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月曜日の夜9時55分の回をバルト9で観て来ました。。
30分ほど前に、1階のエレベータホールに来てみると、エレベータからどう見ても20代の女性が溢れるように出てきました。9階に着いてみると、ロビーには入る隙間がないほどに20代女性を中心とした一群の人々が溢れ返っていました。好奇心に負けて、スタッフに「これだけ若い女性が入るヒット作と言うのは何なのですか」と尋ねると、「『KING OF PRISM』と言うアニメ作品ですね」との答えでした。バルト9でも1日1回ぐらいしか上映していないようなので、そのための集中かもしれませんが、偶然この場に居合わせなくては、全く気付くことがなかった、世の中的ヒット作です。
封切から3日目。『探偵ミタライ…』は、バルト9で、1日に7回も上映がされています。107分の尺で予告などを入れると、上映終了はほぼ12時。終電時間が気になる時間帯とは言え、シアターはがら空きで、暗くなってから来た客の数はよく分かりません(し、明るくなる前に去った客も結構いました)が、20人を超える入りではなかったと思います。
若いカップルが数組、あとは、比較的高齢な40代から60代と言った単独客が多かったような気がします。いずれにしても、『KING OF PRISM』の20分の1ぐらいのオーダーの入りです。
この映画を観に行った理由は、特に明確なものではありません。何となく、久々に推理モノを観てみたいと思ったということや、かなり端役とは分かっていましたが、好きな女優である谷村美月が出ていること、さらに、若い頃に好きだった石田ひかりの最近を観てみるのも悪くないと思ったことなど、細かな気になるポイントが意識野に上がった結果ではないかと思います。
映画のポータル・サイトにある「和製シャーロック・ホームズ」的な紹介も、少々私の関心を煽っているかもしれません。人間の観察ポイントと分析方法は商売柄、かなり関心が湧きます。
そんなことで、観に行ったこの作品は、及第点越えの秀作でした。良かったと思います。何が一番良かったかと言えば、飽きが来ないテンポでした。瀬戸内海にある幾つものシーンの描写と、次々と提示される一見無関係の殺人事件など。さらに、事件ではないのに、妙に意味ありげに強調される「水龍目撃騒ぎ」。そして、中盤に至ってもよく分からないタイトルの「星籠」の意味。なんだなんだと頭の中で右往左往するうちに、一気に解決に向けてストーリーは舵を切ります。これだけの中身を盛り込めば、もっと尺が伸びて、冗長な展開になっても不思議ありません。それがここまですっきりと収まっていて、観客を追いつかせもせず、置いてけぼりにもしない、絶妙な展開ペースだと思います。
ただ、細かな箇所では、「和製シャーロック・ホームズ」の部分で少々不満点はあります。実際のキャラ当て的な演出は、比較的冒頭の初対面の広瀬アリスに対して行なうだけで、たとえば、『シャーロック・ホームズ』のロバート・ダウニー・ジュニア演じるシャーロック・ホームズが執拗にキャラ当てを披露するのに対して、取ってつけたような一場面だけですし、観察ポイントも指輪の跡やらスカートに付いた猫の毛だったりと、結構当たり前な事柄です。
推理においては、ガンガン飛ばし、あまり解説がないので、尋常ではない推理力に見えます。特に私が好きな谷村美月演じる看護学校生のベビー・シッターの狂言誘拐劇を本人に会う以前から見破り、誘拐劇の現場に行って、いきなり過失で赤ん坊が転落事故で死んでいることを見破るなどは、尋常な推理力ではありません。
高校時代からその後十年間ぐらいの間に、金田一耕助シリーズを幾つか好んで読んだ時期があります。古谷一行主演のテレビシリーズの金田一耕助モノにちょっとハマったからです。(そのシリーズのテーマ曲は今でもiPODに入っています。)しかし、それらのどの小説よりも、その後に読んだ『金田一耕助さん あなたの推理は間違いだらけ』の方が圧倒的に楽しめ、この本を楽しむためのインプットとして金田一耕助シリーズを読んだぐらいの位置付けになってしまっています。『…間違いだらけ』には、金田一耕助の推理が、どれほどぶっ飛んだものであったかが克明に描かれていて、少なくとも私は、これを読んで余計に金田一耕助のキャラが好きになれました。そのぶっ飛びように比べれば、今回の主人公の推理は、常人にもまだまだ十分トラック可能な範囲に見えます。
わざとらしく、天才の脳の働き方を脳科学者として大学で講義している場面が早い段階で提示されますが、脳の働きがどれだけ速く統合的であったとしても、元々のインプットとして、合法ドラッグを注射する際には足の親指の付け根の指の股に行なうことや、食品ラップの芯を一目見て識別できるとか、瀬戸内海の海流の分析をする研究所が存在する事実とか、かなり細かな知識が事前にインプットされていなくてはなりません。
ウィキに拠れば、この主人公は、以前は脳科学者ではなく占い師と言う設定であったことがあり、さらにそれが探偵を経て脳科学者になったようです。どのような経緯を経て、主人公が広範な知識を得たのかが、今一つ不明なので、いくら情報の統合力がすごいと分かっていても、何か引っかかるものが残ります。
さらに、主人公を演じる玉木宏の演技がまた、必要以上にそれっぽくて、キャラとして意味不明な領域に陥っているきらいがあります。テレビをほとんど見ない私が観た玉木宏は『真夏のオリオン』と『神様はバリにいる』しかありません。『のだめ…』シリーズなども観ていないので、印象は薄く、観た範囲内では良くも悪くも描きたいキャラが分かりやすい気がしました。
今回は、インタビューに拠れば、IQ300越えの天才がどのように演じるかは自分にまかされたということらしく、「頭がよければ、言葉に詰まったり、ジェスチャーを色々したりすることなく、自分の頭の中ででき上がっている答えを、ストレートに断言するだけ」と言うような結論に達したと言います。それを映画鑑賞後に知ると、一応は納得できるのですが、ただ目を剥いてじっと立っているだけの場面などがやたらに目立ち、どんなキャラなのか読み取れないことが、多少の苛立たしさの原因になります。
玉木宏の狙い通り、つかみどころのない人になっているのかもしれませんが、つかみどころのない人と言うよりも、不気味な異常者のような印象があり、先に登場人物の誰かに、「天才とはこのような態度をするものだ」とか語らせておいてほしかったように思います。
ちなみに、私の知る高IQで200越えぐらいの男性は、こういう印象ではありません。情報収集やその処理、そしてアウトプットのへの反映が、ありとあらゆる面で高機能なので、会話をすると、二手、三手先のことまでバンバン話し、こちらの反応も即座に読んで、「それって、こういうことかな」「だとすると、こういうことだよね」などを畳み掛けるように話してきます。目を剥いて人の話を耳に入れながら棒立ちしているようなことはありませんでした。IQ200越えと300越えとでは異なる以上に、性格の違いは処理速度が速ければ増幅して表現されるのかもしれませんので、何とも言えませんが、頭が良ければ自己完結してどんどん考えつつアウトプットだけをぽつぽつするという方向ではなく、インプットも処理もアウトプットも、さらに、記憶への書き込みも引き出しも高性能に同時並行できるのではないかと思えるので、天才の表現が私には違和感がありました。
ファンとしては、谷村美月にもっと活躍して欲しかったですが、脇役としての安定感は満足できるもので、ぽっちゃりオバちゃんになった石田ひかりも一見の価値はありました。何やら若いのか老けているのかよく分からない年齢不詳の要潤も、やたら色々な背景を持っていて、結果的に事件を全部つなげてしまう、まさに「要」となっている役柄ですが、いつものごとくの好演故に何とか全体をつなぎとめることに成功しているように見えます。歴史ネタを混ぜ込んだところも、奥行きを広げています。
良い作品だと思います。推理モノと言う観点だけなら、付き合いで観た『相棒』の映画第一作を大きく超えて、『万能鑑定士Q モナ・リザの瞳』と比肩するか、ギリ少々及ばずぐらいの面白さはあります。DVDは買いです。