封切から約二週間。バルト9では、一日5回の上映になっていました。ロビーでは以前から特設モニターがこの映画の販促動画を繰り返し流しています。動画の尺が短いので、少々ロビーで待っている間に、二桁の回数を観てしまいます。
平日の12時25分からの回。雨上がり。終電後の時間のスタートでも全体で10人少々の観客がいました。カップル二組、女子二人連れ一組、男単独が少々と言った感じでした。
この映画は中学生になった娘が観たいと言っていて、彼女の中間試験前の週末に観に行く訳には行かず、その後の週末は私が都合がつかないということで、結局バラバラに観ることとなりました。私も娘も好きな『勇者ヨシヒコ』シリーズの監督が手掛けた作品であること、そして、私は最近少々気になっている山本美月が出ているのが観に行った動機です。
ダラダラのユルユルの感じは非常に『勇者ヨシヒコ』のテイストに酷似していて、いざ戦闘場面になって、なんのかんのと身勝手な理由を言い出して、なかなか戦闘に入らない展開はここでも健在ですが、『勇者ヨシヒコ』では敵側が引き延ばす側であるのに対して、この作品では常に「女子ーズ」の面々が怪人と戦闘員一同をお決まりの採石場の荒地で延々待たせ続けます。
『勇者ヨシヒコ』では、「ホトケ」と言う役回りで主人公達に非常にアバウトで段取りの悪い指示を出す佐藤二朗が、この作品でもまた、同様の役回りを「チャールズ」と言う多分、『チャーリーズ・エンジェル』のチャーリーのような雰囲気で配されています。「ホトケ」の際と外見こそ違うものの、役回りがあまりにも近すぎて、全く同じように楽しめます。パンフレットを見ると、チャーリーとの会話のシーンの撮影は集中して行なわれたようですが、女子ーズの面々全員が笑いを堪えるのが大変で、笑いたいときには下を向くようにと監督から指示されていたと暴露されていますが、本当に全員が俯いている場面が多かったように記憶します。
面白いです。女子ーズの5人が全員、監督の女性観によるタイプ別になっているとパンフに書かれていますが、全くキャラがかぶることなく、上手く成立した“戦隊”になっています。先述の通り、『黒執事』、『東京難民』、そしてDVDで観た『桐島、部活やめるってよ』でも、私には毎度印象が大きく異なり、全く見つけることができない山本美月は、今回は、何度も特設モニターの販促動画で見ていたので、見逃しませんでした。しかし、販促動画の予習がなかったら、かなり危うかったように思います。金持ちのお嬢様の役で、すぐさめざめと泣いたり、変な男に引っ掛かって騒ぎを起こすのですが、私には5人の中で最もわざとらしく、芝居も臭く、好きになれないキャラでした。
それに対して、ブルーを演じた藤井美菜という女優は、パンフによれば初めてのコメディで初めてのキレやすいギャルの役なのだそうですが、かなり面白く、私の好きなタヌキ顔系で好感が持てました。あまり大きな役ではなさそうですが、まだ上映している『MONSTERZ モンスターズ』にも出ているようなので、DVDか、可能なら映画館で観てみたいと思います。そして、もう一人、有村架純が演じるグリーンの、思い込みの激しいドヘタ演劇娘は終始笑わせてくれました。チャールズに弄られるかなり冒頭に近い場面からして、どーんとぶちかましてくれます。
私は有村架純を全く知りませんでしたが、ウィキで見て、『勇者ヨシヒコ』シリーズの偽ムラサキ役だと知って、「おおっ!」と思い出だしました。ブルーがマツエクをしたいから戦闘に参加できないと電話越しに言って、真面目なレッドに「マツエクと怪人倒すのとどっちが大切なのよ」と迫られ、「マツエク?」と答えた際に、採石場の四人の女子は「あ?、言っちゃったよ」と言う表情を一人ひとりアップで映されます。その際のグリーンのやり場のない表情は、たった1秒以下程度のことなのに、妙にツボにはまり、後々何度も思い出されます。
この場面は、例の販促動画にも含まれていて、ボリュームが小さく音声が聞き取れなかった私は、本編を観るまでずっとブルーが「松井君(とのデート)と怪人倒すのと」の選択を迫られているのかと思っていました。男との選択にしては、皆の反応の意外さにちょっと違和感があったのですが、マツエクとの比較なら納得行きます。そして、それが分かると余計にメットをかぶるとやたらにぽや?ンとした感じのキャラが際立つグリーンの一瞬の表情が輝きを増すシーンでした。
自分が実は大根役者であると、敬愛していた演出者から言い渡され、ぶちきれて、罵詈雑言を吐きながら連れ去られる場面の突然のギャップもやたらに笑わせてくれます。変身前は言動全体で面白いことが多いのですが、メットがメンバー中、最も丁度よくかぶれているので、表情の演技が際立って良いのです。多分、このメット似合いは、下っぷくれの輪郭ゆえのことだと思われます。有村架純が好きかと問われたら、「普段のときはまあまあ。メットをかぶるとすごく好き」と言うおかしな状態になってしまいました。
当初意識していた山本美月の不発以外に二つほど、残念なポイントがあります。一つ目はキャッチ・フレーズに対する根源的な疑問です。女子ーズは揃えば強力な必殺技を繰り出すことができ、怪人をあっと言う間に倒せるのですが、なかなか全員揃わず、面倒がいちいち起こるという物語です。販促動画でもキャッチ・フレーズが繰り返されていますが、「揃えば無敵。しかし、なかなか揃わない。それは彼らが女子だから…」というものです。
しかし、これは全く嘘です。彼らが揃わない個別の理由は、確かに、先述の「マツエク」を代表として、女子ならではものが幾つか見受けられます。その辺は、所謂「無理しない女子」・「頑張らない女子」と言ったポイントが上手く埋め込まれています。けれども、テレビの戦隊モノの多くと比べたとき、女子ーズの5人が二点大きく異なることがあります。
まず、彼らがボランティアでそれも突如怪人が出たと呼び出されて働かされていると言う事実です。私は戦隊モノで好きなものがあまりなく、『デンジマン』、『バイオマン』、『マジレンジャー』、『ボウケンジャー』ぐらいしかがっちり印象に残っているものがありませんので、もしかして事実と異なるかもしれませんが、このように、普段の生活を普通にしていて、そのうち多くは仕事との両立が困難な状態で、戦隊メンバーとなっている設定は、他に例が殆どないのではないかと思います。別に女子ではなくても、このような状態になっていれば、なかなか揃わないのは必然であろうと思います。そして、その都度、バイトの調整をするぐらいなのはまだしも、仕事を好い加減にこなしたり、突如職場からフケてしまったりする主人公達を見ると、中小企業診断士の立場から、微かに苛立ちが湧きます。
二点目は、この女子達は、共同生活をしていないことです。多くの戦隊モノのメンバーは基地などの特定の場所に常に集まっている状態が多いものと思います。『マジレンジャー』のように、一軒の家に住む家族と言う想定まであります。これに比べて、女子ーズは生活の場所もライフスタイルも全くバラバラです。こんなにぐちゃぐちゃに揃っていない物理的場所と行動パターンを持ったメンバーなら、他の戦隊モノでも、なかなか揃わなくて当然だと思えます。
つまり、彼らは女子だから揃わないのではなくて、テキトーに集められて、ボランティア活動を強要されている立場だから、揃わないというだけのことです。この誤謬はかなり気になります。このポイントがクリアされていれば、私にはかなり好感度の高い作品だったのに残念です。
もう一つの不発ポイントは、オープニングのアニメーションはスタイリッシュで良いのに、背景に流れているテーマ曲が(わざとそうしたと言うことなのだとは思いますが)非常にダサく、声質も悪く、全く好感が持てないことです。この点は『勇者ヨシヒコ』を見習って欲しいものだと強く思いました。
しかし、総合点は高いです。この作品は笑えます。楽しさは格別なので、DVDは勿論買いです。おまけに、Tシャツとキーホルダーまで買ってしまいました。