平日の午前中最後の回をバルト9で見てきました。東京では夏休み終盤戦。ロビーには子供連れやら学生っぽい若者がたくさんいました。封切から一週間経っていませんが、上映館・上映回数が都内でもやたらに多く、分散してこんな感じなのかなという程度の混みようでした。(関東だけでも211館で上映しています。)
開始直前、(私も初めてのことですが)どこかのシアターの映写機が故障したとかで、上映シアターを変更することになったようで、ロビーでは人が右往左往し混雑がより高まった感じがしました。シアター内には100人ぐらいは観客がいたように思います。ここ最近の映画鑑賞で最も多い人数だと思います。それでも、バルト9では一日三回の2D上映のうちの一回です。並行して一日三回上映されている3Dの方はもっと人気があるようなので、更に混んでいたのだろうと思われます。
ここ一ヶ月少々、マイナー系の映画を見溜めしてきましたが、これから数本は空いてきた劇場で夏休みの大作系の作品を見ることにしようと思っていました。これがその第一本目です。大作だけでも、ガッチャマンだのスーパーマンから始まって、凶悪だの謝罪の王様だのがあるのに、美輪明宏のドキュメンタリーや009ノ1、さらに『もったいない!』とか言うドキュメンタリーなど、マイナー系でも観たいものが多数あります。困ったものです。
『パシフィック・リム』は、日本人で余程のSF嫌いでない限り、色々な特撮モノを思い出させる映画だと思いました。まずは、エヴァ(含むヱヴァ)シリーズでしょう。操縦者がロボット(エヴァは正確にはロボットではありませんが)にシンクロする操縦システムがまずエヴァ的です。シンクロがうまくできず、テスト中に暴走する場面もありますが、零号機の暴走シーンを思い出させます。また相手がよく分からない生物で、おまけに、外見が全然違う形状をしているのにDNAは同じなども、エヴァの使徒と酷似しています。
二人でシンクロしあって操縦するスタイルと言うのも、つい最近のエヴァで登場しています。(時系列的にはヱヴァのQの方が後かどうかギリギリのタイミングだと思いますが、どちらが先にせよ、非常に似ています。)古くはシンクロがちゃんとできないと合体できないコンバトラーVだの、さらに古くはバロム1もあります。合体する訳ではありませんが、好き嫌い入り混じって複雑な関係のシンジとアスカが、シンクロ攻撃を完成させなければならないエヴァの話もありました。
監督の思い入れからでしょうが“カイジュウ”と一般語として使われている敵方の相手は、皆巨大サイズの恐竜のようですが、日本の着ぐるみ怪獣とはかなり質感とフォルムが異なります。遥か以前、「ヤンキーゴジラ」と揶揄されていたハリウッド版リメイクのゴジラが、ただの巨大なトカゲのようになっていたのと同じような残念さが感じられない訳ではありません。どうせなら、こういう所も、、“ハリウッドNo.1の日本オタク”としても知られる監督と言うなら、きっちりやり込んで欲しかったと思います。カイジュウのイメージは寧ろ、『クローバーフィールド』の怪獣に近いように感じますが、如何せん、向こうさんの怪獣のイメージはこの形から逃れられないのだろうなぁと思えてなりません。
他にもエヴァとの共通点があります。それは人類がかなり追いつめられており、勝っても辛勝と言うぐらいの状況で、イェーガーと呼ばれている巨大ロボットもどんどん破壊されて行きます。パイロットは死亡したり疲弊したりする中、敵はどんどん想定もできないような展開で攻めてくると言う設定が他の要素以上にエヴァ的だと思われます。
ただ、往年のこの類の作品のファンとしては、結構他にも思い出させられるものがあります。主人公達が搭乗するイェーガーの戦っている最中のフォルムは、どうも(立っているだけなら寧ろダグラムですが)鉄人28号を思い出させますし、手からでるソードなどはマッハ・バロンのようです。また、このイェーガーのコックピットは操縦者が搭乗した後に、頭部としてイェーガーに合体するのですが、その合体のイメージは、かなり平べったい円盤状に近いので、マジンガーZのパイルダーオンのようにも見えます。まるい頭が合体して全体が動作可能になると言う観点では、鋼鉄ジーグのオープニングのシルエットを連想してしまいます。
さらにシンクロして操縦するスタイルも、エヴァとは異なり操縦者がそれなりに広いスペースに立っている状態で、その動きが基本的にはイェーガーに伝わると言うことですので、パターンとしてはエヴァよりも、当時その操縦スタイルが斬新で驚きの対象だった、ジャンボーグA(エース)が寧ろぴったり一致します。
戦闘シーンも場面場面で色々な伝説の名場面のようなものに対するオマージュなのではないかと思う部分があります。最後に出てくる水中戦はエヴァのマグマダイバーの話を思い出させる視界の利かなさですし、最後には主人公のロボットを自爆させるのも、初代ゲッターロボなどで定番の名場面です。エヴァでも綾波レイ?がかなり似ている自爆設定作業をしています。腕をもぎ取られても戦うのは鉄人以来の伝統ですが、手首から先に武器があるのにそれを無効化するためにもぎ取られたり、破壊されると言う観点ならガンダムが近いでしょう。もぎ取られて、シンクロしている神経から激痛が来るのは、エヴァと同じです。コックピットの装甲が剥がされパイロットが敵と対峙するのも、古くはマジンガーZ、そして、マクロスからガンダムまでかなり定番です。
大体にして出撃まで基地内でのプロセスなども、ウルトラセブンなどの妙に念入りな発進手続きを彷彿とさせます。
書けばきりがないこう言った日本のSFモノとの共通点ですが、少なくとも日本人であれば、この映画をこのように楽しむのが一番なのではないかと思います。かつて、ストーリーがあまりにシンプルでロボット・プロレスと揶揄されたのはマジンガーZでしたが、この映画はエヴァ風味のロボット対怪獣のプロレスそのものです。多少の人間ドラマはきちんと盛り込まれていますが、どう見ても、プロレスシーンが強烈な売りの映画です。プロレスシーンに見入って、ふとこぶしを握りしめている自分に上映中に何度か気付かされました。上映時間がバルト9では130分で、特に午前中はトイレが心配になる私が、全然問題なく最後まで集中できました。
わざわざ菊地凛子が出て、日本語をそこかしこにまぶしてくれている監督の日本文化に対する敬意も、決戦の舞台となる私が大好きな香港の街並みも、あまり印象に残らないぐらいのプロレス劇です。『ナイト・トーキョー・デイ』、『笑う大天使(ミカエル)』、『バベル』などでみて、顔のタイプとしてあまり好きではない菊地凛子も全然気になりませんでした。そんな余裕をこの映画は全く与えてくれません。
巨大な怪獣に至近距離で追いまわされ逃げ惑う芦田愛菜も妙に可愛らしいですし、ドリフトと呼ばれるロボットとのシンクロテクニック(『リアル…』で綾瀬はるかがやっていた「センシング」よりちょっと遅れている技術に見えます)を使って怪獣とシンクロする学者がきちんと怪獣が送り込まれてくる謎ときをしてくれますし、周辺要素もそれなりに固めてある怪獣プロレス劇は、とても楽しめました。あまりにシンプルに楽しめるのでパンフレットも買いませんでした。DVDは買いです。