『ロボコップ』

 消費税が5%の最終日の三月末日。新宿ピカデリーで観てきました。封切から二週間余り、東京都内ではまだ30館以上もの映画館で上映されていて、新宿でも三館で上映されています。そこで、久々にバルト9に行こうかと思い立ちましたが、既に一日二回の上映になっていて時間が合いませんでした。ピカデリーも一日四回の上映でしたが、数日後には三回に減っていました。

 私の印象ではバルト9は観客動員状況に敏感に反応する映画館です。そこで二週間目にして一日二回の上映になっているのは、ネットなどに観るこの作品の不評が既に反映しているのかもしれません。時間が合うピカデリーに新宿東南口側から紀伊国屋本店を突き抜けて向かう途上で、新宿通りを横切ると、夜9時なのに、左方向にやたらの人混みが見えました。昼間に行った有楽町では号外が配られるほどのイベントになった『笑っていいとも』32年の放映終了日の狂騒です。人込みはアルタ前で屯している人々でした。

 映画は9時半に始まり、終わりは11時40分ごろ。終電には帰宅先によっては間に合わない時間です。月曜日の新宿でどれぐらいの混みようかと思って、時間ぎりぎりにシアターに入ると、観客が5人ほどしかいませんでした。それほど大きくないシアターがやたらに広く感じます。

 不評の映画です。やはり、オリジナルの発表された当時の強烈なインパクトを知っている人間には、物足りない映画であるのは否めません。オリジナルの方は、あのポール・バーホーベンの映画ですので、単なる近未来警察物語の訳がありません。ゴア映画のジャンルに入る一歩手前ぐらいのギリギリのバイオレンス映画です。人間の醜さや組織の醜さまで描いて、そこであがく人々を描いた映画と理解した方がよいような感じでした。それを、一見、子供向けヒーローのように見えないでもない外観のロボットっぽいヒーローは、実は愛する家族の消された記憶に日々苛まれている状態と言う設定まできっちり活きている構成です。

 比べて、新作の方はかなりスタイリッシュです。ストーリー構成はあまり変わりません。基本は犯罪の根絶に踏み出してみると、自分を殺した犯罪者の検挙のみならず、自分を売った腐敗した警察組織まで検挙することになり、しまいには、自分をロボット化した企業組織の上層部にまでその欺瞞を暴く手を伸ばすのです。これは変わりないのですが、例のバイオレンス感がかなり押さえられています。『タクシー・ドライバー』の系譜の映画と思えるような前作に比べて、こちらは『アベンジャーズ』の新作のような感じに見えます。ただ、逆に言えば、そのような魅力は十分にある映画ですから、前作を知らないで見れば、それなりの面白さはあります。前作を知らない層に対してマーケティングを展開すれば、このような不評をものともしないぐらいの集客はできたようには思えます。前作比較の不評の表層的情報だけが、前作を知らない人々にまでバズで広がってしまったのかもしれません。

 それでも私は二点この映画で「おおっ」と喝采したポイントがあります。一つはやはりロボ・コップの新設定だと思います。重い足音や動く際のギア音は旧作イメージのままですが、デザイン面でも性能的にも格段の差があります。まあ、体型が旧作のどちらかと言えばドラム缶のような体型からウェストが締まった、等身大エヴァのような体型に変わっています。黒ベースのデザインも評価できます。犯罪者のデータベースに自由にアクセスできるのは従来どおりですが、市内の監視カメラ映像にもアクセスでき、顔認識システムを使いこなしていますので、犯罪者データベース上の個人の居場所の特定がかなり容易です。おまけに仮面ライダー並みの高性能バイクに乗っています。(停車して放っておいても、下部からスタンドがドシっとでるので、バイクが倒れないと言う優れモノです)そして、スリムな体型になったので、やたらに速く走りますし、ガンアクションも目にも止まらぬ速さでこなします。

 考えてみると、ロボ・コップと言えども人間の時の人格が一応残っているので、ロボットではなく厳密には極端にメカ化を進めたサイボーグと言うべきです。ギリギリ、アンドロイドの一歩手前と言う感じです。一般に過去作品を色々見ても、サイボーグやアンドロイドは軽装備でスピードで勝負する部分が多いものと思います。その点、旧作ロボ・コップは実際にはサイボーグであるのに、ロボと呼ばれ、それに当時の言葉のイメージに対応するような鈍重さと堅牢さを持たされていたと言うことに気付かされます。

 もう一点は、旧作ロボ・コップに比べて、やたらに存在感を増した妻です。警察組織や彼を改造した企業組織に対して、「夫を返せ」と敢然と要求し続けます。で、この妻がかなり異色の配役に感じられるのです。詰まる所、ハリウッド映画的には美人ではないのです。背をギュッと低くして、ウェストを太く寸胴体系にし、さらに顔の輪郭を横長丸顔にした、二コール・キッドマンと言う感じの女優です。調べてみると、アビー・コーニッシュと言う女優でした。少々目がつりあがり気味な所がイマイチなのですが、体型や横長丸顔(所謂タヌキ顔の輪郭)はばっちり私の好みです。と言うことで、私はこの女優が凄く好ましかったので楽しめましたが、主人公の細マッチョ的体型の男優と抱き合ったり、ダンスをしたりするシーンでは、吹き出してしまうほどに胴の太さが目立ちます。私は嬉しいのですが、よくこんなアンバランスさが目立つ女優を配役したものだと驚きます。

 調べてみると、DVDで見て、「お、この女優、カワイイ」と思った記憶がある(しかし、DVD作品はいちいち詳細を調べないので、意識しないままに終わった)ストーリー的にも名作として好きな『リミットレス』の主人公の彼女でした。他にも、映画館で見逃したので、これからDVD入手予定の『セブン・サイコパス』や、以前見てDVDも持っている『エンジェル ウォーズ』や『エリザベス:ゴールデン・エイジ』などにも出ていることが分かりました。チェックしなくてはなりません。

 そんな風に思いながら、何かストーリー上の役柄の位置づけも同じで、やはり私の好みであるのに、ハリウッド映画的には異色の配役と言った感じのヒロイン像が、どこかで最近見たよなと、気付きました。かなり考え込んで思い出しました。『マン・オブ・スティール』で、やたら自己主張の強いおきゃんなロイス・レインを演じていたエイミー・アダムスです。

 日本でも美人とされる軸がネットなどで色々と話題になり、一連の映画に頻出する剛力彩芽も美人なのかどうかが議論されています。ちょっと前なら「ブス可愛い」と言われていたような顔、または、それよりちょっと上ぐらいのクラスの顔が、私は大好きですが、どうも、海外映画でもその波が来ているように思える今日この頃です。アビー・コーニッシュのコレクションは作らねばなりませんので、DVDはゲットです。

追記:
 結構長く感じるエンディング・ロールを几帳面に全部見て、明るくなった館内を見回すと、観客は私一人だけでした。「本日はありがとうございました」との、シアター内の点検清掃に来た店員の挨拶が、シアターの最長対角線越しに、一対一の挨拶になったのはかなり珍しい体験です。