『イルミナティ 世界を操る闇の秘密結社』

「観ると、消される。」とポスターにデカデカと書かれているので、観てしまった私もあまり残り時間がないのかもしれません。2月初旬の封切から丁度一週間後の金曜日の夜。18時30分からの回をJR新宿駅に隣接しているミニシアターで観て来ました。23区内では、新宿・渋谷・池袋を含む5ヶ所5館で上映しているようです。新宿では1日2回上映されています。

 トランプの再選が争われた先日の選挙以降、所謂陰謀論・陰謀説がかなり広く話題になるようになったと思います。私は娘が米国国籍を持っていて現在米国に滞在し、大学生ですが、生まれて初めての選挙がトランプ再選がかかったあの選挙であったりするなど、何かと米国の普通の日常の中の選挙の話を知ることが多く、その観点から、「今回の選挙はどう見る?」とか「結果はどうなるんだろう?」などの話題を振られることがよくあります。その相手の一部には明らかに陰謀論的説明を期待しているケースもあります。

 私は陰謀論のことを殆ど知りません。中国共産党の存続が危ぶまれるようなタイミングで、東シナ海も南シナ海もキナ臭くなって、通称「武漢ウイルス」は(日本以外の)多くの国でバタバタと人を殺し、EUは移民によって『西洋の自死』でみる限り崩壊の道を歩んで…などと、リアルタイムの情報ではなく、一応の権威性はまあまあありそうな人々の書籍の情報を読んでみて、1年ぐらい過去の確定情報や裏情報を知っては、「じゃあ、今起きていることは、こういうことであるのかもしれないな」ぐらいの自分なりの仮説を立てるぐらいの関心しか湧きません。

 20年近く前から少額の金の積み立てもしていて暴騰相場をしっていますし、通称「武漢ウイルス」騒ぎの大暴落時にまとめて投資信託を買ったらやたらに膨張してくれましたし、留学時代の親友一家が香港に居るので、その生活と安否は一応気になりますし、馬鹿げた緊急事態宣言の空騒ぎで中小零細企業はその経営の明暗が明確に分かれて、私のクライアントの中小企業群のほとんどはここ最近見ることのなかった好況で潤っていたりします。そういう観点から、何がどうなっているのかの因果関係を考えることは頻繁にありますが、結果的に私の仮説やら推察が陰謀論と重複する構図を持っていることはありますが、基本的に所謂陰謀論の語彙を使って自分の考えをまとめたり表現したりすることはありません。

 そのような中で、この映画の存在を知り、一度、世の中で言われている陰謀論の総本山的な存在についての映画を観るのも悪くないかと思い、消されるリスクを取ることにしてみました。

 この作品のトレーラーは他のミニシアターでもそこそこ流れており、その内容は、「イルミナティは今でも存在しているのか…」のような質問で寸止めしているような映像や、儀式の再現ドラマのような映像を断片的に混ぜたりするなど、思わせぶりそのものです。おまけに「観ると、消される。」のですから、或る種、映画『エクソシスト』の公開時のような、おどろおどろしさに対する好奇心を煽りまくります。しかし、映画は完全なるドキュメンタリーで、イルミナティの創設者の情報から始まって、その階層の発達と儀式の定着、そしてフリーメイソンへの浸透から弾圧と崩壊と言った流れが延々と、そして、淡々と解説されて行きます。まるで学校教材の映像か何かのようで、非常に単調で、よくもこれを恥ずかし気もなく「観ると、消される。」などと煽ってでも売り込もうとしたものよと、販売側の厚顔に呆れさせられます。

 実際に、登場する歴史家やら研究家達は、全員異口同音に、創設期から僅か10年程度で強い弾圧や他結社との競合で崩壊した当時のイルミナティの現在に至る存続を否定しています。それも、「今まで、何度も尋ねられ、『今でも世界を支配している』という答えを期待している聞き手も非常に多いが、全くそんなバカげたことはない」的な回答ばかりです。

 しかし、秘密結社と秘密を纏う結社は異なり、前者は自分の関与さえ口にすることができないイルミナティのような組織で、後者は儀式や会合の内容を明かすことはできないもののメンバーであることはいくらでも公言できるフリーメイソンのような組織であると、劇中で解説されています。秘密結社の方は、誰もが自分の関与を口にしない訳ですから、存在もあやふやですし、元々カトリック協会の支配へ対抗するための個々人の啓蒙を目的としたものですから、思想さえ受け継がれれば、実質的に存在は存続していると見ることも一応できるでしょう。劇中の解説者達もその辺の事実関係の可能性を否定してはいません。単に昇進昇格するたびに何時間もかかる儀式を行なったり、胸にコンパスの針を当てられて木槌で打ちこまれて出血するようなことを今でも続けるような組織形態が現在も続いているとは考えられないという主旨を述べているだけとの解釈の余地を残した発言を重ねています。

 私は大学時代、成績優秀者として唐突に校長から「メンバーになった方が良い。推薦する」などと言われて、よく分からないままに「アルファ・カイ」(なぜか日本語のサイトを見ると「アルファ・サイ」と表記されていますが、私の知っている発音に忠実ではありません。)の入会の儀式に参加させられたことがあります。マントを着させられて、入会の宣誓を言わされて、「さあ、これからは、素晴らしい仲間が全米にいる…」と言ったようなことを言われて、何か総てを通して「はあ?」という想いで終わったように記憶します。それほどに、何かと言えば選ばれた人々でソサイエティを作りたがるのが彼の地の人であるように私は感じています。ですので、イルミナティと思想を同じくする人々や、それを敢えて懐古したり復元しようとする人々がいたとしても、私は全く不思議には思いません。そのようなものとして、多くの人々がイルミナティに言及したり、つながりを見出したりするのであろうと思われます。

 映画を観ていて、イルミナティのフクロウのシンボルマークが明らかに『約束のネバーランド』(通称『約ネバ』)のミネルヴァ氏の紋章のモチーフになっていたことを知りましたし、空中に浮かぶ選民たちの世界が映画『エリジウム』の「エリジウム」でしたが、イルミナティが当時の新大陸であるアメリカに作ろうとしたユートピアもエリジウムと名づけられていたことをこの作品で私は初めて知りました。ことほど左様に、ありとあらゆる所で、選民の秘密のつながりやその活動の物語にはイルミナティのイメージやモチーフが象徴的に流用されているのだろうと思います。それは、まるで、西洋文明の第二次大戦以降の物語で災厄をもたらすすべての元凶がナチスだと、イメージも貧困に散々言い続けられるのと殆ど変らない構図と思えます。

 1900円を取ってもたったの76分で終わる作品でしたが、私にはそれなりに発見が色々とあって一応観た甲斐はあったと思える作品でした。しかしながら、先述のような宣伝戦略にハマったせいか、はたまた単純に陰謀論を議論するネタを集めに軽いノリで来ただけなのか、たった76分の解説にも耐えられない観客はたくさん存在したようで、上映時間半ばで、立ち去る観客は数人単位で存在しました。

 元々私が観た限り男性7人、女性5人しかいない観客で、女性2人・男性1人の三人連れだけが全員20代前半の感じで、残りの観客は全部男女共に結構高齢の単独客でした。少なくとも四捨五入して還暦の私がまあまあ若い方ぐらいであったろうと思います。その限られた観客のうち、上映中のシルエットでみる限り、多分男性が過半数と思われますが、3、4人が去って行ったのです。割合だけで見ると、過去に私が劇場で観た映画の中で、これほど途中退場者が出たケースはありません。単純に、「勘違い客を集めてカネをぼったくってやろうマーケティング」の犠牲者であると見ることも一応できるものと思います。

 再度復習すべき程の内容はありませんでしたので、特に失望させられたわけでもない私もDVDは必要ないように思います。

追記:
 今までカタカナでしか知らなかった「イルミナティ」と言う単語が、「ナ」にアクセントがあり、英語の発音の常としてアクセント部分を伸ばしがちなので、寧ろ「イルミナーティ」がより正しい発音表記と知りました。考えてみたら当たり前なのですが、語源としては「illuminate」から作られた単語であることも一応の発見でした。「enlight」同様に「啓蒙」が「光」に関わることであるようで、日本語(/中国語?)の「啓蒙」が「蒙」を「啓く」ことであるのとはどこか対照的です。やはり「光」と「闇」的な対立軸で啓蒙を捉えなくてはならない文化であるのかもしれません。

追記2:
 この作品の原題は「ILLUMINATED: THE TRUE STORY OF THE ILLUMINATI」です。光で照らして人々を啓蒙する目的で名づけられたイルミナティを光で照らすことで真実の姿を暴く…と言ったタイトルで、照らす者を照らすのですからメタ的構造のなかなか優れモノのタイトルだと思いました。その妙が日本語訳に反映されていないのは、オドロオドロ・マーケティングの愚ほどではないにせよ、結構残念ではあるように思います。

追記3:
 陰謀論を散々仄めかしまくる面白さ全開の作品を探すなら、やはり『ROOM237』が私が観た中では最高であるように思います。この途中で劇場から去った人々には是非お奨めしたいように思えてなりません。