『トータル・リコール』

月曜日のバルト9の12時ちょうどに終了する夜の回で観てきました。チケット売場のあるロビーはかなり閑散としていて、『プロメテウス』、『アベンジャーズ』、『ダークナイト ライジング』、そして封切られたばかりの『映画 闇金ウシジマくん』まで上映されている割には、入りの少ない様子に見えました。封切られてから2週間半、『トータル・リコール』を観たシアターは400席以上あるのに、私も含めて一桁の観客でした。座席稼働率2%程度の筈です。

結論から言うと、私はこの映画が好きです。近未来モノのSF作品の中では、かなり上位に食い込む映画のように感じられます。ですので、その映画が封切後2週間半でここまで入りが少ないことに驚かざるを得ません。

カリフォルニア州知事となったシュワちゃんの代表作最高峰はやはり『ターミネーター』(シリーズ)だと思いますが、その次の辺りを挙げろと言われると、やはりSF物で、『プレデター』か旧作の方の『トータル・リコール』であると思っています。まあまあ英語の発音が聞き易くなってきていて、ラッキィ池田の振付の薬缶体操のCMがまだ記憶に新しい頃のシュワちゃんの代表作であるのは間違いないものと思います。

旧作『トータル・リコール』は、私にとって(今回のリメイクにも共通する)記憶の「取り外し」のような概念が面白く、当時としてはSFXもかなり斬新で、印象に残る作品でした。しかし、一般人が優秀な工作員としての過去を思い出す設定の物語でシュワちゃんの身体が、映画の冒頭でどう見ても一般人として不自然であることを敢えて黙認しなくてはいけない無理さ加減も同時に印象に残っています。まだ『氷の微笑』前の垢抜けないシャロン・ストーンもまあまあでしたが、あの体格でシュワちゃんを倒さねばならないエージェント役と言うのもまた無理があります。おまけに、この旧作『トータル・リコール』は、軽いコメディ・タッチになっており、前後に発表されている『ツインズ』や『キンダガートン・コップ』にも通じるテイストが感じられます。しかし、私はわざわざシュワちゃんにコメディを期待しては居ない派なので、SFモノ全般で見た時に、旧作『トータル・リコール』の評価は素晴らしく高くはありません。

今回の『トータル・リコール』は、私にとって旧作を幾つかの点で大きく上回っています。まず、一番の魅力は世界観のある映像です。最近少々目新しくなくなりつつはあるように感じますが、映像で表現される近未来の世界は、非常に精密に構築されています。『マイノリティ・レポート』と『ブレードランナー』に酷似していて、ちょっと『未来世紀ブラジル』のようでもあると思って観ていましたが、パンフを後で見て、『マイノリティ・レポート』と『ブレードランナー』の二作は原作者が同じと知りました。道理でと言う感じです。

コリン・ファレルも適材適所に思えます。シュワちゃんではどうしても違和感があった普通の男の役が自然に演じられていますし、コメディ要素が全くない深刻で疾駆するように展開する事態に真剣に対応している主人公の様子に無理がありません。この人は、世の中的には『マイアミ・バイス』が有名とのことですが、私はテレビも映画も見ていません。映画で言うと、『デアデビル』の悪役や『アレキサンダー』を超えて、私は『フォーン・ブース』が印象に残っています。見ているはずでも思い出せなかったのですが、これまたパンフを読んで、この人が『マイノリティ・レポート』にも出ていることを知りました。

そして、この映画の或る意味最大の魅力は、やはり、ケイト・ベッキンセールです。『パール・ハーバー』などにも出ているという話ですが、何と言っても、『アンダーワールド』シリーズです。一途に決めた道を只管戦い進むヒロイン役をやらせて、この人の右に出る女優は居ません。

アンジェリーナ・ジョリーは顔に癖が有り過ぎで、演技・演出が既にやり過ぎの域に入り過ぎです。今日、シリーズ最新作のトレーラーを見たばかりなので、パッと思い出すのは、『バイオハザード』のミラ・ジョヴォヴィッチです。『ウルトラヴァイオレット』も『ジャンヌ・ダルク』も、トレーラーしか見たことのない『三銃士』も、ストーリー設定・キャラ設定そっちのけの香港かどこかのアクションスターのような感じに思えます。

他には最近では『アイアンマン』や『アベンジャーズ』に出ているブラックウィドウ役のスカーレット・ヨハンソンでしょうか。アンジー、ミラの二人に比べたら、かなり好感が持てるのですが、最近開いたアクション路線の境地以外でパッとした役がほとんど見つかりません。話題になった『ブラック・ダリア』での役も大根臭い感じは否めません。

あとは、敢えて挙げると、『エレクトラ』やテレビシリーズ『エイリアス』のジェニファー・ガーナー かと思いますが、どうもピンときません。大きく見える顔が好きになれないのも理由です。テレビシリーズも展開がややこしくて、断片的に見て投げ出しました。シリーズ中で何度もコスプレ張りに外観が変わるのですが、どれもここまで板につかない役者は珍しいようにさえ思えます。

あまりに圧倒的なイメージが『アンダーワールド』で出来上がっているケイト・ベッキンセールは、やや東洋系の顔で(おまけにややタヌキ顔系で)親しみが湧き、おまけにスタイルは素晴らしく、さらに、エロい濡れ場もこなせば、種族間の確執も表現できるという演技力つきです。さらにアクションシーンもリアル感を失わない程度に、過度のスピード感などなくきっちり見せてくれます。

今回の『トータル・リコール』では、一応敵役ですが、警察(なのか軍なのか、公安なのか分かりませんが)のエリート女性エージェントである訳なので、やはり使命感に則って、執拗に主人公達を追い詰めてきます。おまけに冒頭では記憶を甦らせる前の主人公の妻なので、いきなりベッドで下半身パンティ一丁の愛くるしい若妻役です。流石実生活で旦那の監督は、自分の嫁さんが引き立つ見せ方をよく心得ています。

そんなこんなの見せ場は山ほどあり、さらに設定は先述の通り、名作『ブレードランナー』や『マイノリティ・レポート』同様の濃さな訳ですので、ハズレになる訳がありません。DVDは勿論買いです。

追記:
 鑑賞後に一番最初に頭に浮かんだのは、「これほど主人公が飛び跳ねる映画は多分初めてだ」ということでした。三次元に入り組む構造物を舞台にした追跡劇がかなりあり、そこでは、そのリスク故にためらいつつもジャンプするシーンがやたらに出てきます。