増刊第4号 癒しのまじない

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経営コラム SOLID AS FAITH 増刊第4号
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ご愛読ありがとうございます。増刊第4号をお届けします。

全六回にわたり、『月刊フランチャイズ』誌に連載の『こころに効くコラム』
のオリジナル原稿をお届けする増刊号も、今回から後半戦です。今回を含めて
あと3号ほど、長い話にお付き合いください。

私が大学で担当する講義『職業を知る』のポイント紹介も、恒例となりまし
たが、巻末PR欄に掲載致しました。こちらの方も、前期の契約ですので夏休
みまでのあと数回の講義を残すばかりとなりました。学生の感想を募った所、
「非常にためになる」との評価のようですので、安堵しております。内容に関
しまして、ご意見やご質問がありましたら、是非、お気軽にご一報下さい。
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☆当コラムをより一層お楽しみ頂くために、プリントアウトの上、ご一読いた
だくよう強くお勧め申し上げます。
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増刊第4号: 癒しのまじない

正月休み明けに友人が言う。「休み中、久々にテレビの歌番組と言う奴を見て
いたけど、何か奇妙に感じることがあるんだ」。40代もうすぐ半ばの彼が言う
には、ディステニーやリスペクト、ビリーブなど、英単語の形は借りていても、
何やら道徳の授業で聞くような言葉が臆面もなくタイトルや歌詞の中に登場す
るというのだ。30代後半の私にしても、若い頃に聞き覚えた歌詞の内容は、ど
ちらかと言うと色恋沙汰が多かったように思える。そして確かに、ある種「プ
ラシボ効果」かも知れないが彼の指摘は外れてはいないように思える。

旧約聖書を読むと、昔の街は退廃している。ソドムとゴモラのように、その退
廃ぶりが神の怒りに触れ、街ごと消滅させられるほどである。時代公証はおい
ておいて、映画『十戒』のポスターには、白髭のモーゼが石版に刻まれた十戒
を振り上げている姿がある。あれだけ全身全霊を込めて石に刻み付けてまで銘
記しなくてはいけないことが、「盗むな」だの「嘘をつくな」など、小学生の
道徳の項目のようである。命を賭してエジプトを出て、人々に教え込まねばな
らなかったことがこの有様である。当時の人々は嘘をつき、姦淫をし、おまけ
人の命を奪うのが当り前の、余程酷い輩だったのであろう。

何年経とうと、何千年経とうと、どこまで行っても人は己の欲求に振り回され
つつ生きる生物であると私は思っている。だから、人々が口にする言葉の多く
はその時々に満たされない対象や、あるべきではないと戒める行為についての
ものとなって行くのではないかと思っている。そのように考えると、友人の指
摘するディステニーやリスペクトなどの言葉の頻出はどのように考えるべきな
のか。そうこう考えるうちに、恐るべきタイトルの曲を発見した。『気持ちは
つたわる』である。最早、英単語で雰囲気に意味をぼかして逃げることもしな
い。解釈や疑問の余地を一切排除した断言である。タイトルのみならず、リフ
レインにも含まれているため、何度となくこのフレーズが登場する。

インターネットやテレビゲームの普及を待たずして、核家族化や小型で安価な
家電AV製品の普及で家族が各々の部屋に篭るようになり、20年前に勤めてい
た電話会社では、「家族のコミュニケーションのお役に立つ」と言う親子電話
が、実は家族を同じ家の階ごとに、部屋ごとに分断していった。そして、当時
発売された独居老人等を対象とした電話機のネーミングが『あんしん』である。
私が敬愛して止まないコラムニスト、深代惇郎も指摘した何か乾いた恐ろしさ
を、私もこの名前に感じる。

ある私鉄に乗っていると、斜め前の10代後半の女性の携帯電話が鳴った。相手
は親なのか誰なのか分からないが、「ああ」だの「うん」だのの言葉を重ね、
「切るね」の一言で通話は終わった。「会話」未満の「通話」としか言いよう
がない。はずしていたイヤホンをおもむろに耳に装着し、彼女はトートバッグ
の中でもぞもぞとスイッチを押す。シャリシャリと聞こえて来たのは、『気持
ちはつたわる』である。おまけに彼女は小声で呟くように歌を口ずさんでいる。

都市部では登校拒否児童が増えたと言う。夕方になると下校後の子供達がどこ
からともなく出没して群れ遊ぶ環境は、確かに激減しているようだ。東南アジ
アの国々の「ルック・イースト」政策で、まねをしたいと言われる日本の町内
会の担い手は、十年ほど前からたいてい体も満足に動かないような老人で、下
部組織の子供会などは当の昔に存在しなくなったと実家の母が言う。一昨年の
超ヒットアニメのエヴァンゲリオンでは、親しくなると傷つけ合うことになる
のが嫌で、人と付き合えない状態を指してわざわざ「ヤマアラシのジレンマ」
と解説が入る。電車で見た彼女はどのような環境で育ったのか知るべくもない
が、電話の満足な会話もなく、電車では自分だけの音の空間を構築して、「気
持ちはつたわる」と唱えられた言葉は、まるで何かのまじないのようである。
悠久の昔、石に刻んで己の現実を否定したように、歌で終始反復すれば、言葉
を経ない気持ちの伝播はテレパシーの如くいつか可能になるのだろうか。

ある経営者に会って話をした。彼が言う。「いやね。知り合いの経営者の薦め
でね、最近評判の経営者セミナーに行って来たの。そこそこ人がいてね、内容
もまあまあの経済概況とか経営環境の話とかなんだけどね。驚いたのはさ、そ
の先生が講演後に会場の出口で待っている訳よ。それで、帰り際の人達と握手
したりしながら挨拶する訳な。その挨拶で何て言うと思う」。私は「『本日は
来場ありがとうございました』なんて言う月並みな挨拶じゃ、社長は驚く訳な
いですもんね」と考え込む。

「そこなんだな。その先生は俺の会社のこととか何も知らないんだよ。でもね、
暖かい大きな手で握手して、『大丈夫ですよ』と言うのさ。おまえ、コミュニ
ケーション屋さんだろ。参考なるだろう。勉強料くれよ」とタネを明かす。経
営上の何かの課題や悩みを抱える経営者が集るセミナー。そこで、講師が来場
者に伝える言葉、「大丈夫ですよ」。PLを見ずに、会社を訪問せずに、拙き
私は来場の経営者にこのように言う勇気はない。

人材紹介の実務担当者として会った中高年人材は、私の質問に尽くしどろもど
ろの状態で、アウトプレースメント会社に通って面接の練習をしていると言う
のに、根拠なくニコニコしながらおかしな応答を積み重ねる。それが彼一人で
はない。面接が終わって、「それでは、今の所、紹介できる案件が弊社にあり
ませんので、見つかりましたらまた連絡します」と告げると、彼らは一様に
「今日は長い時間をかけてお話を聞いて貰えただけで嬉しかったです。『いつ
か仕事は見つかる』と思っていれば何とかなると思います。やっぱり、思い続
けることが大切ですよね」などと明るく去って行く。

私が出入りしている会社に、「営業には自信があります」と大手企業を早期希
望退職した人が入社した。その中小企業の営業出身の社長が、「どんどん動か
ないと、数字が付いて来ませんよ」と何度警告しても、午前中は殆ど電話をか
けるだけで過ごし、一日に1件か2件のアポをこなしていた。1ヶ月後、社長
が低すぎると感じていた数字目標のハードルもクリアできず、退職に至った。
在職時に、彼は私に「真面目にやっていれば数字は上がると思うんです」と言
っていた。彼の「真面目」の定義は、もしかすると、「品行方正に毎日を過ご
す」と言うことだったのではないかと思える。

「仕事は見つかる」と念ずると仕事は見つかり、「契約は取れる」と暗誦する
と契約が取れるのだろうか。何かの宗教が流行しているのではないかと思えて
ならないことがある。ニュースに出てくる破綻した企業の経営者の弁で、「資
金は借りられると思っていたのに、銀行が『だめ』を出して」などと言うのも
あった。念じないよりは念じた方が良いだろう。忘れるよりは忘れない方が良
いだろう。

「気持ちが楽になるのと現実が変わることは、全く別のことだからさぁ」とこ
んな話をする私を、「夢のない奴だなぁ」と呼ぶ友人がいる。夢がなくても破
滅・破綻を回避できた方が良いと思うのは異常なことであろうか。
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<PR: 札幌学院大学にて『職業を知る』講義中!>
札幌学院大学(北海道江別市)の法学部にて、『職業を知る』と題して週一回
約200名の学生に対して講義を行っております。その一端を紹介いたします。
(ホームページでも紹介予定!…ですがのびのびになっております。)

5月31日講義 「キャリアパスを考える(2)
=「独立」・「フリーター」の選択=」
1 独立に必要な基本的要素は何か
2 独立に必要な費用項目にはどのようなものがあり、
どれぐらいの金額か
3 個人事業主、合資会社、有限会社、株式会社。
独立の際に取るべき形は、どのように決まるか
4 フリーターの収入と年齢別支出の関係は
どのようになっているか
5 フリーターが獲得できる職能とはどのようなものか

6月7日講義 「キャリアパスを考える(3)
=資格と求められる能力=」
1 資格にはどのような種類や分類があり、
その各々の有用性はどのように捉えるべきか
2 資格は具体的にどのように役に立つか
3 儲かる資格はあるのか
4 (新卒)新入社員に求められる能力とはどのようなものか

※ 詳細な内容にご関心を頂けましたら、メールにてご一報ください。
msi-group1@mbb.nifty.ne.jp
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発行:
「企業から人へのコミュニケーションを考える」
合資会社MSIグループ(代表 市川正人)

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次号予告: 増刊第5号 功名の対価(6月25日発行)
名前をつけること。その名前が売れて見ず知らずの多くの人に知られるよう
になること。そんなことに関して、『月刊フランチャイズ』掲載当時流行して
いた『陰陽師』をネタに考えたことをまとめた文章です。