『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』

 水曜日の夜9時55分からのバルト9の上映で観てきました。封切から四週間弱。まだまだ人気は衰えません。バルト9でも、2D字幕・3D字幕・3D吹替えまでレパートリーがあって、全部合計すると、一日10回程度は上映していたのではないかと思います。

 それでも、真夜中を30分も越える終了時間故か、多分、バルト9でももっとも小型のシアターで、10人少々の観客しかいませんでした。男女合わせて若い観客が多く、私が一番年長であるように見えました。二人連れ、カップル客が二組はいたと思います。

 この映画の前作が、『日本よ、これが映画だ』とか言う、呆気に取られるほどの自己チューなコピーを掲げて、メディアと言うメディアで大宣伝をしていたのを振り返ると、今回は少々人気が陰る速度が大きいように思います。ただ、前作がよく分からない異世界からの侵略だったのに比べると、今回は地球の人間世界の話だけで、おまけに敵役も、新たに自分たちの仲間に加わる助っ人も人工知能の産物…と言った展開ですので、話の飛躍が少なく、私は、前作より多少好感が持てるように思いました。

 この映画を観に行った理由は端的に言うと“惰性”とか“義務感”だと思います。特に何か期待してワクワクするような動機は全くありません。単純に、『アイアンマン』シリーズも、『マイティ・ソー』シリーズも、『キャプテン・アメリカ』シリーズも、『アベンジャーズ』の第一作も観て、このパンフに拠ると「マーベル・シネマティック・ユニバース」と呼ばれている世界観をまあまあよく知っている状態になっているが故に、新作が出れば収集しなくてはと考えるようになっているだけであるように感じます。

 もちろん、いつものスカヨハへの期待などもありますが、その気持ちさえ、反面はスカヨハ出演作品のコンプリート度合いを上げるための義務感と言う部分が多いように思います。今回は、『アイアンマン』シリーズのグウィネス・パルトロウも全く登場しませんし、『マイティ・ソー』のナタリー・ポートマンも登場しません。二人とも、ロバート・ダウニー・Jr.とソーの男の、二人の彼女自慢の会話の中で言及されるに留まっています。『キャプテン・アメリカ』第二作で私が見つけたシールドと言う組織のタヌキ顔&幼児体型炸裂の女性エージェントのエミリー・ヴァンキャンプも全く登場しません。

 その意味では、キャスティングで観るべきところが極めて少ない作品です。唯一、少々笑わせてくれたのが、今回まあまあ華々しく登場して、あっさり射殺されたクィック・シルバー役の男です。どこかで見たことがある顔だと思ってパンフを観たら、『GODZILLA ゴジラ』の主人公の兵士でした。そして、クィック・シルバーの双子の妹(か姉かよく分かりませんが)で登場するスカーレット・ウィッチですが、これが『GODZILLA ゴジラ』でさっきの兵士の妻の役なのです。なかなか縁のある二人です。日本で言うと、染谷ナンチャラと二階堂ふみのような感じかもしれません。

 ここ最近、流行りに流行っている、人工知能モノです。少々斬新なのは、人工知能同士の戦いです。ただ、やたらに登場人物の頭数が多いので、あまりその点にフォーカスされません。では、何にこの映画はフォーカスされているかと言えば、能力のパワーレベルと言うかインパクトもまちまち、考え方もまちまち、バックグラウンドもまちまちのアベンジャーズの面々の離合集散です。パンフなどによると、「尊重されるべき個性のぶつかり合い」と言ったことなのでしょうが、どうも、ただ幼稚な欲求の振り回し合いにしか見えません。

 ハルクに恋してしまい戦場から逃避行しようと言い出すスカヨハもそうですし、自分が金も知恵も出す中で、どんどんことを進めようとするロバート・ダウニー・Jr.やら、どうも気になるとか、意味不明なことを言って戦線を離脱するソーやら、細かく見るときりがありません。これが人間ドラマと言うなら、アホな人間の集合体のお粗末を描いたドラマです。集団の価値観がもっと重たい日本人の感覚で言う集団のドラマは、各々の欲求を、如何に抑制し、如何に犠牲にして、集団の価値や原理を優先したかに美徳が生じてくるものと思えます。その美徳のようなものが見当たらないのです。

 たとえば、強大な敵を前にして、絶望的な戦いに敢えて打って出る零戦のパイロット達が、うまいこと彼女と逃げようという話をしていたり、勝手に機銃を改造してみたりしたり、「夢で何か気になることを見たから、ちょっと出かけてくるわ」と言っている映画のシーンがあったら、多分、誰も「人間味あふれる映画の展開だ」と感じないのではないかと思います。

 同じ、考え方もまちまち、バックグラウンドもまちまちの、超能力集団であっても、『X-MEN』は、かなり集団統率の美しさも、集団戦術の見事さも、内在しています。こちらの方は、ミュータントの能力がたとえば惑星を破壊するような規模のものであったりしないから統率が取れやすいという面もあるかとは思います。

(それに比べて、アベンジャーズは、事実上、戦闘に向かう身体能力上は(どれだけずば抜けていても)ただの人間と言うのが二人もいる一方で、人間ではない得体のしれない神も居れば、精神が不安定で見境なく暴れまわる怪力巨人もいます。これでまともなチームが成り立つ方が本来不思議です。)

 小型の組織においては、組織運営上必要なスキルに関して“標準化”と“多能化”が基本です。それが高度に行われている敵の人工知能ロボット軍団のウルトロン相手に、アベンジャーズが、幾つもの戦略上のミスを経てもなおまあまあ余裕で勝てているのは、ストーリー設定上のご都合主義によるもので、現実には、どちらに軍配が上がるかは火を見るよりも明らかです。

 パンフでは制作者が、「前作で異世界の侵略者からNYを守ったアベンジャーズは、今回は世界を股にかけて戦う最高のヒーローになった」とか言っていますが、真面目に見れば見るほど、ファンタジー的と言う意味でのドリーム・チームに見えて、興が削がれます。飽きずには見られますし、2時間半近い長さも気になりません。秀作とは思いますが、及第点クリアが精いっぱいと言う感じでDVDはギリギリで買いだと思います。

追記:
 他のトレーラーとは別に、まるで本編のように、この映画の前に『スター・ウォーズ』の新シリーズのトレーラーが数分上映されました。『スター・ウォーズ』に多少の嫌悪感が湧く私には、この映画の評価の低さの要因の一つに、スタートの印象がまずかった部分があるように思います。