『Mr.マックスマン』

 封切からほぼ2週間。先週バルト9でまだ一日二度ほどの上映がされていたのを観て油断していたら、あっという間に都下23区内でも、三館ほどでしか上映されていなくなってしまっていました。そこで、何とかこの映画を観ようと新宿から最も時間距離が短く乗り換えも一回で行ける東武練馬駅至近の映画館に来ました。

 この映画館に来るどころか、この駅に降りるのも初めてです。新宿から池袋駅で東武東上線の改札に入り、ふと見ると、路線案内のどこにも東武練馬がなく、付近に駅員も居ず、かなり焦りましたが、各停の電車しか止まらない区間の中にある駅と、きょろきょろしているうちに分かりました。

 この映画館はイオンのSCに入っています。名前は「イオン板橋」で駅は東武練馬と言う、非常に覚えにくい組み合わせです。練馬区なのか板橋区なのかよく分かりません。品川駅が品川区になく、目黒駅も目黒区にはなく、荒川区には荒川は流れていないようなものかもしれません。

 駅から徒歩一分。5階のシネコンに辿り着きました。スクリーンが12もある巨大シネコンです。上映作品のメニューを見ると、大作を微妙に避けたり、大作もターミナル駅の大型シネコンなどが終映した後のタイミングを狙っていたりなど、地域のシネコンの“品揃え”戦略が感じられます。また、スタッフの着ているポロシャツを見ると、袖の目立つ位置に再春館製薬と書かれていて、(トレーラー前でも長いバージョンの広告が上映されていましたが)企業スポンサーがついていることの発見は新鮮でした。

 さらに、バルト9のように、サッカーの試合や舞台芸術系の作品を上映も行なうメニュー作りは知っていましたが、自主上映会への利用はもとより、個人向けに結婚式の上映会など、パーティーのイベントなどとしても使えるという売込みが上映前の広告で出るのも、初めて見たので非常に新鮮でした。映画館の従前のイメージに囚われない、ニーズ・ベースのサービス・メニュー作りの発想は、非常に新しく感じました。

 月曜日の午後8時5分からの回。設定理由がよく分からない割引が月曜日にはあるらしく、1100円の料金でした。観客は全部で30人余り。単独で来ている男性は、私を含めた比較的上の年齢層。女性はもう少々若い年齢層。カップル客はもっと若目の年齢層と言う構成だったように感じます。これはこの作品による部分が大きいのか、この立地による部分が大きいのか、封切からの経過時間による部分が大きいのか、全く分析の切り口が分からない客層です。

 物販のカウンターに行ってみると、この作品のパンフレットは品切れでした。次の入荷は未定と、妙に申し訳なさそうな殊勝な態度のスタッフの応対でした。「けれども、この上映って、多分、もうすぐ終わりますよね。だとしたら、次の入荷を待たないで、上映終了じゃないんですか。上映が終わった作品のパンフを売ることはあるんですか」などと尋ねたら、カウンターのスタッフはより苦し気な縮こまった態度で、事実上、パンフはもう手に入らないということを説明していました。もしかすると、相応に在庫していたパンフが飛ぶように売れてしまった後のなのかもしれず、人気がある作品なのかない作品なのかが本当によく分かりません。

 観に行った動機は、映画サイトの「うだつのあがらない局アナが、超人的なパワーを得られる不思議なメガネによってスーパーヒーローに変身し、悪に立ち向かう姿を描く」と言う説明が単純に気に入ったからと言うだけのことです。上映時間もたったの62分しかなく、B級感が濃く漂っています。元々、B級のSFは私はかなり楽しめます。『アイアン・スカイ』や『地球防衛未亡人』など、結果的な評価はともあれ、観に行っていますし、古くは(必ずしも、低予算作品とは言えないレベルだと思いますが)『ギララの逆襲 洞爺湖サミット危機一発』など、自分の中で評価の非常に高い作品も存在します。

 さらに、このジャンルの中のサブジャンルであるB級ヒーローものも、嫌いではありません。『スーパー!』のようなこれまた大好きな作品も存在しますし、過去には、『琉神マブヤー THE MOVIE 七つのマブイ』と言う沖縄のヒーローの作品も、(結果的に、噂に聞いていたテレビ作品の評判に比べて、今一つの内容でしたが、少なくとも足を運ばせるに十分な)相応の魅力は感じました。このシアターで上映していたトレーラーの中には、映画『日本ローカルヒーロー大決戦』と言う聞いたこともないB級感激しい作品のものも混じっていました。さすがに時間をかけ、この映画館に再度来て観たいとは思いませんが、少々関心は湧きます。

 考えてみると、この特撮ヒーロー・ヒロインモノは、本当に“文化”と呼べるぐらいの裾野の広さになっているように思えます。コスプレの質は止め処なく上がっていますし、特撮ヒロインモノと言うAVのジャンルまで確立していますが、その特撮技術のレベルは、先述の『琉神マブヤー…』ぐらいなら完全に凌駕しています。

 このような作品群の領域の中で、この『Mr.マックスマン』の制作の経緯が、パンフが買えないので、全く分かりませんが、自主制作と言うには予算がそれなりにかかっているものの、特撮もスーツ一パターンで原則済み、あとは光学的効果のCGなどで概ね完結しているので、通常の映画と言うほどの予算枠ではありません。(大体にして、通常の映画予算枠であったら、この程度の配給規模では大赤字の大失敗興業になっているものと思います。)素人目線の比較論で言うなら、『レッド・ティアーズ SWORD OF BLOOD』の方がやや大掛かりに見えます。

 金もあまりかかっているようには見えず、時間も短い作品でしたが、楽しめました。B級ヒーロー作品としては、ストーリー展開や設定などは、それなりによく考えてあって、天下のNHKが作った超B級怪獣SFの『長髪大怪獣ゲハラ』などよりは、よほどうまくまとまっています。

 主人公の男優はクセのない生田斗真と言う感じの、バンビのような眼をした男です。過去には何かの戦隊モノの主人公クラスを務めたということらしいですが、私には全くの無名の役者です。アナウンサーの役ですが、強烈な童顔・小顔で、ウィキにある実年齢の26歳には到底見えません。高校生だと言われても全く疑いを持てないように思えます。

 幼馴染の女性アナウンサー役で山本美月が登場します。役によってイメージが甚だしく変わるので、登場しても私にはなかなか認識できない山本美月ですが、『女子ーズ』の時と同様に、珍しく、初登場のシーンから認識できました。山本美月もかなりの人気のモデル出身者のはずですが、24歳の彼女の方が、主人公の童顔男に比べて、やたら老けて見え、さらに顔も大きく見えるのは、意外です。完遂には至りませんが二人のキスシーンがあります。その場面に見る二人の顔の対比では、痛々しいほどに山本美月が老けて見えます。

 この主人公の父親は早くに亡くなっており、遺影や回想シーンで登場するだけです。その父親は要潤がやっています。私にとってはDVDで観た『劇場版タイムスクープハンター』の印象が強く、かなり若い部類の役者に感じます。回想シーンばかりなので、まあ、OKかと思います。これに対して、同居している母の役は、鈴木杏樹です。テレビで観た記憶は遥か昔のものばかりで、まさか社会人三年目の設定の主人公と同居する母になって出てくるとは思いませんでした。ウィキによれば実年齢46歳なので、結構無理のある配役のように感じます。

 このように主人公一人を軸に周囲を見渡すとかなり配役上の不自然さが否めませんが、ストーリーや設定は、たった一時間のドラマにしてはそれなりにきちんとしていて、新たな能力に戸惑い、発動の仕方や扱い方に苦慮する主人公をきちんと描いているように思います。その本来の能力は、落下した隕石から入手したガラス上の板から発露するのではなく、板が触媒となって本人がもともと持っている能力を引き出すという構造だったことなどによるなどの設定も、うまくストーリーに織り込まれていて、「ああ、なるほど」とポンと膝を叩ける感じがしました。

 対する悪役は、背景には政治家などがいるのですが、直接的には元プロレスラーの(私は最近DVDで観た『偉大なる、しゅららぼん』にも出ていた)男がやっています。要潤も殺した殺し屋と言う設定です。このキャラは戦術にも長けていて、主人公が当初隕石から手に入れたガラス状の板を加工して作ったメガネで変身すると日記に書いているのを、日記を盗んで知り、早々にメガネを破壊して主人公を変身不能に追い込みます。

 ところが、縛られ倒れた主人公が奮起すると、メガネもなく縄を引きちぎって立ち上がり、おまけに今までにないアーマーまで身につけた完全体へと変身します。それを観た元プロレスラー男の一言が、「メガネ、関係ないじゃん」で、やたらに間の抜けた名言です。62分間の中で最高に笑わせてくれた一言です。対するマックスマンは、生身の人間の元プロレスラー男にやたら気合の入った見栄を必要とする強力な光線技を放って倒すのでした。爆発して無残に死ぬこともありませんでしたが、人道的にどうかなと思えるほどの、ギャップ感のある必殺技でした。

 特殊な力を身に着けたヒーローが、生身の悪役と戦うと言う設定は、アメコミにも色々あります。最近、私が少々嵌っているDVDの『フラッシュ ファースト・シーズン』でも、主人公は、超高速で動くことができ、骨折さえも三時間で治す治癒力を持ち、おまけに、超振動を体全体で起こせるが故に、原子レベルで壁などの障害物をすり抜け、光速に近づくぐらいの速度で動けるが故に時空間を歪め、タイムスリップまで(かなり大掛かりになりますが)一応可能です。それでも、多少の先進兵器を持った生身の人間に結構ひどい目にあわされています。

 そのような構図もうまく採用し、自分の能力を扱いかねる青年像を描いたという意味で、かなり馬鹿げているB級テイスト満点の映画ですが、私は結構好きです。DVDは出るのかどうか分かりませんが買いです。しかし、それよりも、品切れとなって、今後多分入手がかなり困難であろうパンフの中身にはもっと関心が湧きます。

追記:
 主人公の変身の掛け声は、「マックス、エキサイトメント」です。本人の興奮が起動のきっかけですので、そのまんまの意味で、アリなのですが、どうも、どこかのパチンコ店のスローガンのように聞こえて、笑ってしまいます。