『ターミネーター:新起動/ジェニシス』

 7月10日の封切から既に一ヵ月半。月曜日の夜、12時に終わる回を観に行って来ました。テレビでの広告などに始まり、各種媒体に広告が出ているので、上映は長持ちするであろうと、高を括って、一ヶ月近く後に公開された『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』を先に観ました。実際、新宿バルト9でも長い間、一日にかなりの回数やっているようでした。

 8月の半ばを過ぎてふと気づくと、バルト9でも2Dのみ一日にたった二回ほどの上映になっていて、急ぎ観に行くこととしました。急激な上映回数の落ち込みは、余程の不評が疑われます。確かに、雑誌で読んだレビューは余り芳しくありませんでした。

 ぎりぎり夏休みが終わる前の終電時間の終了の回。小さなシアターに観客は8人しかいなかったように思います。そのうち6人は二人連れで、若い男性の組み合わせが二組、中年過ぎた男女のカップルが一組でした。私ともう一人、とんでもない肥満のおっさんが残りの二人です。

 そのうち、二人連れ三組の6人は楽しめなかったのか、エンドロールが始まると早々に席を立って帰って行ったので、エンドロール後にちょっとだけ存在する話を見ないままに去ったことになります。私と膨張したおっさんだけが全編完璧に観たようです。

 何がそれほど不評だったかというと、多分、ターミネーターっぽさが描かれた映画ではなくなっていたからだと思われます。勿論、ターミネーターは登場します。おなじみのT-800も古いままのアーノルド・シュワルツェネッガーが特撮で再現されていて、『T4』の際のただボーっと突っ立っているだけではなく、おっさんになったアーノルド・シュワルツェネッガーのT-800とバンバン戦ってくれます。

 これ以外にも、T-1000はなぜかアジア系の警官になって登場しますし、さらに、(パンフに拠ればT-3000と言う新型ターミネーターですが)どうも、ターミネーターと呼んでいいのかよく分からない、ナノマシン的な細かな粒子で細胞レベルから人間のように再現されていると言うおかしな敵が話のメインストリームでずっと敵であり続けます。スカイネット軍の方は未来世界で他にも2、3種類の機械を投入し、人類と戦っています。タイムスリップが二度三度反復され、行く先々で何なりかの他の映画では余り観られない様相の戦闘が展開します。それはそれで見せ場となっていて、少なくとも、私は一定レベルまでは楽しめました。

 それでも、世の中的に不評であったらしいのは、やはり、一つの時間軸の中での戦いの各々にターミネーターの人間の常識を超えた執拗さが感じられなかったからではないかと思います。『T1』のT-800、『T2』のT-1000、そして『T3』のT-Xは、その伝統をきちんと守っていて、「ああ、もう、しつこい奴だ。何やっても時間稼ぎになるだけかよ。これ、どうやって倒すんだよ」と言った無力感や焦燥感を観る者に与えてくれます。

 群像劇っぽくなった上に、だらだらと長いテレビシリーズ『ターミネーター:サラ・コナー クロニクルズ』は全く見る気が起きず、『T2』からこのテレビシリーズを経て『T4』につながる最終的なつながりは、私からすると、先述の伝統を無視した『T4』がくだらなくて、完全シカトです。やはり、ターミネーターの伝統的な面白さが維持されているのは、『T1』から『T2』、『T3』に至る三作品だと思っています。

 その観点から見たとき、この作品はギリギリ及第点をクリアした感じに見えます。ただ舞台がコロコロ変わるので、終わりがないかに見えるターミネーターの執着が十分に描かれないのです。それでも、私からすると、マザコンのジョン・コナーが率いる中途半端にヒューマニスティックな戦争映画にしかなっていない『T4』よりは大分ましです。

 カイル・リースが助けに行ったサラ・コナーは訳も分からずわあわあ逃げ回るウェイトレスではなく、(『T2』のムキムキのサラ・コナーほどではありませんが)バリバリに戦闘体制になっていることも、彼女を守るためのT-800が彼女が子供時代に何者かによって送り込まれたことも、このターミネーターの新シリーズの今後の作品に謎解きが持ち越される伏線的設定のようです。サラ・コナーはぽっちゃり系の微妙にタヌキ顔をはずした見慣れない女優が演じていますが、一応好感が持てます。

 それに対して、カイル・リースの方は、『ダイバージェント』に脇役で出ていたような気がする男です。脇役なら気にならずに済みましたが、この男はやたらに顔がでかくてとても目障りです。おまけに劇中でもお世辞にも知的とは言えない役回りなので、最初から最後までウザイ感じで、ターミネーターの伝統が軽視されていることに次ぐ、この作品の減点要因です。(そう言えば、『ダイバージェント』もぽっちゃり系のあまり売れていないヒロインが主人公でした。ぽっちゃり系の地味な子を引き立たせるためのウザさなのかもしれません。)

 歳月を経ると、人間の生体組織である外装だけがどんどん老けて行く設定になっているT-800の年寄りアーノルド・シュワルツェネッガーは、カリフォルニア州知事を務めても尚、変に訛っていてぼそぼそした英語のぎこちなさが、T-800にぴったりでした。本人も楽しんでやっているような余裕が感じられます。(それが戦闘シーンの緊張感を殺いでいる悪要因でもあるように感じられますが、)一応、観ていて安心感があります。

 既に、ジョン・コナーも、サラ・コナーも、サラ・コナーの実質的な育ての親であるT-800も、ジョン・コナーがカイル・リースの子供であることを端っから知っています。なので、時間を越えてカイル・リースが現れると、T-800は「結合しないのか」と二人に何度もセックスするように迫ります。しかし、おかしなことに、T-800はかなりの学習能力があるはずであるのに、セックスをどのようにするかをきちんと理解していないようで、ちょっとした時間、二人から離れていて戻ってきたら「結合はしたのか」と尋ねたりします。これがちょっと笑えると言えば笑えるネタになっています。

 ただ、折角の笑えるネタも、この「結合」が英語のmateの翻訳だと分かると、ちょっと白けてしまうのです。mateは私が知る限り、動詞として人間を主語として使うと「結婚する」ですが、同じ動詞として動物を主語とすると「交尾する」です。劇中では、明らかに結婚する意味ではなくセックスする意味で使われていますので、T-800が何度も言う台詞は「交尾はしたのか」になるべきだと思います。これをアーノルド・シュワルツェネッガーのあの無粋な顔で何度も言われたら、なかなかおかしかったのではないかと思えます。全くピントのずれた公序良俗的な配慮で、折角のおかしさを損なってしまっているのが残念なポイントです。

 字幕の問題で言うと、T-800が何回か言う否定の返事negativeの訳も、単に「違う」のような工夫のない表現だったような気がします。よく軍隊などでも使うらしいこの返事は、日本語でぴったり来る言葉がぱっと考えてみても思いつきません。それほど、無味乾燥な語感が、T-800の台詞としてフィット感があったのですが、それも損なわれているのが残念です。

 ターミネーターの映画作品では、ギリギリの面白さですが、『T4』のゲンナリ感は受け継がなかったまあまあの作品だと思います。DVDは辛うじて買いです。

追記:
 猿の惑星の新シリーズでは「ジェネシス」と普通に発音したのに、「ジェニシス」とは何ぞやと思っていたら、新シリーズだよと言う意味(も掛けているのかもしれませんが)ではなく、スカイネットが世界を支配するプラットフォームとなった、タブレットにもPCにも、さらに工業系の装置から各種スマート系家電製品などにも共通に使われることになったOSの名称と言うことでした。スカイネットにも時代のIT環境を反映した設定がなされているのが、ちょっと面白いポイントでした。