『300 スリーハンドレッド 帝国の進撃』

 封切後二週間余りの月曜日の夜。12時半からのバルト9での回を見てきました。終電後のスタートでも20人ぐらいの観客がいて、若目のカップルがメインでした。一日三回の上映になってしまっています。そのうち、2Dが二回、3Dが一回の構成になっています。

 面白い映画です。私には前作以上に楽しめました。この続編のユニークな所は、ストーリー的に続編ではないことです。事例列的にみると、前作の時間軸より年単位で長く、前作の遥か以前から始まり、前作の後日譚まで含む、物語です。前作が特定の戦いの局面を主に描いていたのに対して、戦争全体を俯瞰し、前作に描かれた激戦の局面以外の部分、特に海戦部分を描いています。

 私は、中小零細企業の経営方針・事業方針の立て方として、ランチェスターの法則を説明することが多くあります。その際に、所謂ランチェスター第一の法則による戦略を常に採用しなくてはいけない弱者の戦い方は、非常に頻繁に説明しており、催眠状態でも理路整然と説明できるのではないかと思うぐらいにこなれた状態になっています。そのこなれた説明の材料となっているのが、映画『300 スリーハンドレッド』です。それほどに、前作『300 スリーハンドレッド』は、直感的に分かるように弱者(戦闘局面において兵力数が少ない側)が強者(戦闘局面において兵力数が多い側)に立ち向かう戦闘局面を端的に描いた作品です。

 それだけ、クライアント企業の社員に対して、『300 スリーハンドレッド』について言及している私なので、「その映画、今続編やっていますよね」とクライアント企業社員から言われる前に観ておかねばと、職業的義務感で観に行くことにしました。前述の通り、観に行って良かったと思える内容です。少なくとも、私にとっては前作を大きく上回る好感度でした。

 今回は、海戦がメインですが、やはりここでも、ランチェスターの第一の法則が全開の戦いで、弱者が強者に対して圧倒的な勝利を収める二戦が非常に分かり易く描かれています。(作品中で、駆け足ですが、マラトンの奇襲攻撃も描かれていますので、海戦二戦と陸戦一戦が、明確に描かれている弱者の戦勝事例です。)しかし、この二戦の後、敵方(ペルシャ軍)の総指揮官が女性で、味方側(ギリシャ軍)の指揮官と中立海域で個別に会談することとなり、セックスにまで至っても、籠絡することができず、ブチ切れて、総力を挙げてつぶすと宣言されてしまいます。

 この総力戦がなかなかで、当時で言う所のタンカーのような船を持ち出し、そこから重油のような油を海面に流出させ、ギリシャの船を火の海に落とし入れます。その上で、火薬を背負った工作員を数で圧倒的に劣るギリシャ軍の船に泳いで到達させ、遠方から火矢を命中させて、ギリシャ船に壊滅的なダメージを与えるのです。当時のバージョンの人間魚雷と考えるべき戦法です。

 弱者は強者の総力戦に引きずり出された時点で、既に壊滅が見えていると言う非常に分かりやすい例です。私が好きなマンガの『ヒストリエ』でも、漸く海戦の場面が登場するようになりましたが、そこに登場する画期的な戦法は、固い船首で、わざわざ敵船の脇をすり抜け、敵船の櫂をすべてへし折るというものでした。今回は、その戦法が登場しませんが、先述の「重油撒き」の他にも、有名な敵船側面に衝突し、固い船首で穴をあけ浸水させる戦法、さらには船を寄せて、白兵戦のみで戦うなど、見慣れない戦い方が多数登場します。艦砲射撃が無い時代の海戦の実態がよく分かります。

 今回の作品は、ペルシャの王がなぜあんな外見的にも声質も異常な人物であるのか…という素朴な前作の疑問が解けるなど、色々なことが分かり、前作とセットで見ると余計に楽しめる部分があるように思います。しかし、男の裸を見るのが生理的に嫌いで、仕事上散々言及している割にはDVDを見かえすことが非常に少ない前作に比べ、ほぼ主役級の敵司令官役がエロさもたっぷりの女性キャラなので、かなり救われています。

 おまけに、前作は弱者の戦略事例は(長々描かれるものの)一個しか紹介されないのに対して、今回は複数登場します。楽しく勉強になります。

 その他にも『ミロクローゼ』のストップ・モーション多用の殺陣の面白い演出を思い出すほど、フォトショップのポスタリゼーションかパレットナイフの加工をしたような独特の質感の映像の中に、短いストップ・モーションを重ねた戦闘シーンは引き立ちます。

 また、音楽がかなりいいのです。前作もそうだったか記憶が定かではありませんが、画面の映像にとてもマッチしていて、戦いの緊張感や壮絶さ、そして、武器も粗末であった時代、肉弾戦に占める“気合い”の要素の大きさがとてもよく伝わるのです。

 繰り返しになりますが、面白いです。DVDは買いです。