『メン・イン・ブラック3』

封切から三週目に入った平日の夜。久々のバルト9で終電時刻近くに終わる回を見てきました。多分、バルト9で一番小さなシアターでしたが、半分以上の席は埋まっていたと思います。私の見た2D版に、3D版を合わせると、一日に10回近くは上映していたと思います。

『メン・イン・ブラック』のシリーズは、結構好きな作品群です。ウィル・スミスの出演するSF物は概ね好ましい作品が多く、このブログ『脱兎見!東京キネマ』でも『ハンコック』の感想で書いている通り、『アイ・アム・レジェンド』や『ハンコック』が途中から外してしまう感じは少々ありますが、『インデペンデンス・デイ』・『ワイルド・ワイルド・ウェスト』・『アイ,ロボット』など、いくつも挙げられます。SF映画にありがちな大惨事や破滅の回避がほんの少人数の人々の双肩に圧し掛かるようなシチュエーションでのウィル・スミスの独特のジョークや台詞回しがうまくマッチしているからのように思えてなりません。

さらにそこへ、日本では『宇宙人ジョーンズ』としてものすごいテレビ露出のトミー・リー・ジョーンズの共演です。面白さが一定レベルに達しない訳がない筈です。

シリーズ第一作は、当時の映画の中で、ハチャメチャなSF大作のジャンルを確立したように思います。その世界観はきちんとできており、日常の生活の中に紛れ込んで生きている異星人達の存在と、その非合法活動を取り締まる立場のエージェント達の活動がきちんと描かれる、言わば設定紹介の要素が映画の半分程度を占める、或る意味で“真面目”な作品であったと思います。ハチャメチャになるのは、先述のようなウィル・スミスらの演技によるものが大きいのですが、容赦なく独特の特撮でこれでもかというぐらいに提示される宇宙人達の擬態が、この映画の魅力となっていると思います。

また、ウィキなどによれば、都市伝説的や陰謀説の類も映画の中にエピソードとして取り込まれているのが面白さの主要因として記述されています。その通りだと思います。私も留学時代に誰がこんな記事を金を払って読むのかと思っていた、都市伝説ばかりのタブロイド紙(スーパーマーケットなどでよく売られています)を、真面目な情報源として主人公達が読み込んでいる場面で私も噴出しそうになりました。

シリーズ第二作は第一作の世界観を忠実に引き継ぎ、さらに第一作では殆ど登場しなかった女性脇役を大きくクローズアップしてみた意欲作です。新たな女性エージェントが登場するまでの物語でもありますし、悪役のほうも妖艶な女性(型)の異星人ですので、自ずとエロティックさが加わります。しかし、宇宙人ジョーンズ扮するエージェントKが前作の最後で引退している前提まで忠実に引き継いでいるので、彼が完全に復帰するまでの話のもたつきや、女性登場人物の描写に時間を割いていることから、全体にまとまりの悪い作品になっているのも否めません。

私は第二作も第一作と同程度かほんの僅かに劣る程度に好きなのですが、世の中の評価では第二作は全く芳しくないものとなっているようです。

1997年に発表された第一作から5年の歳月が(映画の中の設定でも)過ぎて、第二作が発表されています。今回の第三作はそれからさらに10年の歳月が過ぎて、第二作の女性エージェントがどこにも見当たらないどころか、エージェントのトップであるエージェントZまで急死したことにされています。

この第三作はシリーズの中で私から見て最高傑作に思えます。最大の理由は、第一作と第二作に比べて、主人公達の人間性に迫るドラマに練り上げられていることだと思われます。落涙に至ることはないものの、シリーズ初の泣かせるドラマと言った方が形容としては端的であるでしょう。古株のエージェントKは第一作において、単に異星人が絡む事件に関与してしまった優秀な警察官をエージェントJとして採用したことになっていました。しかし、実は彼らが数十年昔から関わりがあって、エージェントKはその事実をひた隠しにしていたことが描かれています。その理由が、歴史の書き換えによって存在ごと消されたエージェントKを取り戻すべく、エージェントJが孤軍奮闘する中で描かれています。

ストーリーの構図は、このブログの『蛇のひと』の感想でも述べ、『恋人たちの時刻』・『エンゼル・ハート』・『ゼロの焦点』などに共通する知られている筈の人間について尋ね歩く展開に近づいてきているのが、私が好印象を持った要因かもしれません。

エマ・トンプソンが新任トップとして登場しますが、『ハワーズ・エンド』、『日の名残り』、『いつか晴れた日に』などの重厚なイメージが僅かに残されているままに、いきなりコメディエンヌになりきっているのも評価ポイントです。また、目くるめく五次元世界を覗き見て未来の選択肢を数多知りつつ、主人公達を希望ある世界に導く者として登場するグリフィンというキャラクターも、先述のドラマ性に厚みを持たせていて好感が持てます。当然、DVDは買いです。

追記:
 このシリーズの作品のエンディングは、私たちの知る宇宙全てが、他の宇宙のほんの小さな球体でしかない入れ子構造を見事に映像で示したりする傑作です。今回の第三作では、そのような宇宙観ではなく、バタフライ・エフェクトを物語にマッチする形でうまく表現してくれています。単なるドタバタSFにこのシリーズを終わらせない魅力的な場面だと思っています。