319 深淵の両側

=================================
経営コラム SOLID AS FAITH 第319号
=================================
 ご愛読ありがとうございます。第319話をお届けします。

 番外編まで含めると、5回に渡り続いた「死すべき技術としての経営」につ
いての考察は如何でしたでしょうか。漸く終わって見返してみると、やはり、
組織構成員の成長と共に、組織統制と言われる部分の経営分野を中心として、
“経営技術”は必要性が薄らいでゆくのは間違いないことと思えてきます。

 ただ、そこで問題になるのは、その組織構成員の成長をどのように実現する
かと言うことです。その実現なく単純に組織統制の手を緩めてしまえば、間違
いなくほとんどの組織は迷走を始め、致命的な失策を数回重ねるだけで、消滅
してしまうことでしょう。
 
 どのようにして、経営者と経営観を共にするような構成員を増やし、組織を
満たしてゆくか。考えるまでもなく巨大な組織よりも中小零細企業組織の方が、
本来は教育効果の浸透の面で有利な筈です。多分、王道もショートカットもな
い道程なのであろうと思いながら、最近増えている真剣な面持ちの参加者がず
らりと並ぶ勉強会の場で、ぼんやり考えてみたりしています。
 
 その後、一時の持て囃され方を耳目にしなくなりましたが、組織風土改善と
言う考え方が流行ったことがあります。所謂「組織はなぜ変わらないか」と言
うテーマです。組織風土の変化について、消費者のグループごとの動機付けと
反応の異なりを描いたキャズム理論を適用してみて、考えてみました。かなり
しっくり来る説明になっているように考えていますが、いつもの如く、マーケ
ティング原理を組織内の人々に応用する考え方ですので、違和感を持つ方もい
らっしゃるかもしれません。本文に対するご意見・ご感想をお待ちしておりま
す。頂戴したご感想などへのお返事の目標納期は5営業日!!
=================================

その319:深淵の両側

「ああ、そうですねぇ。お客が飽きたと言うよりも、店長の店では何かを超え
られなかったって理解だと思いますけどねぇ」と、見下ろすように私に話す長
身のパチンコ店のベテラン店長に掛けたまま私は辞書のように厚い書籍を示し
ながら答えた。

 書籍はスロット機種の定番ジャグラーの紹介本。無関心の者には信じられな
いようなジンクスが、広くファンには受け容れられていることが分かる。スロ
ット機は平板で円形のボタンを三つ連続で押して遊技する。ボタンを押す際に
指を捻って念を込めて押すと当たり易いなどとある。中のマンガの主人公は、
縁起を担ぐあまり、転職に際して履歴書に印鑑を押そうとすると、つい捻って
しまって書き直してばかりいると嘆いている。

 このチェーン店の新任の店長が増台したジャグラーを話題にしたいと言うの
で、「ねじる」をテーマに販促を企画してみた。ご来店客にお渡しするお絞り
も、捻ってから渡して「おねじり」と呼ぶ。無料で配るお菓子も「捻り飴」な
どの類。コーヒーを渡す時にさえマドラーでよくかき混ぜながら渡す。常連の
お客様の間で大好評だった。この噂を聞きつけて、同チェーンのベテラン店長
も同じ仕組みに取り組んだが成果がぱっとしない。ほんの少々の期間でお客が
飽きたのだと分析して、私にその結論をぶつけて来たのだった。

 先日私は待ちに待った「テープ起こし」のプリントアウトをじっくりと読ん
だ。中身は神田昌典氏の久々のマーケティング論がウェブのセミナー形式で流
されたもの。私にとっての神田氏の処女作通称ピンク本の衝撃は大きかった。
今でもその内容を読み返すことがあり、人に勧めることも多い。その原理はい
つまで経っても錆付くことがない。しかし、文中の彼の発言を読み解くと、ど
うも彼の紹介した手法がもう効かないとの怨嗟の声が上がっているように感じ
る。ピンク本の続編は通称青本。そこには嬉々として派手な封筒や文字だらけ
の書面のDMを既存客に送りつけていた経営者の声が載っている。仮にこれら
の手法を繰り返すだけなら、早晩受け手の感激は色褪せることだろう。

 キャズムの説明を思い出す。キャズムの前に位置するアーリー・アダプター
と後に位置するフォロワー(正確にはアーリー・マジョリティ)では、商品に
対する思い入れが違う。キャズムは本来ハイテク商品の分析だが、消費者全体
に適用することも、消費者以外の人間の集団行動に敷衍することも、原理面で
は十分できそうな気が私にはしている。

「キャズムって本を読みましたか。店長の店のスタッフさんや社員さんは、き
っと溝を越えられなかったから、御遊技客の方々に見透かされたんだと思うん
ですけどね」。
 長身のベテラン店長に、立ち上がって尚も見上げ、私は告げた。

=================================
☆当コラムはプリントアウトしてお読みいただくと、より一層楽しめます。☆
=================================
【MSIグループからのPR】

国内市場での付加価値向上の万能薬。記号消費!
記号消費をじっくり考えてみるための…
関連(しているかもと勝手に考えている)書籍を一気にご紹介。

<記号消費関係>
●『消費の記号論』 星野克美 著
●『消費社会の神話と構造』 ジャン・ボードリヤール 著
●『消費社会と現代人の生活 ?分析ツールとしてのボードリヤール』
 矢部謙太郎 著
●『「買いたい!」のスイッチを押す方法』 小阪裕司 著

<記号論関係>
●『記号論への招待』 池上嘉彦 著

<ボードリヤール関係>
●『ボードリヤールなんて知らないよ』 クリス・ホロックス 著
●『ボードリヤールという生き方』 塚原史 著

<構造主義関係>
●『寝ながら学べる構造主義』 内田樹 著
●『本当にわかる哲学』 山竹伸二 著

<吉本隆明関係>
●『最後の吉本隆明』 勢古浩爾 著
●『ぼくが真実を口にすると 吉本隆明88語』 勢古浩爾 著

=================================
発行:「企業から人へのコミュニケーションを考える」
 合資会社MSIグループ(代表 市川正人)
下のアドレスにご意見・ご感想を頂ければ幸いです。
 bizcom@msi-group.org
このメールマガジンは、
インターネットの本屋さん『まぐまぐ』を利用して
 発行しています。
 (http://www.mag2.com/ ) 
毎月10日・25日発行 盆暮れ年始、一切休まず足掛け14年。

マガジンID:0000019921 (ナント、たった5ケタ)
★全バックナンバーはまぐまぐのサイトで掲示されております。
 http://archive.mag2.com/0000019921/index.html
★弊社代表のコラムが色々満載。
 ソリアズのバックナンバーも各号の全文が読める弊社ブログ。
 http://tales.msi-group.org/?cat=2
★講読の登録・解除はこちらのURLでお願いします。
 http://www.msi-group.org/SAF-index.html
=================================
※ ご注意!!
 サーバのエラーなどで読者登録が解除されてしまった方がいらっしゃる様子
です。当メルマガは毎月10日・25日に休まず発行しております。届かない場合
には、上述の弊社ブログにて発行状況をご確認の上、再び上述の弊社サイト専
用ページにて再登録をして下さい。
=================================
次号予告:
 第320話 『企画の虚実』 (5月25日発行) 
 ピンク映画の時代からアダルト業界のトップランナーであり続け、70歳を過
ぎて尚、毎月コンスタントに作品を作り続ける代々木忠監督。そのドキュメン
タリー映画を見て考えた“企画” の本質についてまとめてみました。

(完)