封切から丁度一週間経った土曜日の夜、9時45分の回をバルト9で観て来ました。今迄一度も見たことがありませんでしたが、バルト9の建物の1階のエレベータ乗り場の前にバルト9のスタッフが一人スタンバっていました。私の乗ったエレベータも、8人ぐらい居て、結構混んだ感じでしたが、このためにスタッフが待機している意味がその段階では分かりませんでした。ロビーに行くと、これから会場を後にする観客が溢れんばかりに居て、驚かされました。土日の終電前の時間帯に観に来ること自体が少ないのですが、過去に数回しか見たことがない、とんでもない混みようでした。
これから劇場を去る人々は100人を超えているかと言う勢いでしたが、これから見る人々もそれなりに居て、エレベータが何度往復しても、ロビーの混雑が収まる様子が見えませんでした。いつぞやの同様の混雑時には、「こんなに観客が居るのはどの映画なんですか」とスタッフに尋ねたら、『KING OF PRISM』と教えて貰ったことがあります。今回も同様に尋ねてみたら、そのスタッフは、困った顔をして1秒ほど考え込んでから、「たくさんあるんだと思います。満席のシアターが今日は続出でしたから」と言う答えでした。調べてみると、当日の封切には、『相棒』の新作がありますから、それ以外の準新作も含めた混みようだったのかもしれません。
封切一週間目の『LUPIN…』も、かなり人気があるようで、1日に5回か6回ぐらい上映しています。流石に満席ではありませんでしたが、シアター内には100人以上の観客が居たと思います。カップルなど複数連れの客が多く、男女もぐちゃまぜ状態でした。年齢層は若い方に偏っていて、20代後半に中心値がありそうに見えました。私ぐらい(/私以上)の年齢の男性はかなり少数派の方でしたが、ギリギリ1ケタに収まらない程度の存在感だったように思います。
非常に短い映画です。料金は1300円に設定されていますが、本編はたった54分しかなく、トレーラーなども含めた上映時間でさえ、9時45分開始で10時50分終了です。普通の映画なら終電時間帯の終了になりますが、この作品では、11時前に上映が終わります。短い上に、元々30分もののテレビアニメとして作られたのか、そのような雰囲気にするための演出なのか分かりませんが、全体が2話で構成されていて、唐突に『LUPIN THE IIIRD 血煙の石川五ェ門 前篇』と表示された時には、「やられた~! また、短い映画見せておいて、続きは一ヶ月後とか言う勿体ぶったアニメのパターンか!」と思いましたが、映画の中盤で、特にオープニングもなく、バーンと『…後篇』とタイトルが表示されて後半が始まりました。
私は、結構『ルパン三世』のアニメが好きです。テレビでアニメ放送が始まったのは1971年で、私は8歳でしたが、インターネットどころか、ビデオ録画の技術もない時代、テレビにしがみ付くようにして観ていました。ちょっとおかしな感じですが、私は当時、モーリス・ルブラン原作の『怪盗ルパン』シリーズを知りませんでした。アニメで『ルパン三世』を観ても、北海道の田舎町で、成人向けコミックの連載の週刊誌を読んだり、コミックを集めることもできず、『ルパン三世』はただアニメ作品としてだけ親しむことになりました。
それでも、作品がどんどん好きになり、何か関係のあるものを手に入れようと、買い集め始めたのが、ポプラ社のハードカバーの『怪盗ルパン全集』でした。『奇巌城』や『813の謎』など、10冊以上読んだと思います。シャーロック・ホームズの作品群は一切読んだことがなく、アルセーヌ・ルパンばかりを読んでいるのは、推理小説好きではなく、アニメ『ルパン三世』の影響からのことでした。
そんなアニメ作品も、(原作コミックに比べるとかなりマイルドになったとは言われているようですが)その後、ターゲットを若年層に移し始め、私は一気に興味を失いました。所謂ジブリ・アニメの原点で、宮崎駿の映画初監督作品として名高い『ルパン三世 カリオストロの城』も、第一シリーズのテイストがガッツリ入り込んでいる私には、何か全く別の作品にしか見えず、関心が持てませんでした。
そんな中、Movie Walker映画サイトに拠れば、「モンキーパンチによる原作の世界観に立ち返り、ハードボイルドなタッチで若き日のルパンたちを描いた『LUPIN THE IIIRD』シリーズの第2弾」となっているルパンの作品は一応観てもいいかなと思えました。ただ、第1弾の『…次元大介の墓標』の際も、「どんなもんかなぁ」と逡巡しつつ、他の作品を観ているうちに、上映が終わってしまいました。わざわざ、「劇場で見る必要はないかな」と言う思いやら、「第一シリーズの良さだけで十分じゃないかな」などと、「観よう!」と言う決断に至らなかったのです。
それでも、今回観に行くことにしたのは、丁度、最近、『芸道におけるフロー体験』と言う書籍を読み、武道の修行や実践におけるフロー状態について知り、さらに、その中に紹介されていたドイツの哲学者オイゲン・ヘリゲルによる『弓と禅』も読んで、日本の古武道の世界にあるフロー状態について、関心を持っていたからです。
その期待はかなり満たされました。巨大な鉞二丁を武器として戦うカウボーイスタイルの大男ホークとの戦いに一度敗れた石川五ェ門は、海面から高く屹立した巨岩の上で、サメに襲われたり、業火の真ん中で身を焼きつつ耐えたり、瀧行をしていて上流から巨大な材木が一本落ちてきて直撃したりなど、ありとあらゆる修行をトランス状態で重ねて、自分を打ちのめした敵に勝つイメージを練り直します。この修行がどのようなもので、石川五ェ門がどのような状況にあるかを語るのは、ルパン三世です。次元の方がボケ役で、「なんだぁ。あいつは何やってんだぁ」的な発言をするたびに、ルパンが「なるほど。全身の感覚を遮断することに成功したな」などと解説してくれます。
まだ、DVDを観ていないのでよく分かりませんが、『…次元大介の墓標』では、次元自身が仇敵と対峙する物語だったはずで、そこで決闘のような場面になれば、次元も今回の石川五ェ門と同様のトランス状態になったのではないかと思えます。そうであろうはずなのに、ボケ役一辺倒であるのには、少々違和感が湧きました。
結局、石川五ェ門は修行の末、視覚・聴覚などから入る敵の情報を判断して反応するのではなく、敵の動きを予知しつつ対応する動きを身につけます。これは多分、 「石火の機」や「啐啄の機」などと呼ばれる「情報の入力と運動の出力が同時におこること」なのではないかと思われます。それを答えとして用意した物語の設定も、それを全身の神経が輝き透けて見える画像で表現することも、ちょっとした感動があります。
面白いと思えました。DVDは買いです。ルパンが物語の軸に居るテレビ・アニメ第一シリーズとは少々趣が異なりますが、キャラ設定その他、第二シリーズ以降の子供向けの作品群とは明らかに一線が画されていて、好感が持てます。
不思議なのは、Movie Walkerに拠れば、「ルパンと出会う前の石川五ェ門に降りかかる試練」と書かれていることです。当然ですが、物語にルパンも次元も峰不二子も登場していて、石川五ェ門と明らかに面識がある設定になっています。なぜ、このような明らかな間違いが映画紹介欄に書かれているのかがよく分かりません。
シアターからゾロゾロと出てくる際に、20代前半の女性が連れの男性に「不必要にグロくて、面白くなかった」と執拗に不満を述べていました。ヤクザ組織を一気に切り倒していく石川五ェ門の見事な殺陣なども含まれていて、パンフにも見せ場として書かれています。敵を殺さず戦闘不能にする際に石川五ェ門は、敵が得物を持てないようにするために、腕を切り落とすことをよく行ないます。それが、この女性の不満の原因なのであろうと思いますが、アニメの第一シリーズは辛うじてギャグ・タッチで躱していたように記憶しますが、原作コミックなら、もっと容赦ない感じであったろうと思います。
(『ルパン三世 カリオストロの城』などのアニメ作品を指して、原作者が「ルパンは、女に手を差し伸べて助けて回ったりするような甘ったるいキャラじゃない」と言った趣旨をインタビューで語っていたのを思い出します。これが、今回のシリーズのテイストを原作者が維持しようとした理由とのことでした。)
件の若い女性は、その辺の所で、期待しているものが異なったのであろうと思います。