3月初旬の日曜日、と言っても、12時を過ぎていたので、正確には月曜日の未明、バルト9のロビー階のシアターから『アリータ…』を観終わってロビーに出ると、私を「『シティ・ハンター』を観に行こう」と誘った友人が待っていて、そのまま12時15分から始まる回を観ることにしました。12時5分の段階で上映開始10分前なので、既にシアターの入場が始まっていて、慌てて別階の大シアターに移動しました。
2月の初旬からの封切でまるまる1ヶ月が経っていましたが、午前2時丁度に終わる(1日4回の上映のうちの)後ろから二番目の回には、10人ちょっとの観客が居ました。勿論、大シアターなので、スカスカ状態です。知名度の高い原作とは言え、同じ『週刊少年ジャンプ』(リメイク作品である『エンジェル・ハート』の掲載誌は違いますが)には多数の人気作品が犇めいている中で、私はこの作品が決して嫌いではありませんが、所謂“大人気コミック”ではないとも思っています。
その作品でも日曜日の終電後のこの時間枠でおまけに雨の中をこの作品を観に来る(男女比がやや男性に偏った)観客が、封切からまるまる一ヶ月を経て10人以上もいることが少々驚きでした。観客に比較的若い層が多かったのも驚きの要因の一つです。どのような経緯でこの作品に関心を持つことに至ったのか、全く想像がつきません。
2015年には連載開始から数えてまる30年の各種企画が実現したとウィキに書かれていますが、私はそれらを知りません。この映画作品はテレビアニメの放送開始から30年を記念して創られたとのことで、原作コミックの30周年とはズレて二度目の30周年になっているようです。私は『週刊少年ジャンプ』を連載当時ポツポツ見ていて、概ね話の内容は知っていましたが、同著者の前作『キャッツ♥アイ』の方が端的に登場人物に女性が多いという一点でより好感を抱いていたために、知識量で言うなら『キャッツ♥アイ』に劣ります。
私がこの作品を観に行くことにした動機は、前述の『シティ・ハンター』の、というよりも寧ろ主人公の冴羽りょう(下の名前の漢字が表記できません)の大ファンである様子の友人の誘いだけです。映画をほとんど見ない彼女が、珍しく「観たい映画がある」とのことだったので、尋ねたらこの作品でした。もともと『アリータ…』を観に行く予定があり、偶然非常にうまく二作の鑑賞がスケジューリングできたこともあって、「では、観てみるか」と言うぐらいのノリです。
敢えて言うと、それ以外にも、この作品の舞台が現在の新宿になっていることや、噂で『キャッツ♥アイ』の面々も出演するようなことを聞いていたので僅かに関心が高まったこともあります。
主人公の冴羽りょうは女性に目がなく、すぐナンパしに女性に詰め寄りますが、その際に(巨根である故に)股間を大きく膨らませていることが多く、それを“モッコリ”と原作中では呼び習わしています。しかし、流石に今時映画にはできないようで、言葉では“モッコリ”が再三登場しますが、股間が大きく膨らんでいる映像は(私が認識する限り)登場せず、何となく、彼がアプローチする女性の肉体の豊満な様子を表現する言葉として(胸や臀部が)モッコリしているというようなニュアンスにも解釈できるように誤魔化されていました。テレビアニメ放映時はどのように処理していたのか観ていないので分かりませんが、残念は残念です。
実写映画の『ヤッターマン』では原作で頻出のオッパイポロリをまさか深キョンにやらせる訳にもいかず、妥協してしまっていましたが、それでも十分な再現性と面白さを持っていました。この作品は実写ではないので制約が少ないでしょうが、それでも配慮の結果行なったであろう“モッコリ”抜きを施した後でも、十分原作と同じ面白さを維持できていたように感じられます。
その面白さのほどは、先述の通り、原作への評価と変わらず私には「まあまあ」の域でしたが、舞台が新宿の各地である所が面白さを大きく増やしています。普段私が寝泊まりしているマンションのある新宿の、バスタ新宿では冴羽りょうとドローン群の戦闘が行われ、そこからバスに乗り込んで彼が向かったのは新宿御苑でした。そこでなお一層激しい戦闘が繰り広げられます。他にも都庁などは頻出しますし、歌舞伎町だの東口の駅ビルだのも登場します。歌舞伎町ではきちんとゴジラの生首もネタに使われています。さらに、ゴールデン街でも、特殊工作員部隊と冴羽りょうとの銃撃戦が展開しています。その前後では花園神社まで登場するのです。
ゴジラ映画などでリアルに再現された街並みが破壊されることは頻繁に見ますし、中でも新宿はよく登場しますが、アニメでガッツリ登場する新宿の街が、それも苛烈な戦闘シーンの舞台として登場することはあまりないように思えます。その意味では、非常にレアなアニメ映像集であると思います。
冴羽りょうに連絡を取る時は、原作では新宿駅東口の伝言板に「XYZ」と書き込むこととなっています。バスタ新宿も存在し、スマホもドローンもある現代を舞台にどうなるのかと思ったら、スマホを壁に向けて覗き見るAR画像で伝言板が存在するという設定になっていました。(物語の最後にリアルな伝言板も“復刻”されていますが…)その他にも虹彩による生体認証技術が登場するなど色々な“現代化”の処理が為されています。しかし、当然ですが、まるで『サザエさん』や『ドラえもん』の人々のように、登場人物たちは年を取ることがなく、それについての言及も全くないままです。(『こち亀』のように年齢のズレをわざわざネタとして取り上げるようなことも勿論ありません。)そんなこんなに全部目をつぶって観られるのが、最初の連載からずっと途切れなく継続している訳ではない作品の持つ強みであるかもしれません。
この原作に特段想い入れのない私が観ても、原作の世界観をよく“再現”、というよりも、“保全”している作品に思えました。変にCG化を極端に施したりせず、テレビアニメの際の質感がそれなりに残っているのも、優れた“保全”方針の一環だと思います。冴羽りょうとスイーパー稼業のパートナーの香は後に結婚しますし、パラレル・ワールド的なリメイクの『エンジェル・ハート』では冒頭の段階で既に香は死亡しています。まだ変に馴れ合っていない頃の主人公二人を最新の新宿を舞台に観られるのも、(ファンにとってはたまらない)この劇場作品の新鮮さなのかもしれません。
特段のファンではない私にも楽しめる要素がまあまあ見つかるのでDVDは買いです。
追記:
この作品の私にとっての際立ったマイナス・ポイントは主要悪役の声をエヴァンゲリオンの加持リョウジと同じ声優が担当していることです。香の幼馴染の彼はかなり長い尺で登場していて、香を口説こうとする場面も多いのですが、どうもミサトを口説き落としているシーンが連想されて仕方ありませんし、高層ビルの窓から景色を眺めているようなシーンの後では、裏の畑でスイカに水でもやりそうに思えてなりません。