私はモニタ上のSPRoNGという単語を見て、「まあ、悪くないな」と悦に
入った。SPRoNGは“simultaneous periodic recruiting of new graduates”
を略して私が適当に作った造語。日本の新卒採用制度を一言で指す言葉がな
いので、勝手に作ることにした。
 
 米国籍も持つ娘は米国の大学で学ぶことになって渡米した。米国籍がある
から特定の大学への入学を前提とした学生ビザを必要としない。本人が望め
ば、ホストファミリーの家で自宅警備員をしていても、国外退去を求められ
たりはしない。彼の国の大学制度のメリットも十分享受できる。学んだ単位
はコレクションのように集められる。入学からずっと専攻を決めずにいられ
る。履修を終えた単位を組み合わせて要件を満たす専攻の学位を申請するだ
けで事足りる。だから複数の専攻を並行することも幾らでもできるし、授業
をたくさん取れば早く卒業することもできる。履修済みの単位を携えて転校
もできる。
 
 そんな立場の娘に対して、ホストファミリーは時間をかけて関心の湧く科
目を自由に履修したら良いと薦めているらしい。それはありがたい申し出だ
が、その前提には大学卒業者がまともに就職できない現実がある。新卒採用
制度がないから、大学新卒は経験者と伍して職を得なくてはならない。当然、
若年層の失業率はやたらに高くなる。
 
 さっさと卒業して日本で働く気らしい娘は、早々に単位を集めて卒業する
計画をホストファミリーや大学関係者に理解させる上で、どうしても日本の
新卒採用の仕組みを説明せねばならなくなった。困った娘を助けるために私
がその説明文を書くことになった。ヒントを求めて英文ウィキを見ると、
「学生がプレッシャーで自殺する」、「就活で学生が学業に集中しない」な
ど、まるで後進国の悪癖のように描写されていた。若年層の失業を抑え、社
会の安定化に大きく資するメリットには全く触れられていない妄言が続いて
いた。
 
 以前、『定刻発車』という優れたルポを読んだ。日本の鉄道の定刻発車の
極めて優れた実態がなぜ生まれたのかを多角的に分析している。その中で、
他国では定刻発車という概念自体がなかなか見つからず、国際比較が非常に
困難であるとの説明がある。電車が遅れるのが当たり前の国で「電車遅延」
の定義が15分以上の遅れだったりすると、統計上、殆ど電車遅延がない状態
でも、すべての電車は10分以上遅れているかもしれない。
 
 日本と海外を統計数字で比較し、日本が劣っているとやたらに騒ぐ人々が
いる。統計の数字は嘘をつかないという意見さえある。失業率の計算法が国
によってかなり違うことはよく知られている。読解力も生産性も本当に数字
一つでまともに比較できるのか疑問が湧く。学者でもないので正解を調べは
しない。ただ懐疑は手放さない。

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☆当コラムはプリントアウトしてお読みいただくと、より一層楽しめます。☆
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『萬屋日和』 「会社の萬屋 企画改善請負本舗」からのPR

「会社の萬屋 企画改善請負本舗」の奥田美幸です。
新卒社員の入社を迎えるにあたり、
入社後の教育体制を整えることが重要です。

社員が当たり前に知っていることを棚卸しして、
新卒社員に何をどの順番でどんな風に教えるかを考え、
オフJTとOJTを組み合わせた教育体制を作りましょう。
そんな教育体制は新卒社員に自信とやる気を与え、
定着率も大幅に向上します。

製菓店でその受入れ体制づくりの支援を行ないました。
以下のページの「事例紹介」をぜひご覧ください。

https://kaisha-yorozuya.support/works/solutionsaboutpeople-exp/

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『萬屋のもっと深く愛してい』第4回「ビッグ・データ」

売行きが鈍くなった商品をさらに仕入れてしまい、結果的に古くなった在庫
を廃棄してしまうなど、「在庫管理」を適切に行なうことが難しいと感じて
いる企業も多いかと思います。特定の人が経験則でやっていた在庫情報を元
にした仕入管理を、ビッグ・データを活用することにより、適正在庫を実現
することが期待できます。

ビッグ・データと聞くと、なんとなく「膨大なデータ」というイメージが湧
くかもしれません。具体的には、スマートフォンなどを通じた位置情報や行
動履歴、インターネットやテレビでの視聴・消費行動などに関する情報、ま
た小型化したセンサーから得られるデータなど、日々膨大に生成・蓄積され
るさまざまな種類・形式のデータを指しています。

技術の進化により、そのような膨大なデータを活用してできることが増加し
てきました。さらに、膨大なデータを溜め込むこと、そのデータを分析する
ことにかかるコストが安価になってきたことから、小さな会社でも活用する
事例が増えてきています。

たとえば、検品作業。部品や商品を入荷する際、基本的には納入リストと現
物を目で見て確認し、仕入リストをもとに管理表に反映するという作業があ
ります。ICタグを用いれば目視確認の必要はなく、検品作業があっという間
に完了します。ICタグで取得した情報を端末に送信すれば、わざわざ手作業
でデータを入力する必要もなく、作業時間を短縮しつつ入力ミスも無くすこ
とができます。この検品作業のデータ化で社内のビッグ・データが生成され
る仕組みができます。

この在庫に関わるビッグ・データに対して分析システムを導入することで、
将来の仕入予測を行ない最適な仕入管理を実現します。特定の人の経験則で
行なっていた作業も、ビッグ・データを活用したシステムを上手く導入する
ことで、誰でもできる作業にすることができるのです。

このテーマについてさらに詳しいご説明が可能です。
ご希望の方は萬屋までご一報ください。
contact@kaisha-yorozuya.support

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【MSIグループの仕入完了報告(抜粋)】

■『時間は存在しない』 カルロ・ロヴェッリ 著
■『仕事に関する9つの嘘』 M・バッキンガム/A・グッドール 共著
■『「盛り」の誕生 女の子とテクノロジーが…』 久保友香 著
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発行:「企業から人へのコミュニケーションを考える」
 合資会社MSIグループ(代表 市川正人)
下のアドレスにご意見・ご感想を頂ければ幸いです。
 bizcom@msi-group.org
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インターネットの本屋さん『まぐまぐ』を利用して発行しています。
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次号予告:
 第508話 『仕事の辻褄』 (3月25日発行) 
 10年程前に比べて、適職だの天職だのがより一層意識されるようになった
と思います。認知的不協和(または認知不協和)の観点から仕事の喜びにつ
いて考えてみました。

(完)