『セーラー服と機関銃 卒業』

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 日曜日の夜7時半の回を新宿の明治通り沿いの角川の映画館で観て来ました。封切から一週間少々。激しい雨の晩、一日に四回の上映で、どれほどの大人気かと思っていたら、シアター内には20人程度しか観客はいませんでした。

 上映館数も少なく、新宿でもこの一館しかありません。渋谷・池袋にも一館ずつ上映館があるようですが、お世辞にも多い館数と言えない状況で、封切一週間でこの程度の入りでしかないというのは、少々驚きでした。ネットの映画関係の告知などでは、一ヶ月以上前からかなり目立っていたように感じていて、往年の話題作の35年ぶりの続編なのですから、もっと人気があってよいように思えました。

 客層は、私ぐらいの年代層で男女比は6:4ぐらいの感じに見えました。概ね、35年前のオリジナルの方のファンが「一応押さえておかなくては…」と言った“義務感”で見に来ているとしか思えないぐらいの、実際の映画の内容とのミスマッチ感を禁じ得ない人々です。そして、私も間違いなくその一人です。

 高校時代から就職後数年にかけて、私は薬師丸ひろ子ファンを公言していて、当時の公開映画はチョイ役出演の『戦国自衛隊』まで全部見ています。写真集を買い集め、ひがな眺め、ファンクラブにも入った唯一のアイドルです。ネットもない時代に、彼女のグラビアが載った雑誌を田舎町で買い漁っては、そのページを切り取ってファイリングしていました。ファイリングもいつしか追いつかなくなり、段ボールにどんどん投げ入れておくだけになって、段ボールが二箱になった記憶があります。

 そんな中、『セーラー服と機関銃』は「カイカン」ばかりが有名になっていますが、私にとっては、当時のセックスもあればバイオレンスもある“活劇”の典型的作品でした。それぐらいに映画が人間臭かった時代で、当時の角川のドル箱女優の薬師丸ひろ子を主演に据えた、一応「アイドル映画」であっても、これら二つの要素を確実に入れるのが、映画の王道であったのだと思います。

 問題の濡れ場の方は、もちろん、薬師丸ひろ子のものではなく、渡瀬恒彦と風祭ゆきのものです。それなりにねっとりした描写でした。それ以外にも大人のしがらみ感が全体に漂っていて、その世界が女子高生の生活の中に強引に割り込んできてしまう違和感や抵抗感を薬師丸ひろ子の好演がうまく形にしているのが魅力の作品です。

※当時、(ネットのない時代でしたが)多くのオトナの人々が、タイトルから何らかのポルノ映画と思って観て、落胆したり激怒したりしていた話を耳にしました。JKではなく、「セーラー服」が性的な記号と既になっていた時代のことでした。

 前作の終盤、主人公の目高組組長の星泉は組を解散し、最後に生き残った渡瀬恒彦は堅気になると言って田舎に帰ります。そして上京して泉に会い来る途上で殺害され、その遺体確認のための連絡が警察から入り、泉は渡瀬恒彦の霊安所で口づけするエンディングでした。

 叔父が組長だった目高組を継ぐ設定もそのまま生きていますし、浜口組で機関銃を乱射した後に、自らの意志で目高組を解散する設定も生きています。ただ、細かく見ると、本作では、泉の父は早くから死亡している状態であったのに対し、オリジナルではヤクザの麻薬密売に巻き込まれて泉の父は亡くなったばかりであったはずであることなど、色々と設定変更が存在します。目高組の所在も本作では、地方都市の古い商店街で、そこに根差してミカジメ料で喰っている感じですが、オリジナルでは都会のど真ん中のような場所でした。(何と言っても、劇中に何度か新宿御苑駅近くの太宗寺が登場するぐらいですので。)

 また、渡瀬恒彦の死亡で、旧目高組は完全に元構成員を失いました。にもかかわらず、「組長の叔父の元組長にはさんざん世話になった」と言う名演技の武田鉄矢らの現組員は、元組長にお世話になったのに、組解散に至るオリジナル作の中の最大の危機の際にはどうしていたのかとか、その後、元構成員がいなくなった時点からどうやって集まってきたのかなどの整合性は全く顧みられていません。前作の設定を大枠で引き継いでいるぐらいの感じです

 ただ、設定は引き継いでいるのですが、どうも先述のオリジナルにあった人間臭さが本作では完全に失われていて、上滑りな青春映画になってしまっている感じが否めません。泉の背負った重さのようなものがほとんど表現されず、目高組改め目高カフェの店長となった泉の人助け業・町興し業へのかなり明るいノリが散見される映画です。一方で、組員達に面と向かってゲイ関係の有無を尋ねるオリジナル泉のスレた部分が失われ、ヤクザの兄ちゃんの上半身裸姿にもドキドキおどおどするのが本作の泉です。

 本作でも、泉を支え、死んでから泉にキスされるヤクザの兄ちゃんの(どうも、泉はヤクザとの恋愛を認めることがいやであるようで、ヤクザ者は死んでからキスするのが習慣のようです。)、水商売系の女との濃厚なキスシーンは一応存在しますが、それ以上の何かはどこにもありませんし、バイオレンスの方も、ドンパチは多々存在しますが、弾丸がただ飛び交い、当たれば死ぬ…と言った、或る意味記号的な打ち合いシーンばかりが目につくだけです。やはり、人間描写に難を感じます。

 それでも、社会風刺に感じられるような設定は幾つか見つかります。今回の敵役は街の外から進出してきたインテリ社会派ヤクザ集団です。このヤクザ集団のシステマチックなシノギは、違法建築の安値老人ホームをたくさん建造し、老人介護や老人医療の額を水増ししたり、違法で安価なサービスで実現することです。地方都市複数ですでに実績があるという設定で、事前に麻薬を売り撒いて、地元ヤクザ大手の浜口組のせいにでっち上げ、泉のカフェには住民運動でのヤクザ排斥を仕掛け、さらに、地元で高卒者の大量採用に打って出て雇用を作って見せ、おまけに自分の傀儡の男を市長選に出馬させ勝たせるなど、なかなかのやり手で、体系的な戦略を打ち出してきます。人口減少にあえぐ地方社会を見事に捉えた設定と言えます。

 この進出してきた組の再開発計画で商店街を潰されそうになり、憤る泉に対して、進出組の幹部が力説する主張が最高です。

「泉ちゃん。おまえらに、俺達を追い出す力なんかある訳ないだろ。俺たちにはどうにもならない弱点がある。それを突かれたら、俺たちは速攻、町から撤退するよ。わかんないかな。この町の人間が町を出ないで、じいさんばあさんの面倒を自分でみることだよ。町の若いやつが町を出ていくっていうんなら、じいさんばあさんの面倒を俺たちが看てやるから、どんどん金を振り込んできな…ってことよ」

 と言うような名演説です。この組のやり口その他は別として、社会構造的には、どう見ても、泉の感情論の方が稚拙で根拠薄弱です。

 また、既に解散しているにもかかわらず、扇動されて目高カフェを暴力団と見做し、目茶目茶に店を荒らし、「暴力団は街を出て行け」などと書かれた貼紙で店中を埋め尽くしていく、暴徒住民の姿は、今どきのヘイトスピーチなどにも観られるような行き過ぎた「市民活動」を想起させます。暴徒を停めようとして弾みで投げ飛ばしてしまった武田鉄矢は、その場で傷害罪で逮捕されてしまいますし、その後にどかたバイトから戻り、泉を励まし、カタギの道を何とか全うしようとしていた二人の若い組員は、その後、泉を庇って銃撃戦で射殺されてしまいます。裏社会と表社会を隔絶しようという社会的風潮の台頭は、とても現代的です。そのような点は先日見た『ヤクザと憲法』のお子ちゃま版と見ることもできる場面です。

 また、暗躍する進出組が密売するヘロイン入りクッキーは、どんどん町を汚染していきますが、その最初の目立った被害者は泉のクラスメイトのJKで、いきなりラリって、校門から飛び出し、轢死します。もちろん、泉の近くで事件が起きなければ、話が進みにくいという設定上の都合はあるでしょうが、高校生の麻薬使用は、麻薬の扱いがテーマとなっているオリジナル作でも、なかなか採用しにくい設定であったろうと思います。

 このように、結構現代の社会構造を反映したストーリー設定になって世界観が再構築されている所が楽しめるポイントかと思えます。ただ、現代の時代観になったのなら、JKビジネスやそれが可能になっているJKのセックス観や性道徳観(、ないしは、JKビジネスに見られるようなJKの記号的価値観)も反映されていて当然のように思いますので、薬師丸ひろ子同様にただ拉致されて縛られるのではなく、捕まって首吊りまでされる本作の泉は、それ以前に、何らかの性的暴行を受ける設定になっていてもよいようには思えますが、そこは先述のようなファンタジーの中に抑え込まなくてはいけなかった作品なのだと理解しました。

 観るべきところがある映画だとは一応思います。やたらに唐突に挿入される、射殺された叔父との幼少時のお祭り体験の回想や、学校の卒業と組からの卒業を何となく重ね合わせた変なイメージ画像のエンディングには、何か違和感を感じますし、つじつま合わせのように、本作の方の星泉に、有名な『夢の途中』を歌わせる臭さは鼻に付きますが、ギリギリ許せる範囲ではありました。

 泉を演じた福岡出身の「1000人に一人の逸材」と言われているアイドルの橋本環奈の表情は(薬師丸ひろ子に比べると過剰に明るすぎるぐらいに)生き生きしていて、意外なハスキーボイスも、魅力に感じられ、一応好感が持てます。

 ネットでは、そこはかとなく「大コケ」との評価も出てきている本作ですが、オリジナル作への愛着を持つ私は、設定上それに十分なリスペクトが感じられる本作も、相応には評価したいので、DVDはギリギリ入手要と言う風に思いました。