489 超AI実験

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経営コラム SOLID AS FAITH 第489号
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 ご愛読ありがとうございます。第489話をお届けします。

 米国では人種差別反対の暴動があちこちで起きているようです。銃を用い
た強盗やコカイン所持での前科5犯の黒人が、偽札を使っていると通報され
容疑者として逮捕されるのは当然と言えば当然です。地元警察は、事件当日
の段階では、激しい抵抗などを受けた場合、背後から首を絞める制圧行為を
認めていたとのことで、それが適用されたということだと考えられます。警
官は過去に何度も黒人やヒスパニックに対して逮捕時に銃撃をした人物のよ
うですから、彼にとってはルーティーンの行為だったのかもしれません。

 だから容疑者が死んでも仕方がないとは思っていません。しかし、実話に
基づく映画『フルートベール駅で』では黒人青年が逮捕前提でもないのに射
殺されています。他にも類似事件は山ほどあり、今回のケースはどちらかと
言えば、それなりに妥当性がある方だと考えられます。
 
 この事件を人種差別、特に黒人差別の許しがたい行為と捉える人々が多い
ようですが、原理的にはそうではありません。公民権運動の結果、政治的・
社会的に人種による差別は米国社会から事実上消えてなくなっており、「ポ
リコレ」などと呼ばれる「政治的適正」は、既に世界トップ・レベルぐらい
です。スタバのカップから「メリー・クリスマス」の文字が消えたのも米国
発の変化だったはずです。寧ろ差別是正のための施策が逆差別を発生させる
こともあるぐらいです。ですから今回の事件は差別の問題ではありません。
多くの白人の深層心理の中に潜む白人以外の人種全体に対する「嫌悪」が原
因です。
 
 良いお店はお客を選ぶとよく言われます。自分にとって望ましいお客が来
たらマニュアルで決められた以上のサービスをします。望ましくないお客に
は「塩対応」でマニュアルにある最低限のサービスのみで止めます。事業運
営の在り方として妥当です。日常の人間感情も同じです。嫌いな相手とはギ
リギリ公平が担保される範囲内で付き合うことでしょう。今回のミネアポリ
スの白人警官も、白人には好意を持って接し、有色人種全体には合法の範囲
で塩対応をしているだけと考えられるのです。
 
「好き」・「嫌い」の感情に対して、デモをしようと何をしようと何も変わ
りません。1862年の奴隷解放から1960年代の公民権運動で何人もの黒人リー
ダー達が変革を促しても何も変わらなかったのです。『私はあなたのニグロ
ではない』という映画を観ると、公民権運動が問題の根本的解消につながっ
ていないことと、「嫌悪」の対象が黒人だけではないということが非常によ
く理解できます。100年を経ても、社会制度変革も、数々の名スピーチも、
デモも暴動も全く現実を変えることがなかったという事実を学ばず、『私は
あなたの…』という優れた謎解きさえもありながら、なお落し所を見いだせ
ない米国社会の宿痾に呆れさせられます。
 
 今回の号はそんな米国で持て囃されているとそれなりに多くのビジネス・
パーソンが信じているらしいコーチングのアプローチについて考えてみたも
のです。パワハラ・モラハラ・セクハラなどのトラブルを回避するためもあ
って、注意したり叱ったりする上司が激減しています。中小零細企業でも自
分の身銭と身代を賭けた自分の商売を「社員が考えてやってくれている」な
どとオーナー社長自らが放置して、業績を悪化させているケースが散見され
るようになりました。なかなか興味深い現象だと感じます。是非ご一緒にお
考え下さい。ご意見・ご感想をお待ちしております。頂戴したご感想などへ
のお返事の目標納期は5営業日!!

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■脱兎見!東京キネマ『私はあなたのニグロではない』
 http://tales.msi-group.org/?p=1298
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その489:超AI実験

 S・ジョブズの有名なスタンフォード大学のスピーチの中に登場する「点が
つながる」という考え方は、彼が一旦退学したリード大学でカリグラフィー
を潜りで聴講していたことが、後にマッキントッシュに「フォントの選択」
と「字間の自動調整」を標準仕様にする発想につながった話で説明されてい
る。受講時点では全く無目的に学習して得られた知識が後にイノベーション
の重要な要素として表出したことが分かるエピソード。
 
 TEDのスピーチで知られるS・ジョンソンの『イノベーションのアイデア
を生み出す七つの法則』は一冊丸ごとこの考え方を掘り下げている。イノベ
ーションを引き起こす優れたアイデアは突然に閃いたりするものではない。
ゆっくりと一定の期間をかけて無意識の中に堆積した事柄が、互いに繋がり
あい、或るタイミングで意識上に現れる。ジョンソンはこれを「ゆっくりと
した直感」と呼んでいる。
 
 文中で何度も言及されるダーウィンは、南海のサンゴ礁を見て進化論を思
いついた。しかし、メモ魔であったダーウィンは自分で進化論の結論に至っ
たと考えている時点の数十年も前から、ノートの走り書きなどに進化論の考
え方を記述していた。活版印刷技術を確立したグーテンベルクやベンゼン環
の構造に気付いたケクレの著名な事例も同様だ。
 
 中小零細企業でも「社員をビシビシ鍛えられない今のご時世、社員には本
人の意志や考えを尊重するコーチングが必要だ」と言い出すオーナー経営者
が増えてきた。子供の教育でも「記憶重視」一辺倒の学習は時代遅れで、こ
れからはAIに淘汰されない能力を「探求重視」の学習で培うべきだと意見も
よく聞く。これらは今さら暗記モノではないとの理屈だろう。しかし、「記
憶」された知識のフレームワークなく大抵の「探求」は成り立たない。
 
 知識社会の到来だと言われ、読解力が話題になる中、文字で書かれた情報
をまともに読解して仕事を進められる人間は思いの外少ないことが分かって
いる。読解力は文字を読む能力だけを指すのではない。会話の流れや人の表
情や場の空気など、凡そ「コンテキスト」と纏められるものすべてを読み解
き理解する能力。幼少時から低い読解力をそのままに社会に出た人々の多く
は、多分中小零細企業に吹き溜まりやすいことだろう。
 
 内外の記憶装置に大した情報もなく、強化学習も為されなかったAIなら、
全く人間の脅威になることはないだろう。その自明の理ごと乗り越えようと、
長年入力情報が殆ど蓄積されていないばかりか強化学習も反復されていない
人間の脳から、「本人が良いと思う答えが一番」と無理矢理アウトプットを
引き出そうとする試み。そんな中小零細企業の社長に、私は「何かマッド・
サイエンティストのようですね」と笑顔で応じることにしている。

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【MSIグループからのPR】

今年は当コラムの記念号が二種類発行される
ほぼ4年に一度の節目です。

10月末日には、『21周年記念特別号』を発行します。
テーマは未定ですが、
「中小零細企業と生産性改善」が一つの候補となっています。
「中小零細企業の生産性改善」ではありません。為念。

さらに、その後、4号シリーズになった
『500話発行記念特別号』を発行します。
パッと話題になって、あっという間にブームが去った感じがする
「インサイト・マーケティング」がテーマです。

残念ながら、ブームは去った感じがしますが、
かなり重要なマーケティングのテーマです。
『回路明察』というシリーズで各種の事例をご紹介します。

そして、さらに、これらの「節目」と前後しつつ、
当コラムの創刊以来の大更改も並行して進めます。

ご期待ください。
 
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【MSIグループの仕入完了報告(抜粋)】

■『本物の教養を身につける読書術』 出口汪 著
■『危機と金(ゴールド)』 増田悦佐 著
■『吾峠呼世晴短編集』 吾峠呼世晴 著
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発行:「企業から人へのコミュニケーションを考える」
 合資会社MSIグループ(代表 市川正人)
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次号予告:
 第490話 『続・未明の野菜』 (6月25日発行) 
 以前ご好評を博した『未明の野菜』は親会社や元請会社、FC本部などの組
織に経営の多くの機能を依存している中小零細企業群の話でした。続編では
アウトソーサーに丸ごと依存している経営の在り方を考えてみます。

(完)