封切から約半月経った月曜日の午後3時40分からの回を、渋谷地区北西のはずれにある映画館で観て来ました。
今回は時間があったので、渋谷の喧騒を抜けて辿り着くルートではなく、新宿南口のマンションから小田急の南新宿駅に行き、各停で二駅の代々木八幡駅に行き、そこから15分弱歩くルートで往復しました。初めての試みでしたが、代々木八幡駅が工事中で上り下りのホームが完全に分断されている不便さを除けば、すんなり移動ができました。途中の神山商店街は「奥渋」の旗を掲げ、おしゃれな商店街の雰囲気を以前にも増して強めていました。(帰路では出版社と書店がセットになった面白い業態の店舗を見つけ、独自の書籍セレクションが楽しめました。)
この映画を観に行くことにしたのは、出演者の中にマイケル・ムーアが居ることを発見したのが大きいと思います。その前の時点で、このあからさまなタイトルに興味が湧き、映画の解説を読んでみることにしたことも、プロセス上のポイントだったと思います。比較的最近、堤未果の著書『政府はもう嘘をつけない』を読み、彼女の筆致が癖になりかけてきました。先行作の『政府は必ず嘘をつく』も読み、米国の政財官の癒着状態(ないしは、グローバル企業による政府の買収完了状態)に多少の見識を得ていたのが、この映画に関心を持つきっかけになっているのも嘘ではありません。
劇場に着くと、チケットが座席予約できる最新型になっていて驚かされました。昨年の10月からのこととスタッフが言っていました。以前この映画館に来たのは、『永遠のヨギー…』と『ポバティー・インク…』を連続で観た昨年9月ですから、それから1か月後には、このシステムが導入されたことになります。((座席指定を伴わない)ウェブ予約はその前の時点からできた気がします。)このような設備投資ができるぐらいの人気を博している映画館と言うことなのだと思います。
管理システムは変わりましたが、チケットカウンターなどのスタッフの面々はかなり固定的で、いつ来てもほとんど見る顔が変わりません。特に、1階チケット・カウンターのスタッフは、名演が光る『ストレイヤーズ・クロニクル』の松岡茉優に「本人がバイトに来ているのか?」とつい思わずにはいられないぐらいに激似で印象に残ります。
1日たった1回の上映しかされていません。シアターに入ると、30人ぐらいの観客が居て、男女共に主に私ぐらいの年代が多かったように思えます。
観てみると、解説にあった通り、MITの著名な言語学者であるノーム・チョムスキーの言う“政治技術”の「合意の捏造」などの考え方を軸にしつつ、朝鮮戦争からベトナム戦争で米国が揺らいだ時代に政府の嘘を独自有料メディアで暴き続けたI.F.ストーンの業績を紹介していく形になっています。その紹介も直接的にI.F.ストーンの時系列の業績紹介ではなく、マイケル・ムーアや、スノーデンの取材で知られるグレン・グリーンウォルドなど、数人の現在の活動がまず描かれて、彼らの口からI.F.ストーンへの言及が為される構造になっています。
面白い作品です。ここで描かれるホワイトハウスのプレス・カンファレンスは全くの茶番と言うことになっており、日本の記者クラブの閉鎖性や「大本営発表」と揶揄されるその内容はあっさり霞んでしまうほどの“お芝居”です。それと同時に、オバマ政権下での無人攻撃機による民間人の継続的虐殺や、9.11、ウォーターゲート、トンキン湾事件の情報操作による泥沼のベトナム戦争の開戦などなど、あらゆる政的疑惑を一通り見渡せる内容になっています。
しかし、それらは、まさにこの映画に紹介されるI.F.ストーンの後継者たちの努力によって世の中に曝されており、少なくとも私にとっては、細かな関連事実を除いて、あまり目新しいことでもありませんでした。そして、これらの後継者の中で、少なくとも劇中で見る限りにおいて、I.F.ストーンの当時の立場で為し得た偉業に比類するレベルに至っているケースは見当たらないように感じました。これならば、寧ろ、I.F.ストーンの半生を描くドキュメンタリー映画をストレートに作った方が良いようにも思えます。
そのように見ると、この映画の私にとっての価値は、孤高のジャーナリストであるI.F.ストーンを知るきっかけを与えてくれたことに集約されるように思えます。英文のウィキのページのをみると、冒頭のあらましに…
I. F. Stone (Isidor Feinstein Stone, 24 December 1907 – 18 June 1989) was an American investigative journalist and writer known as a man of integrity who was an inspiration to other writers, and an intellectual annoyance to the American right wing.
He is best remembered for the newsletter, I. F. Stone’s Weekly (1953–71), which was ranked in 16th place among “The Top 100 Works of Journalism in the United States in the 20th Century”, and was ranked in second place among print journalism publications.
とあって、湧き出る興味に面倒くささも忘れて本文の英文を一気に読み込むほどでした。この映画のパンフを買おうとしたら、「発行されていない」と、例の松岡茉優激似のスタッフが応えました。できればパンフで確認したかったことが幾つもあるので、DVDは買いです。
追記:
この映画は、オリバー・ストーンが製作総指揮を務めていますが、もしやI.F.ストーンの親類縁者なのかと思いましたが、ウィキなどの記述を見る限りそのようなことはないようです。