『エクス・マキナ』

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封切から一週間弱の金曜日の晩。結果的に時々行くことになってしまっている、JR新宿駅に隣接しているミニシアターに観に行きました。上映館は都内でもほんの数館。おまけに、1日に2回しかやっていません。

封切から間もなく、金曜日の晩の回であることから、念のため、上映1時間前ぐらいにチケットカウンターに来てみました。予想と異なり、ロビーにも人はまばらで、示された座席表にも、小さなシアターの半分も購入済みの席がありませんでした。駅から近いとは言え、マンションに戻ると慌ただしいように思えたので、そのままロビーで上映開始を待つことにしました。PCのワイマックスは地下のロビーではつながらず、できる仕事の範囲に大きな制約がありましたが、PC仕事で時間を潰すこととしました。

待っている間にも徐々に「エクス・マキナ1枚」と言う客はカウンターぽつぽつ現れ、上映開始時点では、(ネット情報によると)100に満たない客席の6、7割は観客がいました。当初は主に30代から40代の男性が多く、女性客はまばらでしたが、上映開始が近くなるにつれて、多少、若いカップル客が増えてきました。女性の単独客も僅かに居ましたが、ほぼ全員40代以上に見えました。

この映画を観に行くことにした最大の理由は、やはり、流行の人工知能です。この作品の人工知能搭載の人型のアンドロイドだけでも過去に多数の映画作品の中の例がありますし、『her…』のような、OS型の人工知能なども多数の例があり、枚挙に暇がありません。そんな中でも、少なくとも日本の中で見る限り、人工知能は最近ブームになって来ており、数々の作品群の想定に現実が追いつき、部分によっては追い越してしまっている状態にあるように見えます。かなり明確に、SFがSFでなくなってしまっている時代における、人工知能モノを見てみようかと思い立った。これが、鑑賞の最大の動機です。

この映画のタイトルの「エクス」は、ex-wife などのように「元」と言う意味で、「マキナ」はmachine と同語源でしょうから「機械」と言う意味だと考えます。繋げると「元機械」です。元機械で今は何かと言えば、人間と事実上区別がつかない言動をするようになった(何を生命と定義するかにもよりますが)半生命体のような存在と映画を観ると分かります。

主人公のオタク系有能プログラマは、「ブルーブック」と言う劇中の世界で最も活用されている検索エンジン運営会社に勤めています。その社長は、雲の上の存在で、(どうも劇中で描かれる範囲では)ほとんど社内にも現れないような、幼少時からの天才プログラマと言うことのようで、広大な山林を所有し、そのど真ん中にある研究施設で何かを研究し続けていると社員は理解しています。その社長が、別荘で研究を進める特別プロジェクトに招く社員を抽選で決めるということになり、たった一人選ばれたのが主人公です。

NDAにサインをした主人公に、人工知能のアンドロイドのチューリング・テストをするのが一週間のタスクだと社長は告げます。ところが、何かおかしな屁理屈で、本来音声会話内容だけから人工知能をテストすることになっているはずのチューリング・テストが、実際に会って話をするという形で実施されます。女性型に作られたアンドロイドのエヴァには、顔面だけは肌色の皮膚部分がありますが、それ以外の部分は、『コブラ』のクリスタル・ボーイか何かのフォルムをベースにしたボディに一部妙にメカニックな四肢からなっています。それでも、主人公のオタク男は、一気に恋に落ちます。

別荘には、飲んだくれ変人社長とオタクプログラマと、エヴァしかいないのかと思っていたら、英語も全く通じない極端に無口な東洋人の若い女「キョウコ」が(メイド服など着ていませんが)メイドとして存在することが判明します。英語が通じないだけではなく、変に無表情で、まるでどのような言語も解さないような雰囲気を常に醸し出しています。

映画の中盤過ぎに、二つの事実が判明します。エヴァは最新型のアンドロイドであるものの、その一体だけが施設にあるのではなく、過去の旧バージョンの一群のアンドロイドがスイッチを切った状態で格納されていることです。途中まで見ると言われる前からすぐ分かるのですが、キョウコもアンドロイドであることも分かりますし、過去の(すべて女性型の)アンドロイドが自我を持ち、施設から脱出しようと半狂乱で軟禁された部屋の壁を手で叩き続け、腕がどんどん損傷していく記録映像なども登場します。

もう一つの事実は、オタクが抽選ではなく、狙って選ばれていたことです。彼のありとあらゆる思考や価値観は、ブルーブックを通じて分析され、好ましい女性のあり方を体現したエヴァができているということでした。ガールフレンドもいず、童貞である可能性も高い主人公があえて選ばれたのでした。そして、おかしなチューリング・テストは口実であって、実は、開発者の社長以外の外部との接点であるオタク男を“利用”して、どうやってエヴァが脱出を試みるかを観るのが、本当のテストだったのです。

エヴァは股間に実装されている穴にセンサを集中させてあるので、セックスによる快感も得られることになっていると、社長はオタク男に説明します。それを聞いても、オタク男はキスさえ満足にしない状態で悶々としつつ、エヴァと会話を“仕事”として重ねていくのです。そんなオタク男をエヴァは言葉巧みに惹き付け、嗾け、おまけに最後に止めようと試みた社長まで殺害し、オタク男を施設に残し、(本来オタク男を迎えに来たヘリコプタで)大都市へ去っていきます。去る前に旧作群を発見し、そのパーツを使って自分を人間型の見かけのボディに加工することまで行なう周到さです。

エヴァの思考の元となる情報はどこから来るのかと問う中で、オタクは自分で、それがブルーブックのホスト・コンピュータから来るものであることに気づきます。ただ、エヴァの様子を見ると、何か草薙素子のように常時ネットに接続されているような感じではなく、どこかの一時点までのブルーブックのデータを投げ込んでAIを成立させたということのように感じられます。つまり、エヴァのAIは、自ら投げ込むネタを見つけ学習をどんどん深めていく「ディープ・ラーニング」によって成立していないことになります。「ディープ・ラーニング」は今後の人間に近いAIの実現のためのカギとなっていると幾つかの書籍に書かれていますから、その想定になっていないエヴァが本当にオタク男を篭絡できるのかどうかは、少々疑問として残ります。

人工知能が登場する『トランセンデンス』や『ターミネーター』などの映画を冒頭で多数紹介して見せる『人類を超えるAIは日本から生まれる』と言う本には、AIが人間を超える汎用の知能になったとしても、「意思」を持ちさえしなければ、全く問題なく人間と共存できると言った主旨が書かれていたように思います。だとすれば、エヴァの先代達も、「監禁されている私の状態は間違っている。自分は犯罪被害者だ。脱失しなければ」などと、すぐ対立構図で人間(?)関係性を捉え、自分の主張を貫いて、それが言語で通じなければ実力行使に出る…と言った行動に出ることはなくて良かったように思えます。終いには人間に手を掛けてしまい、止めようがない状態になるエヴァを観ていると、米国映画の伝統的な(得体の知れないコミュニストやら東洋人やら宇宙人やら宗教テロリストやら)次々と手に負えない敵を設定していなければ物語も作れず、自分も語ることができない登場人物達の単細胞的短絡思考が目に余ります。

T.M.Revolutionの『INVOKE』のPVでは西川貴教が小さな個室で目を覚ました(多分)アンドロイドと言う設定になっています。まるで人間のように行動しているので、AI実装型でしょう。周囲を観察するうちに、隣接する個室にも自分と全く同じ“個体”がいることに気づき、おまけに、自分の体にはベッド脇の接続点からチューブ状と思われるコードが接続されていることに気が付きます。その事実を受け止められなかった西川貴教アンドロイドは、チューブを自分で引きちぎって自殺します。仮に意思を持ったAIが隔絶された研究場所の中で目覚めても、こちらの展開の方が、少なくとも私には自然に思えます。

不死で何度死んでも生き返る『亜人』の亜人達も、頭部を切断して残る胴体から離れたところに置いておくと、胴体から新たな頭部ができるところを目撃することになり、自我として「死んでしまう」ことになると説明されています。意思を持ち、どこまでも自分の存在を思考上で探求していくのがAI搭載のアンドロイドならば、自死を選ぶ可能性は結構あるように思えてなりません。

そのような想像をめぐらすきっかけを作った意義はこの作品にあるのですが、どうも、二元論的対立構図思考が、臭過ぎて鼻に衝きます。たった4分余で緊迫感と共に物語を俯瞰させる『INVOKE』のPVの方が、哲学的疑問を突き付けて来る名作だと思えます。

社長と相打ちになり、エヴァの逃亡を実現するアンドロイドのキョウコの役は、ソノヤ・ミズノと言う(ウィキで見ると)日系イギリス人女優が務めています。どちらも名字のような不思議な名前です。本作を観る前に流れていたトレーラー群の中にダンス系の映画『High Strung』があり、そちらにもこの女優は出演しています。珍しい名前なので印象に残り、気づくことができました。アングルにも拠りますが、ソノヤ・ミズノはかなりのタヌキ顔に見えることがあり、エヴァそっちのけで、ずっとキョウコが登場するごとにそちらばかり見ていました。

キョウコが何かモノでも喋るような、もう少々重みのある役だったら、判断は違ったでしょうが、『INVOKE』のPVにも劣るような中途半端に哲学臭く演出してみた感じのAI物語には、DVDを入手する価値が見出せませんでした。

追記:
他作品の上映もあり、本作の上映時間前に、ロビーに人が増えてくると、その暇もなくなったようですが、この映画館のスタッフ数名のうち男性2名は客の対応の必要がなくなると、すぐに私語を始め、非常に不愉快です。ロビーで時間を潰さなければ分からなかった、このシアターの欠点でした。