『地球防衛未亡人』

変な映画を火曜日の午前中に明治通り沿いのミニシアターで観てきました。こんな変な、間違いなくB級以下のような映画を観るのは、『細菌列島』以来のような気がします。考えてみたら、『細菌列島』と同じ映画館で上映されています。特撮怪獣モノでは、『ギララの逆襲 洞爺湖サミット危機一発』も近くはありますが、チープ感においては、この作品の方がダントツのひどさです。

2月初旬の封切から一ヶ月以上。とうとう迎えた上映最終週には既に一日一回の上映しかされいません。おまけに、関東全体でもたった一館のこの上映館には、パンフレットも売り切れていて、余程の嘗ての人気を窺わせます。上映終了間近でも、観客は辛うじて二桁に達していました。人気の割に上映が延長される訳でもなければ、シアター入口脇に控えた館員は上映中べらべらと雑談をしていて、劇中の静かなシーンでは声がシアター内に聞こえるほどです。変な映画を多数上映しているのに、その魅力を分からず、売り方も分からない、やる気のない映画館と言う感じが漂います。

入口には、連載も完了に近づき、第二作にして堂々完結作と名高い『そらのおとしもの』の新作映画のポスターがでかでかと貼られていました。『そらのおとしもの』もこの映画館で第一作を何の予備知識もなく観て好きになり、娘に教えたら娘もファンになり、親子してコミックを読み漁り、DVD二シリーズを飽きずに見続け、そして、話の結末がコミックで登場するのをひたすら待っている状態です。そのようなすごい作品との出遭いが、このだらしない映画館によるものと言うのは、なかなか感慨深い事実です。

今回の『地球防衛未亡人』は、単純に壇蜜の主演映画を観てみたいと言うだけの理由で観に行くことにしました。『フィギュアなあなた』で私は初めてスクリーン上の壇蜜を見ましたが、私は全く壇蜜のファンではありません。寧ろ僅かにアンチに傾いているぐらいに、全然興味が湧きません。あの眠そうな顔や抑揚のない話し方、中途半端にグラマラスなのか幼児体型なのかはっきりしないスタイル。どれをとっても、関心が湧きませんし、(タヌキ顔や幼児体型など明確なストライクゾーンがリニアに決まっている私には)エロさや妖艶さも全然感じられません。『私の奴隷になりなさい』も『甘い鞭』も全く見る気が湧きません。しかし、世の中でこれほどこの手のジャンルで着目されている人が現れたのは、一時期の黒木香など以来であるような気がします。それがどのような人物であるのかを主演映画で観てみたく思ってはいました。何とか関心を持てそうな映画で壇蜜が主演を果たしているのを知り、これはみなくてはとは一応思いましたが、逡巡しているうちに、上映最終週になってしまっていました。

この映画は、「28歳で処女の向島の舞子が、結婚するまでセックスはしないと漢気を見せているのに惚れ込んだ男と祝言を上げようとしたところに、宇宙怪獣ベムラスが飛来し、彼女の目の前で彼を踏み殺してしまいます。復讐を誓った彼女は、地球防衛軍に入隊し、復讐心からメキメキと頭角を現し、三年後にはエースパイロットになったところへ、(前回どうなったのかわからない)ベムラス(の同個体)が再度飛来して、おまけに、中国との国境付近の“三角諸島”に上陸して国際問題になったり、原発に移動して原発に“想定外”の被害を与えて「タテヤを吹き飛ばし」たりして、社会問題化したりする。さらに頼みの綱のエースパイロットの彼女は、トラウマが逆効果になり、ベムラスを攻撃してベムラスが追いつめられるのを見るたびに、性的エクスタシーに達してしまい、ミッションを完結できないで苦悩する」という話です。かなり複雑です。『罪とか罰とか』以来の、よく言えば“てんこ盛り”、悪く言えば“とっちらかって収拾のつかない”話です。

本当に盛りだくさんの話です。壇蜜は劇中“アメノ・ダン”と言う名前です。壇が苗字ではなく名前なのですが、本部にいる隊長は、かのモロボシダンを務めた森次氏で、モロボシダンが現場にいる壇に向かって「ダン!ダン!」と連呼し続けるのを見るだけで、何か異次元空間に引きずり込まれる思いです。

さらに中途半端なオマージュのようなものもたくさん盛り込まれています。地球防衛軍らしき組織は、「ジャパン・エイディド…」ナンチャラと言う団体で、通称JAP「ジャップ」です。で、壇蜜が乗る高性能戦闘機が、『帰ってきたウルトラマン』に登場する「MATアロー」をパロった、「ヤロー」という名称です。つまり「JAPヤロー」なのです。壇蜜が操縦するシーンは多々出てきますので、搭乗機の呼称も散々登場します。「ジャップ野郎」、「ジャップ野郎」と登場人物が何度も真顔で連呼するのを見るだけでも、正直笑えます。戦略型戦闘機として米軍が出してくるのはオスプレイで、JAPはその改造版としてメスプレイを共同作戦用に投入します。空中のその二機を見て「オスメスプレイか!」と感嘆するモブの男が来ているのはシベチョーのレアものTシャツだったりします。壇蜜の自室には『いかレスラー』の映画ポスターが、ベッド脇にでかでかと貼られています。

映画のクライマックスは、「ウルトラマン」のスカイドン、ガマクジラ、シーボーズなどの伝統的な展開で、JAPヤローに乗った壇蜜の捨て身の作戦で、ベムラスにおとりの餌をチラつかせ、宇宙空間に引きずり出すと言う場面です。それなりの盛り上がりを見せます。その場面の展開直前に、困った時には日本を救ってくれるDen A(デン・エース)と言う安っぽいスペクトルマンのような巨大ヒーローへの言及がちょびっと出ます。これは、もしかして、壇蜜が変身するのかと期待していたら、捨て身のミッションに失敗して墜落してくるJAPヤローを空中で救ったDen A に変身したのは、防衛軍のメカニックにして、壇蜜とあわよくば付き合いたいと狙っている脇役の男でした。そして、ヤローを救出した後、ベムラスの打撃一発であっさり倒されるのです。

国際問題ネタのパロディは、阿部首相や石原慎太郎、オバマなどが総出演して盛り上げてくれます。核廃棄物をベムラスがバンバン食べると言うことが分かると、「これで、核廃棄物処理のリーディング国家になる」と皆が喜び、ベムラスを倒すのではなく、飼い馴らすべきだと騒ぎ立てます。韓国は竹島は渡すからベムラスをくれと申し出る始末です。ベムラスに襲われている最中の電力会社の記者会見は、煮え切らない東電の会見そのものの顛末を見せてくれます。

たくさん笑いポイントがあります。怪獣攻撃時の性的快楽について悩んで精神科に掛った壇蜜が、退行催眠で何が起きていたかを医師に分析され、診断される場面があります。その医師はモト冬樹が演じていますが、壇蜜に向かって真顔で至近距離で「あなたは正真正銘の変態です」と断言するシーンには(他の観客にはウケが今一でしたが)私には爆笑レベルでした。

結局、壇蜜は処女懐妊で生まれたアメノウズメの末裔だったことが唐突に判明し、その神秘の踊りによって、ベムラスは眠らされ、スペースオスプレイ・メスプレイの二機によって網に入れた状態で宇宙に運び出され、放逐されると言う拍子抜けの結末を迎えます。

壇蜜がらみで、失望するポイントは多々存在します。まず、壇蜜が(元々想定の通りですが)全く魅力的に見えません。迫る怪獣の前でアメノウズメ譲りの能力に目覚め、全裸で舞を踏むのですが、全然美しくないのです。滑らかな肌感やくねるボディラインの演出など、もっともっと、AVの美少女ものやエロモノを参考にしていただきたいです。壇蜜は台詞も棒読みで、かなり聞くに堪えない部分が多く存在します。

そして、壇蜜は変身するのかと思えば、神の末裔でも、全く変身もせず、巨大化もしません。どうせやるなら、GIGAの巨大ヒロインもの(例えば、平子さおり主演の名作『アリスィア』など)のように、自分でスーツを着るなりして、きっちり立ち回りを演じるぐらいのことまでやってほしかったと思います。『ギララの逆襲 洞爺湖サミット危機一発』では、既に国際的映画監督になっていた北野武が特撮巨大ヒーローとしてギララと格闘戦を演じているぐらいなのに、これ程度かと思った瞬間に、映画全体が色褪せて見えてきてしまいます。

天下のNHK様が作った超B級怪獣SFの『長髪大怪獣ゲハラ』でも、予告に登場する(つまり、全く制作される見込みのない続編にあるとされる場面なのですが)主人公の妹役の藤井美菜のあまりに唐突な変身シーンでさえ、物語に対する大きな期待感の醸成に成功しています。ならば、この映画の壇蜜でさえ、AV女優や駆け出しのグラビアアイドルに勝るとも劣らない、もっと観るべきところの多い役回りにできたのではないかと思います。

よく分らない作品です。壇蜜系のマイナス・ポイントがかなり大きく、総合点を引きずり下げています。ただ、B級パロディSFとして観たとき、一応、笑えるツボはそれなりに押さえていて、楽しませてくれるのも事実です。かなり悩み深いですが、DVDは壇蜜のおかしな踊りを記録として持っておくと言う観点と、「ジャップ野郎」の連呼のポイントで、ぎりぎり保存版リスト入りかなとは思います。