『レッド・ティアーズ SWORD OF BLOOD』

上映終了前日の平日の夜、明治通り沿いの映画館で見てきました。以前、『スリーピング・ビューティー 禁断の悦び』を見て、がっくり来た映画館です。『レッド・ティアーズ…』の上映は一日一回。都内でもたった一ヶ所。全国ではたった三ヶ所しかない上映で、都内どころか関東でもたった一ヶ所のここでもレイト・ショーの一日一回の上映でしかありません。

雨模様の夜に広い場内に、観客は30人程度。女性客は二人連れの女性一組だけと言う状態でした。男性客のほぼ半数は、オタクっぽい感じであり、この映画の特撮やスプラッタ表現について上映後に延々道路でまで議論をしつつ帰途についていった人々です。

国際的に有名な日本のアクションスターナンバーワンとパンフレットに書かれている、倉田保昭の企画製作による映画で、彼が出演する100本目になる記念作とのことです。パンフレットには彼の100の出演作が一覧表になっています。私はこの人物を、何となくどこかで見たことがあるというような程度の記憶しかなく、特段の感慨が湧く訳でもありませんでした。特に香港映画や香港でも好評だった和製アクション映画に出演していたと言うことのようですが、その手の映画をあまり私が見ていないと言うことだと思います。一覧表の映画で見た記憶があるタイトルは一つもありません。

企画製作をやってみて最大の障害は資金集めだった様子で、「今回の評価がよかったら本当は二部作の原作になっているので、是非続編を作りたい、資金を提供して欲しい」と言う話まで書かれた珍しいパンフレットです。

世間の評価は私には分かりませんが、私の評価はギリギリ及第点行くか行かないかの危ういポジションです。アクションシーンは当然多く、後半はアクションの応酬と言って過言ではありません。そのワイヤーアクションなどのありようは、殆どその類の作品を前述のように見たことがない私でも、香港風(ないしは中国風)と間違いなく理解できる、独特のテイストです。Vシネで見たら、非常によいできだと私も思ったことでしょう。(ちなみにタイトルは中国語圏上映を意識してか、『紅涙』と漢字書きされた画面が出ます)

そして、設定も深掘りする余地が非常にあり、吸血一族(もしかすると、食人一族と言った方が良いのかもしれませんが)の悲劇を精緻に描くことが十分できるレベルです。上手く行けば、アンダーワールドシリーズぐらいにはできたものと思われます。それも資金の制約が現状のままであってもです。

私がこの映画を見に行きたいと思いたったのは、加藤夏希が主演で、初めての本格アクションに挑戦すると言うネット上の映画記事を見たからです。このブログでも『ギララの逆襲 洞爺湖サミット危機一発』の感想で書きましたが、ミニ情報番組『ナッキーパンチ』で、アニメトーク全開の彼女が結構好きになってからのまあまあのファンですが、この映画の紹介や評などを見るごとに代表作が異なるほどに、ガーンと売れる有名役が見当りません。

私は『ギララの逆襲 洞爺湖サミット危機一発』での真顔で主役コメディエンヌを務めたのが最高の出来だと思っていて、彼女の「ネチコマ」踊りを刳り貫いてiPODに収めているぐらいです。元クライアントの常務から薦められて入手し、ざっと早送りで見た『大阪ハムレット』の方が、映画のステイタスとしては彼女の演技開眼の評価があってもしかるべき作品のようにも思えます。しかし、この作品が今回の『レッド・ティアーズ…』の映画評では殆ど言及されていないように思います。ムービー・ウォーカーでは「共演は「パラダイス・キス」の加藤夏希、」となっています。

数々のよい点の萌芽が見えるのに、この映画がVシネレベルで落ち着いてしまっている最大の理由は、役者たちの棒読み台詞が短い映画の前半にかなり長く続くことではないかと私は思っています。頭部切断連続殺人を追う刑事が四名出てくるのですが、これら四人がどれも台詞をやたらにでかい声で棒読みするのです。その棒読みで中途半端なギャグまで入れられるとゲンナリします。倉田氏以外の三人もアクションの観点で選んだだけではないようなことがパンフでは強調されていますが、どうもそのようにしか思えません。

予算の関係か少々ちゃっち過ぎる特撮レベルは、優れた設定や解けない謎を中盤過ぎまで残しつつ進める展開など、多々ある長所で十分補えたように思います。オタクらしき観客が議論を重ねていたスプラッタ表現もそれほどではなく、『片腕マシンガール』のような、ギャグとして過剰に塗されている訳ではなく、必然の範囲に収まっていて、私には(比較論ですが)好感が持てます。

お目当ての加藤夏希は、台詞もピンボケでさらにそれが棒読みの流れに取り込まれていて、おまけに何やら野暮ったい服ばかり着ていて、残念です。が、『ギララの逆襲 洞爺湖サミット危機一発』では額に一筋流れただけの血が、今回は全身を血飛沫に染めての大熱演です。一見の価値は十分にあったと思います。

そのように考えると、ギリギリ、DVDは買いでしょうか。