353 終着駅の風景

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経営コラム SOLID AS FAITH 第353号
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 ご愛読ありがとうございます。第353話をお届けします。

 とうとう今年も残すところ3ヶ月弱になってしまいました。今月末には当コ
ラムの15周年記念特別号を発行の予定で、漸く原稿全体の校正も終了し、あと
は発行日を待つばかりとなりました。久々に全編を自分で書いた原稿でしたの
で、安堵しております。

 15周年記念特別号は『Congenital Auto-cruisers』と題して、昨今、科学的
研究が進むとともに、書籍などでも多数紹介され始めている、“脳の働き”や
“無意識の世界”などの初歩を踏まえて、いろいろと考えてみたことをまとめ
たものです。
 
 私達は、普段、自分で考えて物事を決め、実行しているように思っています。
それが実はそうではなく、たとえば虫や魚のように人間も無意識によってすべ
てが決まっており、意志の決定もしていなければ、何一つ自由意志で選べてい
ない…。そんなおかしな話が、事実だと分かったとき、経営や組織運営はどの
ように考えられるべきなのか。そんなことを考えてみたのが、『Congenital
Auto-cruisers』です。是非、ご期待下さい。
 
 今号は『終着駅の風景』と題して、経済学や社会学の分野で言われる「社会
の死」が訪れるとき、組織構成員の動機付けはどのように遷移していくべきな
のかについて、ちょっと考えてみたことをまとめたものです。全世界の中で逸
早く「社会の死」に実質的に到達した日本。そこで、夢だの目標だのが動機付
けたり得るのか、外国人との議論から考え込んでみました。お楽しみ下さい。
本文に対するご意見・ご感想をお待ちしております。頂戴したご感想などへの
お返事の目標納期は5営業日!!
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その353:終着駅の風景

「なぜ日本の若者は大きな夢を抱かないのか」。リンクトインで日本について
在邦の外国人が語っている中で、コメントが幾重にも連なる長いスレ。拙い読
解力で読み進むと、西欧人皆が、夢に向かって努力することを前提として、夢
は何かと尋ねてもまともな答えを持ち合わせていない日本人の若者への驚きと
落胆を書き連ねている。
 
 私は夢やら大志を抱いたことがない。その必要性を全く感じたことがない。
だから、大したことのない人生なのだと言われたら、頷く用意は常にある。逆
に、その能力や社会常識から、どう考えても実現が不可能そうな夢の持ち主は、
本当に努力を重ねるのかを尋ね返す用意も常にある。そんなことをスレに書き
込んだら、人々は沈黙した。

 ジャン・ボードリヤールと吉本隆明が、1995年に世紀末の消費社会について
対談した内容をまとめた文章を読んだ。食うに困ることがない充たされた消費
社会で、欲望はどのような形かで充足されてしまう。潜在的可能性が実現した
社会は、循環状態から抜け出すことができない。ボードリヤールはこれを「社
会の『死』」と呼んでいるらしい。吉本隆明は、労働の所得の多くが消費支出
に充当され、必需消費以上に選択消費が発生し、殆どの人が中流と意識するポ
イントで消費資本主義社会は完結し、社会の「死」が訪れるとしている。
 
 本を置いて、頭に入ったことを整理してみる。若い頃貪り読んだ飯田経夫が
思い出される。『「豊かさ」とは何か』から始まり、『「ゆとり」とは何か』、
『「豊かさ」のあとに』、そして『日本経済ここに極まれり』に至る四冊の講
談社現代新書。自分が人並みに必要なものは皆手に入り、経済学はその誕生か
らの役目を終わらせた。その先の選択消費でさえ、記号化で個別の価値が生ま
れて、相対化され尽くされた。本物とコピーも区別する意味さえ失われかけて、
おまけにVRやARで現実と非現実の相違も怪しくなった。目指すべき上方も至高
も究極も、皆本人の価値観の中だけで完結するようになったのに、人に語って
聞かせる夢に何の意味があるのか、私は分からない。
 
 クライアント企業の休憩室でぼーっと座っていたら、タイムカードを押して
私服に着替えた女子社員が、今年自分は絶対に婚活を終わらせると語り始めた。
金銭感覚や趣味や仕事観など、幾つかの価値観の合致が重要であるらしい。ク
ライアントさんの組織の“構成要素”なので、丁重にふんふんと興味深げに聞
いていたら、延々話が続く。

「目標があると、努力するようになって、ハリが出ますよね」と彼女は何度も
繰り返した。夢や目標なしには始まらない努力も、哲学者が死んだと言う唯一
神に量らねば分からぬ善悪も、どうも私にはピンと来ない。金をくれる人と先
達の価値観にその都度合わせて、はらはらしたりジタバタしたりするだけで精
一杯である。

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本文中に紹介されたリンクトインでのコメントはこちらでお読み戴けます。
 http://tales.msi-group.org/?p=541
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☆当コラムはプリントアウトしてお読みいただくと、より一層楽しめます。☆
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【MSIグループからのPR】

本年10月末日発行!
15周年記念特別号
『Congenital Auto-cruisers(先天的自動操縦装置)』原稿完成!

人に意志や判断能力はあるのか。
人にとって学習とは何であるのか。
人は努力によって変わり得るのか。

そんなことを“無意識の塊である人間”の観点から検証し、
中小零細企業経営のあり方にも言及してみます。

章立て一覧をご紹介します。
ご期待下さい。

■第1章:忘れがたい書籍(1)
■第2章:忘れがたい書籍(2)
■第3章:構造主義の悦楽
■第4章:受動意識仮説の衝撃
■第5章:仮説の検証
■第6章:催眠技術との出会い
■第7章:催眠領域の拡張
■第8章:組織経営の再構築
■第9章:応用制御作業

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【MSIグループの仕入完了報告(抜粋)】

■『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて
  慶應大学に現役合格した話』 坪田信貴 著
■『日本人が一生使える勉強法』 竹田恒泰 著
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発行:「企業から人へのコミュニケーションを考える」
 合資会社MSIグループ(代表 市川正人)
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次号予告:
 第354話 『ベイジアン・セオリー』 (10月25日発行) 
 大手企業のマーケティング・リサーチ方法の模索の話を聞いて考えたことを
まとめてみました。ご期待下さい。

(完)