『サイボーグ009VSデビルマン』

 封切から一週間半。水曜日の晩10時15分からのバルト9での回を観て来ました。一応コミック・アニメの名作のコラボものですので、かなりの人気を想定していました。上映時間はたったの85分。最近よくある、アニメやコミック、ケータイ小説などをベースにしたやたらに短く、時には連作モノとしていきなり登場する作品群の一つと言う印象があります。85分しかないので、10時15分に始まっても、ギリギリ12時前には終わります。一応終電前上映と言うことになりますが、シアター内には30人ぐらいしか観客がいませんでした。封切から間もあまりなく、平日、それも女性が割引になる曜日であることなどを考えると、意外に不調の作品であるのかもしれません。

 私は、『サイボーグ009』が、それほど好きではありません。好きではないというよりも、きちんと知る機会をリアルタイムで逃したというのが、多分事実だろうと思います。石ノ森章太郎作品(当時は石森章太郎作品でしたが)には、多数の名作があると思っていますし、『人造人間キカイダー』などはSFコミックの金字塔と言って過言ではないと思っています。また、全般的ではないものの、一部の仮面ライダーの世界観も、コミック・実写、いずれでも好ましく思っているものが存在します。

 そんな私が、『サイボーグ009』に多少の興味を湧かせられるようになったのは、つい最近になってからです。それは約三年前に映画で観た『009 RE:CYBORG』です。この作品で『サイボーグ009』の世界観の素晴らしさを知り、(コミックなどを買い集めるほどの情熱は湧きませんでしたが、少なくとも)今後何かの作品があったら見てもよいぐらいには思うようになりました。

 問題は、『デビルマン』の方です。『デビルマン』は原作コミックが人生で最大のインパクトのあった作品と確信できます。永井豪が現在も連載を再開している『激マン!』は、永井豪の過去の作品創作の経緯を描いた作品ですが、その第一部が『デビルマン』で、現在連載している第二部が『マジンガーZ』です。『デビルマン』の創作の経緯は、永井豪の人生のターニングポイントとなったぐらいの重大なものであったことが、作品を読むと分かります。それほどに、『デビルマン』はその後にどんなコミック作品も持ちえなかった破壊力を持つ作品でした。

 私は、テレビアニメの『デビルマン』とコミックの『デビルマン』のどちらを先に知ったのか正確に記憶していません。テレビアニメの『デビルマン』は、分かりやすい、子供向けの面白い作品でした。オープニングもエンディングも、後にアニメタル系のバンドが定番で演奏する名曲でした。デビルマンが分かりやすいフォルムにまとまっていて、「デビルビーム!」などと、いちいち技の名前を叫んで、敵を倒したりします。それはそれで嫌いではありませんでしたが、映画などでわざわざさらに見たいと思えるほどのものではありませんでした。

 やはり、悪魔である原作の『デビルマン』の圧倒的な魅力には全く及びません。一度、子供の頃に、『マジンガーZ対デビルマン』と言う映画作品を観たことがあります。多分、ビデオのない時代のテレビの映画の映画番組で観たのだと思います。楽しめた記憶はありますが、その頃既に心酔していた原作コミック『デビルマン』の世界観に比べ、あまりにもちゃっちく感じた記憶があります。当然ですが、ここに登場するデビルマンは、あの「デビルビーム」を出すデビルマンです。

 それ以降、『●●vs■■』と言う本来争うはずのないヒーローが対立する構図のコンボモノは基本的に期待感が湧かなくなったように記憶します。今回の『サイボーグ009VSデビルマン』を最初に知った時に感じた軽い嫌悪感はこのような背景によるものでした。それでも、この作品を観ようと思い立った最大の理由は、トレーラーで劇中のデビルマンが原作コミックにある程度忠実なものであるということを知ったからです。

 実際に観てみて、デビルマンの設定に関しては、満足できるものでした。作品の冒頭に、有名な対ジンメンの苦悩の戦いを配置するなど、ファンの望む世界観を熟知している感じがしました。対シレーヌ戦のように、不動明のちぎれた腕を、飛鳥了が拾ってくっつける設定まで、きちんと再現してくれています。牧村美樹も悪魔であるデビルマンの件のみならず、デビルマンの世界とサイボーグ009の世界が被り合って、両者が共闘しなくてはならなくなる設定も無理ないものに感じられました。そう言った点で、この作品は見事にできています。

 ただ、絵のタッチがどうしてもサイボーグ009側に寄っているように思えます。不動明も飛鳥了も、そして牧村美樹もかなり丸顔で、むしろぽっちゃり顔と言ってもよいぐらいになっていることには少々違和感が湧きます。

 コミック側の『デビルマン』の設定に依拠していて、ジンメンが先述のように冒頭に登場し、シレーヌは既に襲来しているかどうかは分かりませんが、対シレーヌ戦のように飛鳥了はショットガンを持ち歩いています。なぜか不動明と牧村美樹が通う学校は、東京都の山間部にあるようで、その山間部にデーモンが潜み、巨大な湖らしき物の中島には、サイボーグ009の敵であるブラックゴーストから排斥された科学者の秘密研究基地が存在します。

 コミック版『デビルマン』の世界観で言うと、舞台は違いますが、デーモン族が大挙して、無差別合体を仕掛けて来て、人類が自滅へと暴走し始める前の段階と言うことになります。その時、サイボーグ009の人々は何をしているのか訝しく思えます。銀幕で動く牧村美樹を観るのは初めてでしたが、自宅に暴徒と化した周辺住民が襲い掛かり、弟が斬首されるのを目の当たりにし、「魔女」として、暴徒に輪姦され、惨殺・斬首される牧村美樹の一生の中に、これほど明るい日々があったことになっているのは、何かほっとした気分にさせられます。

※コミック版『デビルマン』の中で牧村美樹は暴徒に襲われますが、輪姦のシーンは存在しません。しかし、『激マン!』によれば、永井豪はそのシーンを描いたものの、少年誌の制約から、牧村美樹が蹂躙され引き裂かれるイメージに変更した経緯が述べられています。永井豪は致し方なく、そのような表現で、輪姦・惨殺・斬首されて行く牧村美樹を描いたというのが事実です。

 面白く見られる作品なのですが、登場人物が総じて多いせいか、デビルマン側の描写よりも、サイボーグ009側の描写が割合として多いように思えます。デビルマン側のファンである私には、少々残念な部分です。

 また、この映画には一点、おかしな所があります。それは、作品自体がテレビシリーズのような短いエピソード三本分をつなぎ合わせて作られていることです。形式としては『ロボットガールズZ』もそうでした。しかし、『ロボットガールズZ』とは異なり、この作品の三本のエピソードには、いちいちオープニングとエンディングが主題歌と共に流れるのです。つまり、オープニングもエンディングも合計三回繰り返されているのです。たった85分の作品なのに、その1、2割ぐらいはこの部分に費やされているのではないかと思えてなりません。馬鹿げています。

 単純に三本の本編をつないで、流すだけでよかったように思えます。上映時間が一時間に満たない『そらのおとしものFinal 永遠の私の鳥籠(エターナルマイマスター)』の事例もあります。なぜこのような構成にしたのかが全く分かりません。

 観るべき価値は間違いなくあったのですが、再度DVDで執拗に繰り返すオープニングとエンディングの映像を観たいとは思いませんし、時間長から考えた時、コスト・パフォーマンス的に乗り気にならないので、DVDは要りません。