『日本で一番悪い奴ら』

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 上映開始からまるまる1ヶ月半。祝日の木曜日に観て来ました。「観に行きたい」と思いつつ、他作を優先していて、まだまだ上映しているだろうと高を括っていたら、関東でもたったの4館の上映、そして都内ではたった1館の上映の状態にまでなっていました。都内の1館は新宿のバルト9で、1日1回の上映しかしていません。おまけに日程を調べると、3日先までの上映予定が出るバルト9のサイトで、木金は上映予定がありましたが、土曜に至っては上映がありませんでした。まさに終映が迫っていると分かったので、先日の『二重生活』と全く同じ展開で、慌てて観に行くこととしました。木曜日。バルト9の1日1回の上映は深夜2時5分からでした。

 大学などの学校の夏休み中。金曜日は一応平日ですが、所謂お盆休み時期なので、深夜時間帯が気にならない客が多かったのか、200人ぐらいが入りそうなシアターには40人ぐらいは観客がいました。主人公の綾野剛のファンなのか、若い女性客が多く、その女性に付き合って来させられた(大半は財布係に見える)若い男性もそれなりにいました。

 ロビーには、『ワンピース…』、『シン・ゴジラ』、『XーMEN…』などの新作が目白押しの状態にもかかわらず、深夜っぽく、まばらな客足だったのに、どこから湧いて来たのか不思議なぐらいの客入りだったと思います。

 私がこの映画を観に行きたいと思った理由は、やはり、この映画のテーマです。有名な北海道警察(道警)の今尚きちんと暴かれることのないままの組織犯罪を(登場人物名は変更してありますが)かなり事実に忠実に描いた映画と言う点が、私にとって強い魅力です。

 道警の不祥事の後、警察の内部犯罪については、ちょっと関心が湧いて、道警を舞台にした『笑う警官』は映画館で観ましたし、道警の話ではありませんが、警察の組織内犯罪を描いた問題作として名高い長編映画『ポチの告白』もDVDで観ました。前者は、北海道の見慣れた光景が展開しますが、変に往年のカドカワ映画チックなわざとらしさがあって、「まあ、こんなもんかな」と言う感じの映画でした。後者はドキュメンタリー・ドラマ的なタッチは評価できるのですが、どうも冗長で疲れてしまった印象が勝っています。本作は、道警の最大の不祥事、と言うよりも、日本の警察史上、最大の不祥事である「稲葉事件」をかなり忠実に描いた映画と知って観に行くことにしました。そしてその期待は、全く裏切られることがありませんでした。

 私は警察組織を全く信用していません。勿論、警官の多くは相応な真面目さで職務に当たっているのだろうと思っていますし、献身的なエピソードなども探せば多々見つかるような職場環境なのであろうと思っています。しかしながら、昔売れていた『ケ〜サツの横はドブ』などの本に書かれている事実も本当でしょうし、自白ベースの犯罪でっち上げ構造もあちこちで書かれ言われて久しいにも関わらず、一向に改善したような話を聞いたことがありません。

 よく「右翼・自衛隊・ヤクザ・警察は看板を掛けかえれば区別がつかないほど似ている組織」と言われますが、コンプライアンスも情報公開もへったくれもない、中小零細ブラック企業のような組織なのであろうと言うぐらいの想定です。だから、悪の権化とも思いませんし、だから、道で警官を見ても、唾を吐きかけたくなると言うこともありませんが、「正義」だの「公僕」だの「市民を守る」だのを彼らに期待しても、その期待は高い確率で裏切られるんだろうと言うぐらいの想定と言うことです。それでも、贈収賄が止まない発展途上国の典型的な警官や、有色人種の大統領が現れても尚、差別感剥きだしに、黒人には暴行を加えずにはいられない米国の警官などに比べたら、まだまだマシだとも思っています。

 そんな組織の中でも、北海道の組織です。腐敗し無い訳がありません。よく「北海道の人々は大らかで…」などと観光で北海道を訪れただけの北海道ファンが語っていますが、全くの誤解です。高い離婚率、高い離職率、高い無職率、高い自己破産率、高い廃業率、低い学力などの固定的な数字を見れば、北海道の「民度の低さ」に普通は考え至るべきであろうと私は思います。『これでいいのか北海道札幌市』などの書籍にも克明に描かれる道民体質は、企業組織にあっては、社長が不審な死を遂げていつまでも車両事故を根絶やしにできないJR北海道や、ISOをガチガチにやっていても品質管理ができず倒産に至った雪印乳業などの例を見れば明白です。或いは、血税を大量に注ぎ込んでも破綻して二束三文にANAに売り飛ばされたエア・ドゥを見ても杜撰さは目を覆わんばかりです。そして、そんな道民の安全を守る道警です。

 本作を見ると、道警が如何に腐っているかがよく分かります。検挙する犯罪ごとに点数が決まっているのはよく知られている事実ですが、あろうことか、銃検挙の実績を作り点数を稼ぐために、暴力団やロシア船員などから銃を現金で買い上げては、検挙実績に入れているのです。そのうち、買い上げる資金が底をついてきます。すると今度は、検挙した覚醒剤を横流しして現金を作り、その現金で銃を買占め、検挙実績につなげるという、犯罪商社と言うしかない活動を延々と展開します。

 S(エス)と犯罪組織の中に混じりこんでいる情報提供者(スパイ)のことを呼んでいますが、Sの犯罪行為は事実上お目こぼし状態が長く続いています。警察のSでいれば犯罪をやりたい放題なので、「是非、Sにしてくれ」とやたらに裏稼業の人々が立候補してくる始末です。税関まで巻き込んで、覚醒剤100キロ以上の密輸をお目こぼしし、それを元ヤクザ幹部のSが運び役を買って出て、トンずらしてしまったところから転落が始まり、小樽でロシアの連中に盗難車を売りさばいているパキスタン人のSが溜め込んでいた大麻を横流しして、本来覚醒剤を受け取るはずだった暴力団と話をつけます。

 つまり、小樽の倉庫には、覚醒剤100キロ以上に金額上相当する大麻が警察黙認で普通に溜め込まれていたことになります。劇中に登場する薄野の街並みや小樽の運河付近の景色などが、これらの犯罪の存在をより不気味にします。トカゲの尻尾切りのように、実務担当で「銃検挙のエース」だった綾野剛演じる刑事が、落ちぶれて左遷される先は夕張でした。『笑う警官』の時は、劇中で複数回登場する左遷先は羽幌でしたが、今度の夕張はかなりリアルに雪景色が登場します。

 凄い映画です。この映画がかなり忠実に描いている2003年に発生した警察最大の不祥事の「稲葉事件」では、「エース」の稲葉警部は逮捕されて元上司は劇中同様に札幌市内の公園で自死を遂げています。そして、それより上の、事態を知っていたどころか、指示命令していた上層部は全員、何らのお咎めなく、それ以降も道警に勤務しているとのことでした。この映画は北海道でも上映されたはずですが、関係者はこの映画の制作と上映をどのように受け止めているのかに、関心が湧きます。

 観てみて、この映画の魅力をもう一つ発見しました。それは主人公を演じる綾野剛です。大学卒業時点から逮捕時までの26年間を描いていますが、初々しくオドオドした警察官振りから、ヤクザまがいの横柄な態度で薄野の街を闊歩する様子、そして、すべて失い夕張の田舎町の警察署でシャブに溺れおかしくなった初老の浮腫み顔まで、よくもこれほど同じ人間が26年分のありとあらゆる生活の切り口を外見で表現できるものだと、感嘆させられます。

 私にとって、綾野剛は『白ゆき姫殺人事件』の胡散臭いジャーナリストやDVDで観た『天空の蜂』の爆破犯もありますが、やはり、発破事故で同僚を死に至らしめたトラウマに苛まれる函館の男を演じた『そこのみにて光輝く』です。どれも、今回の主人公に通じるキャラの部分がありますが、ここまでの長い時間経過を演じたものではありませんでした。よくロバート・デ・ニーロの『レイジング・ブル』の劇中の(体重変化27キロに及ぶ)変化が話題になりますが、本作の綾野剛も体重面だけでも10キロの増減をさせ、組織犯罪にどんどんのめり込んで行く男の半生の瞬間々々の顔を演じきっている姿には驚かされます。DVDは勿論買いです。