SMAPの解散騒動から、「裏切者」扱いをするメディア全般の追撃に曝されているかのように見える木村拓哉主演作です。当然、封切当初からかなり「不人気」の謗りを受け続けていました。木村拓哉が主演する主人公は、どう見ても皆、木村拓哉に見えるというのがお約束ですので、「SMAP解散木村拓哉裏切説」を奉じる人は、この映画を観ればやたらに不快になるのかもしれません。私は劇場で『SPACE BATTLESHIP ヤマト』を観た時にも、特段、この点に関して不快感を持ちませんでした。
私は特にSMAPが好きと言う訳でもなく、木村拓哉が好きと言う訳でもなく、まあ、ギリギリ彼がいつも演じる(と言うのか、演じていないで素のまま…と言うのかよく分かりませんが)ぶっきらぼうの中に微かな含羞が漂うキャラには多少好感が持てるぐらいな感じです。おまけにこの作品は、原作も読んでいません。30巻にも及ぶコミックと分厚いパンフのどこかに書いてありましたが、全く関心を持ったことがないままに今日に至っています。
それでも、不人気で打ち切りが迫ってきた辺りまでに必ず観に行こうと思っていました。その理由は、単に戸田恵梨香の初アクション見たさ以外の何物でもありません。私は。『SPEC~警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿~』のシリーズをテレビシリーズから始まり映画に至るまで全作品を見て、戸田恵梨香のキャラがかなり気に入りました。設定も演出も久々に楽しめる作品でした。
戸田恵梨香は、『デスノート』シリーズ三作品の弥海砂役であった女優ぐらいの認識しか当時の私にはなく、自分が大好きな『ユメ十夜』のプロローグなどに出演していることも後にウィキで見るまで知りませんでしたし、まして、テレビ・映画にまたがるヒット作と聞く『LIAR GAME』も全く見たことがなくて、当然主演が彼女であることさえ知りませんでした。結局、彼女をまともに認識したのは『SPEC~』でしかありません。顔・スタイルその他、特に気に入るポイントも少なく、単純に『SPEC~』を面白くしてくれたやり手の女優さんと言う印象です。
その後、『予告犯』を観て彼女の芸達者さに気づき、DVDで観た『駆込み女と駆出し男』はまあまあで、同じくDVDで観た『エイプリルフールズ』の主役である対人恐怖症の妊婦は笑えました。さらに『デスノート Light up the NEW world』を劇場で観て、抑制の効いた脇役演技ですが、やはり、ミサミサのその後はこうでなくてはという期待通りの安心感がありました。過去まで遡って作品を観たいと言うほどではありませんが、「観る機会があればどんどん観よう」と言うぐらいの位置づけの名女優さんです。そんな彼女の初アクション、初剣劇と来たら、やはり見ておくべきかとずっと考えていました。
封切からは五週間以上。封切当初にGWがあって、その後もずっと「不人気」、「不発」と叩かれまくった割には、長持ちしている上映だと思います。金曜日のバルト9の夜10時からの回で、終電決定の時間枠であることもあって、私も含めて、観客はたった6人でした。暗くなってからシアターに入って来る客が多かったので、よく見られませんでしたが、概ね男女は半々で、年齢は皆30代後半以上と言う感じに見えました。派手なチャンバラ劇で有名なせいか、この時間枠でも、睡眠を目的に入ってきている客はいないようで、本編の最後まで見て、エンドロール中にきちんと(?)立ち去っていく客が半数以上でした。
監督は、今となっては『クローズZERO』シリーズ、『ヤッターマン』、『忍たま乱太郎』、『神さまの言うとおり』、『テラフォーマーズ』などなど、アニメの実写化専門監督のように感じられ、さらに、今回トレーラーを初めてみた『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』まで控えている状態です。しかし、この監督は『ゼブラーマン』シリーズや『テラフォーマーズ』にさえ醸し出され、『クローズZERO』シリーズでは全開の暴力表現やグロ表現で世界的に有名で、その手腕は元々『極道大戦争』や『新宿黒社会』などの極道映画を多作する中で磨かれてきたと言われています。そんな人物が事実上不死に近い剣客の物語を描けばどうなるかは想像がつきます。
「よくトレーラーで観る方が面白い映画」と言う表現がありますが、この作品はその真逆に近いぐらい、何度か観たトレーラーに収まりきっていないダイナミックさが存在します。特に、映画の比較的冒頭と末尾に設けられた1対100、4対数100と言った規模の剣劇には、圧倒的な迫力があります。この二つのシーンだけでも、この映画には十分観る価値があります。
間のストーリーもテンポがよく、2時間20分の比較的長い尺が全く気になりません。役者も私の好きな山崎努など安心の名役者さんが揃っていますので、滑らかに話が進んで行きます。また、登場人物たちに、正義を語る人もいなければ、自分の価値観を疑ったりする人物もいません。只管、皆、自身の価値観に殉じて行きます。これも、スピード感の要因の一つだと思いました。主な登場人物の衣装もド派手で髪形や風体にも特徴がやたらにあり過ぎで、時代劇の範疇に収まっていない気がしますが、こんな時代劇が時代劇の新たな魅力を積み重ねていくなら、『太秦ライムライト』で「5万回斬られた男」と呼ばれる福本清三氏が憂い想い、『なぜ時代劇は滅びるのか』と言う本まで出ている時代劇の未来は、あまり暗くないのかもしれません。
その福本清三氏が今回は刀研ぎ師として登場しています。『超高速参勤交代リターンズ』(だと記憶していますが)では、弟子に隠れて道場破りを買収して体面を保つ道場主を演じています。5万回切られた男も今は有名になって、切られる以前に、木刀を持ったり、研ぐために刀を手にするだけの役柄で十分になったのかもしれません。
楽しみにしていた戸田恵梨香は、登場シーンが痩せぎすで頬がこけた感じが強調される花魁姿なのはちょっといただけなかったのと、微妙に過去トラウマを語る場面に何か不自然感があったのが、多少マイナス面ではありましたが、劇中、事実上最強の剣士の役で、動体視力が悪い私には全くついて行けない切れ味の鋭い殺陣は、物凄い迫力でした。サシの戦いでほぼ不死の主人公に完勝しているのは、彼女だけですが、そのプロセスが納得できる斬撃戦になっています。
以前、この作品の宣材画像が発表された際に、木村拓哉の奮闘シーンの背景に戸田恵梨香が死体となって転がっているものが含まれていて、「戸田恵梨香の死亡が既にネタバレした」と騒ぎになっていたように記憶しています。戸田恵梨香の服装は色も紫で派手ですし、足も大胆に露出した特殊な和装ですので、土の上に散乱するその他の幕府雑兵の屍の中にあっても、明確に分かります。撮影の間中、ずっと本人が地面に突っ伏した体勢で転がっていたのなら、やたらにしんどかったことでしょう。
(撮影は冬なのに、多くの役者の衣装は薄く、ほとんど浴衣に裸足と言った状態なのに、皆、プロの役者として、きっちり演じていた…と言ったことがパンフに書かれています。)
楽しめました。木村拓哉はいつもの通り木村拓哉でしたが、パンフによると、元々原作のキャラの方が木村拓哉に似ているというようなことも書かれていて、或る意味、本当の意味での適役だったのかもしれません。エンターテインメント時代劇のアクション大作としてみた時、一級の作品だと思います。DVDは勿論買いです。