426 最果ての蠢動

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経営コラム SOLID AS FAITH 第426号
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 ご愛読ありがとうございます。第426話をお届けします。

 長く冷たい雨が降り続いたり、大型台風が来たりするうちに、秋がどんどん
深まって行きます。光陰矢の如しとはよく言ったもので、あっという間に一年
が過ぎ、今年もあと2ヶ月あまりとなりました。そして、10月の末日が迫って
います。

 10月末日は当コラムの周年記念特別号の発行日です。今までPR欄でも何度
か紹介しているように、組織規模別に事業者の趨勢を将来にわたって予想して
みた内容です。個人事業者が増えて行くとの予想をしていますが、その理由と
その生き残り策を色々と考えてみます。過去の号で紹介されている考え方も大
量に盛り込み、総復習・総まとめ的な位置づけにもなっていますので、長らく
の読者の方々には、特にお楽しみいただけるのではないかと思います。
 
 今回の第426話『最果ての蠢動』は、首都圏のはずれに取り残され、時が止
まったかのようになっている商店街を訪れてみた話です。東京を中心とする首
都圏は、地方在住者からすると、どこも都会のようなイメージがありますが、
決してそのようなことはなく、昭和の中に未だにあるような街も多々存在しま
す。チェーンストアばかりが増えて、どこも同じようになってしまった、夜も
やたらに明るいいまどきの商店街が良いことばかりでもありません。一方で古
さが必ずしも尊重されるべき価値を伴っていない商店街も多数あります。
 
 金属プレートの看板がことごとく錆付いたような街にも、そこに息づく人々
がいて、その人々を見つめる的確な商売のあり方が見つかります。あちこちで
話題になる「人口減少地域の経済」とは異なり、「元々歩みが止まったままの
地域の経済」とそこでの事業のあり方は、文中に登場する街を訪れてみてから、
私の頭の中にしばらくの間浮かび続けていました。街の情景とそこで事業を営
む優れた店主の見立てを少しだけ紹介したいと思います。本文に対するご意
見・ご感想をお待ちしております。頂戴したご感想などへのお返事の目標納期
は5営業日!!

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その426:最果ての蠢動

 下車して降り立ったホームのベンチは今時珍しい背凭れが金属板の広告付き。
それも塗装がひび割れて中が赤茶けて錆びている。跨線橋を渡り人気のない駅
舎を出て、あたりを見渡す。或るパチンコ店の店長に会いに訪ねたこの町には、
常磐線の松戸駅から乗り換えて辿り着いた。日が傾きかかった時間のせいでも
なく、町は何となくくすんでいる。
 
 駅前のロータリーは信号を無視して進む老婆の自転車が二台以外に人も見当
たらない。駅から続く商店街のアーケードは所々トタンが剥がれ、街灯も電球
部分がなぜか取り外されているものが数個に一個ある。大手チェーンの飲食店
が数店。それ以外は30年昔でもあまり見当たらなかったような乾物屋や金物屋、
寝具店。汚れた自動ドア越しに見える棚には、CDよりも演歌のソフト・テー
プの方が多そうな音楽店まである。ショーウィンドウに段ボール箱を積み上げ
ている電気店もあった。時がどこかで止まったような商店街。
 
 アポまでまだ時間がある。あと数時間後に開店するピンサロの隣は、ガラス
越しでも中が見えない古い喫茶店。ドア横の壁の余白に「アラビヤコーヒ」の
文字がビニルテープで貼ってあった。入って軋む木椅子に座って、爆発コント
のカツラを被ったかのような白髪頭のマスターに、アイス・コーヒーを作って
もらった。数人の客は皆どう見ても70過ぎ。
 
 薄暗くなった頃、喫茶店を出てパチンコ店に向かう。数十年前からある商業
施設跡地に居抜きで入ったらしい。建物は明らかに老朽化しているのに看板だ
けが新しい。中に入ると、さっきの喫茶店と同じ客層で、遊技台の半分以上は
埋まっている。床も壁も、詳しくは無いが、明らかに今時の素材とは異なる。
トイレも和式ばかり。

「いやあ。競合店もあまり無いから、それなりに稼動は高いですよ。ウチも店
舗数の多いチェーンじゃないですか。本部が何かブランディングとか、そう言
った戦略に目覚めちゃったらしくて、ブランド・イメージを上げるようなPR
策を打ち出せとか、地域貢献の新たな活動を企画しろとか言うんですよ。けど、
ブランディングって、一体何をどうするってことなんでしょうね」と若い店長
が嘆息しながら言う。

「はあ。ブランディングですかぁ。私もよく分かりません。人口動態とか見て
いませんが、物凄い高齢者比率ですよね。ここまで属性が一様な市場はなかな
か見つかるもんじゃありません。お客の価値観や生活観にバッチリ合わせた、
超泥臭い販促策とか展開したら強烈な差別化になりそうですね。チャルディー
ニの返報性の原理とか、好意の原理とかガンと効くでしょうから、成りきって
割り切ってやったら結果出ますよ」。
 やり手と噂の店長は「ああ、面白いですね」と、不敵に笑ったように見えた。
 
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☆当コラムはプリントアウトしてお読みいただくと、より一層楽しめます。☆
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【MSIグループからのPR】

『経営コラム SOLID AS FAITH』18周年記念特別号、原稿完成!
発行は例年通り、10月末日! もうすぐです。

中小零細企業とICが、事業者全体における大きな割合を占める…
そんな時代が訪れつつあるように思えます。
ICは、Independent Contractor の略で、
「独立事業請負人」とでもいう感じの意味です。

その時、大手企業はどうなっているのか。
中堅企業はどうなっているのか。
なぜ中小零細企業とICがどんどん増えるのか。
そんなことを考えてまとめてみます。

もちろん、中小零細企業とICが増えると言っても
テキトーに好い加減な商売をしていては淘汰がほぼ確実です。
生き残りに成功する中小零細企業とICの事業のカギは
経営技術の徹底ではないようです。
なぜなら、経営技術の衰えと死は、じわじわと迫りつつあるからです。
小さな組織においては、確実に経営技術のニーズが減衰しています。

零細事業者の時代の幕開け。
零細事業者は急激に増殖した後に、
激烈な淘汰に曝されることでしょう。

競合も明確に分からないのが零細事業者ですから、
競合分析も競争戦略も全く役に立ちません。
他社との差別化も他社が見えなければ八方塞、
マーケット・セグメンテーションも人口減少で市場が縮小すれば、
分けるほどに売上も利益も落ちてしまいます。

近い将来の零細事業者の増殖の背景と
そこでの生き残りのカギについて考えてみることにします。
日本の規模別事業者分布についてのソリアズ流大胆未来予測。

ご期待ください。

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【MSIグループの仕入完了報告(抜粋)】

■『これ、いったいどうやったら売れるんですか?』 永井孝尚 著
■『ブリーフセラピーの極意』 森俊夫 著
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発行:「企業から人へのコミュニケーションを考える」
 合資会社MSIグループ(代表 市川正人)
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次号予告:
 第427話 『続・雪かき仕事』 (11月10日発行) 
 海外ドラマ『ライ・トゥ・ミー 嘘の瞬間』で見つけた欧米流の才能ある者の
義務について考えてみました。

(完)