『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』

新宿のバルト9の、私の誕生日の前日深夜の回で観てきました。公開4日目ではありますが、流石に平日夜の11時25分のからの回だけあって、7割ぐらいの席の埋まりようでした。新宿では二館の上映ですが、バルト9一館で一日に16回もの上映をしています。まあ、この時間枠でこれだけの混みようを実現できる方が寧ろ不思議なくらいのヱヴァ人気と考えるべきかと思いました。

カタカナ表記が変わったヱヴァ新シリーズの三作目です。一言で感想を言うとかなり好きな映画です。三作の中で私には一番人気です。オリジナルシリーズに比べてストーリーの逸脱が少なかった第一作は、リビルドなる新手法によると言う緻密な描写に圧倒されました。

それに比べて、第二作はメガネっ娘キャラの登場など色々面白い新要素はあるのですが、ストーリーや設定が中途半端にオリジナルから離れる毎に注意が削がれ、嫌いではないのですが、第一作に比べて今一感が残りました。このブログにも書きましたが、好きなキャラである綾波レイに愚昧な性格上の改竄が為されていたり、好きな使途であるゼルエルが不細工なフォルムになっていたりなど、幾つかの興味深いと感じたポイントを相殺するような部分が細かく頻発するが故の今一感です。

この第二作の最後の予告などまるで無視して、唐突に第二作のエンディングから14年の歳月が過ぎた設定で、オリジナルとは完璧に乖離したストーリー設定のぶっ飛び感が非常に爽快でした。第一作から第二作は待たせに待たせて2年の歳月を経ていますが、今度はさらに一年長いまる3年の歳月で第三作が登場しています。「もう何を出されても文句言わないぐらいにじれているでしょうね、ファンの皆さんは」と言う作り手の声が聞こえてきそうな、無理強いの展開が新鮮な驚きです。

ネルフに反旗を翻して、初号機を改造した空中戦艦を縦横無尽に乗り回す、大人びて表情まで変わったミサトとザクザクに髪を切ったリツ子に、もう過去の面影はありません。相変わらずメガネっ娘は作戦中に懐メロを口ずさみ、以前以上に聞えよがしに「にゃ」を連発しつつ、醒めた見解を述べます。私の大嫌いなキャラのアスカも変に媚を売ったりツンデレな部分がなく、単なる戦闘員に徹していますので、いつもよりはやや許せる感じです。このようなキャラ立ちした女性達の奮戦ぶりは全く飽きさせません。

この女性陣の敵がたとなったのは、ゲンドウ率いるネルフですが、こちらは冬月、カヲル、シンジの4人の男衆によるBL紛いの世界です。おまけにオリジナル以上に女々しく、泣き喚き、すねては駄々をこねまくるシンジにはゲンナリきます。基本的に男色系の作品は吐き気を催すほどにダメな私なのですが、辛うじて、こちらの陣の場面にも救いがありました。それは、シンジの為に料理に取り組んだりするような馬鹿げた綾波レイが消えて、オリジナルにおけるサードぐらいの心情にリセットされた綾波レイが登場することです。綾波レイにはこれぐらい無機質な心情描写と抑制されたエロスがなくては本当に駄目だなと痛感させられます。

ストーリー展開が複雑でついていけないという声を事前に聞いていたので、少々警戒して行きましたが、何人かの登場人物達が14年ぶりに覚醒したシンジに解説して聞かせる努力を払ってくれるので、全体の設定理解と言う意味では以前のテレビシリーズなどのオリジナルに比べて非常に分かり易くできているように思います。リリスやアダムの容器、さらに二本の槍の種類がどうのと言う、お決まりの語られない部分があるので、その辺は、オリジナルの時同様に想像で埋めるしか(解説本を読んでも頭が悪いのか私は完全には理解していません。)ありませんが、大枠の設定はすんなり入ります。二種類あるパンフのうちの廉価の通常版にはストーリー解説的な機能が殆ど見受けられませんが、それでも、大きな問題を感じることはあまりありません。

ここまで大幅にオリジナルから逸脱した展開なのに、カヲルの首はどうしても千切らなくてはならなかったのかとか、先述の散在するBL世界や見苦しいシンジの問題は一応ありますが、全体として観た時に、素晴らしく面白い作品になっていました。例えば、噂程度にオリジナルストーリーを知っている人間がいきなり、このQを観てもそれなりに楽しめるのではないかと思えてしまいます。

一つ、大きな「?」だったのは、本編上映前に長々と上映される『巨神兵東京に現る 劇場版』と名付けられた一篇です。ウィキで見ると10分を越えています。(ちなみに、バルト9ではアニメ系の作品の予告がさらにやたらと長く、ついでに『妖怪人間ベム』の実写版や到底観たくなると思えない『変態仮面』の実写版のトレーラーまでが加わり、一回の上映時間が2時間にもなっています。ヱヴァ本編は95分しかないにも拘らずです。)

庵野秀明監督の過去に読んだインタビュー記事か何かの中でも、巨神兵がヱヴァのモチーフの一つであることは読んだことがありましたし、この作品の中に登場する巨神兵の姿はPR記事か何かで見た記憶が微かにあります。しかし、どうもオリジナルの巨神兵とはかなり姿形が異なるように思えますし(もともとオリジナルの方は出てきてすぐにドロドロに溶け始めるので原形を留めていないということがありますが)、微妙にヱヴァにも似せてあるようで、何か中途半端感が否めません。おまけに映像の背後に流れるモノローグキャラは、綾波レイの声です。

ガンダム系の映画の頭に「チョロQガンダム」などの短編が付いていることがありますが、それらでさえ、別作品二本立てとして位置付けられているので、映画紹介サイトなどで単品で検索ができたように記憶しています。ところがこの『巨神兵…』はそのような扱いさえされていないのです。

ジブリのトレードマークのトトロが画面に大きく出てから、いきなりこの作品が始まり、ヱヴァで登場するような容赦ない都市破壊を実写特撮で見せる画像が10分の後半で続き、そしてまた、不躾にアニメのヱヴァ本編が始まるのです。私にはぎくしゃくしたものに感じられるこの流れを何の意図を持って用意したのかが、どうも私には理解できません。少なくとも見る側からすると、レッドバロンのダイジェストを見せられた後に、ダンバインかマクロスの長編でも見せられたような気分になります。それも少なくとも大っぴらには、この『巨神兵…』が告知されていないので、(少なくとも私は)不意打ちで見せられる訳です。単体で見た時、できの悪い作品では決してないと思うのですが「なんで、この作品はここで見せられることになっているのだろ?」と言う不自然感と言うか違和感が非常に残りました。

それでも、この『巨神兵…』とセットで見る必要のないので、本作DVDは間違いなく買いです。