『ウルヴァリン:SAMURAI』

 三連休初日の夕方に久々の旧コマ劇場近くで観てきました。コマ劇場跡は今も何やら見上げるような建築物を作っていて、広場を囲む風景も大きく変わりました。到着したのは夕方もまだ明るい頃でしたが、20年前の喧騒が嘘のような人出でした。遥か以前は、都の健康増進プログラムで通っていた裏のハイジアのビルなどにも行ってみましたが、中の店の構成が大きく変わっただけでなく、空き店舗スペースも多く、さびしくなっていました。

 映画は公開から約一ヶ月。新宿ではまだ三館で上映されていますが、上映回数は非常に限られていて、他の二館では一日一回の上映の上映となっていました。この映画館では未だに一日三回の上映です。しかし、この映画館で見る限り、かなりの人気を維持しています。広いシアターなので、空席率は高いものの、絶対数では30名以上の観客がいたと思います。老若男女と言う感じの観客層でしたが、何となく一人客が多いようには感じました。

 余り深く考えていず、まあ、いつものシリーズだから見に行こうと思って行ったのですが、一つ予想していなかったことがあります。それは、Xメンのスピンオフのウルヴァリンのシリーズは、既に『ウルヴァリン: X-MEN ZERO』があって、その最後には明らかな続編につながり易い設定が残されていました。それも、舞台は第一次世界大戦ぐらいから始まって、或る意味不老不死状態のウルヴァリンの兄弟が現代の戦争にまで確か継続して話を続けるような展開だったと思います。(あまり好きな作品ではなかったので、ストーリーもうろ覚えです。)

 今回の作品は、その作品の後続の時系列だと思っていたのですが、いきなり長崎の原爆投下地点付近の古井戸にウルヴァリンが潜んでいた所から始まります。そして、唐突に現代アメリカに舞台が移り、自らの手で愛する女性ジーンを葬ったため悪夢に魘されるウルヴァリンの描写が始まるのです。前のスピンオフの作品とのつながりはほぼ全く感じられません。ウルヴァリンが死にかけて記憶が走馬灯のように映るシーンの中に、記憶が定かではありませんが、スピンオフ前作で同棲していた女性がちらりと登場した感じはありましたが、ただそれだけです。つまり、時系列で行くと、この作品は寧ろジーンが死んだXメン3の後続作品です。

 ウルヴァリンが招かれて現代日本に行くと、古井戸に匿ってウルヴァリンが救った日本兵が大コンツェルンの総帥になっていて、死の床でウルヴァリンの不老不死を自分に渡す技術を開発したので、死ねる体にならないかと、持ちかけると言う話です。

 各種の映画評にある通り、日本社会の描写のおかしさは、色々な日本を舞台にした海外映画に関して言われる、色々な馬鹿げた話に比べると、ほんの僅かにマシという程度かと思います。なぜヤクザはわざわざ上半身裸になって全身に施した刺青を見せながら追跡劇を行なうのかとか、SPが白昼堂々小型機関銃を持っているのはまずいだろうとか、やっぱり忍者はどうしても出したいのかとか、なぜ忍者は多数登場する時に、意味もなくバック転や側転を何度もするのかとか、細かく見ればきりがありません。逃走手段に新幹線を選ぶ喪服のマリコも、どうやって切符を買ったのか全く分かりません。ぎりぎり、おっと思ったのは、寺院のお経の始まりがちゃんと開経偈だったことぐらい。

 ただ、それよりもおかしなことは他にも色々見つかります。ウルヴァリンのアダマンチウムの爪は別に本来彼の能力ではなく後付けです。手の骨が延びて堅い骨の爪が伸びるのが兄弟そろっての強みでしたが、そんなことよりも、強烈な治癒能力こそがウルヴァリンの最大の能力です。ですから、アダマンチウムの爪を出すごとに手の甲の皮膚が貫通されている訳ですが、それを急激に治すのがいつもの治癒能力だと言うことになります。今回の話では、ウルヴァリンはこの治癒能力を制限されて苦戦するのですが、治癒能力が減れば、爪を出すたびに両手からは大出血する筈ですが、それが起きていません。

 さらに、例の日本兵はウルヴァリンの治癒能力を奪う装置を開発していますが、それはなぜかウルヴァリンの爪にドリル状の端子を接続するようなもので、接触してすぐ後にはどんどん治癒能力の奪取が始まっています。治癒能力の制限は心臓に着けられた変な装置でしたが、治癒能力の奪取は爪からというのは、なんだかおかしな感じがします。

 この旧日本兵の老人は一旦死んだとされますが、劇中に登場する人の死の映像を見ることができる女性が「なぜか死の映像を見ることができなかった」と言っている時点で、話がもうネタばれになってしまい、そこも結構作り込みが雑です。

 おまけに、マーベル作品で珍しく、セックスを間違いなくしている筈の時間が存在しますが、日本のラブホテルまで紹介して、さらに、その後、旧日本兵の孫娘マリコと親密になるにつれ、セックスへの秒読み感を散々だしておいて、いきなり翌朝、下着姿でふとんで寄り添っているだけかいと、突っ込みを入れたくなります。

 まあ、面白いのは、時速500キロで走っていると説明されている新幹線の車両の上のもの凄い風圧の中での戦いは、多くのアクション映画でも存在しないような斬新な映像の連発でしたが、それ以上に特段に目をひくものも見当たらない映画です。日本人には、最近亡くなった桜塚やっくんではありませんが「がっかりだよ!」のステレオタイプの日本描写、そしてよく分からない能力設定のミュータントがたった一人登場するだけの展開、ストーリー的にも何かもたつき感がある上に、余りにもネタばれ的で、単調。おまけに死んだジーンがしつこく出てくるので、他の作品も見なくてはよく分からない依存型の位置づけ。

 Xメンシリーズの中では、最低の作品かなと思われます。最後にどこぞの空港でボディチェックを受けるウルヴァリンに、マグニートとエグゼビアが接触してくるシーンがあり、Xメンの次の作品の期待感をあおるシーンがあります。ここの場面が映画全編を通して、もっともワクワクするものであったこと自体が、非常にお寒い状況と言わざるを得ません。DVDは全く必要ありません。