『プリキュアオールスターズ NewStage みらいのともだち』 番外編@小樽

封切日の土曜日、自宅のある札幌西区から、札幌の西側に隣接する小樽の映画館に見に行ってきました。朝一の回の次の回は、封切ってからも二回目と言うことになりますが、500席近くある筈のシアターの中はスカスカでした。春休み前であることも理由とは思いますが、北海道の全人口の三分の一以上を一市で占める札幌への商業集中がこんな所にも見られます。それを分かっていて、娘が連れて行けというので、敢えて混雑を避けて札幌市中心部の映画館ではなく、小樽に足を伸ばしました。

昨年まで毎春テレビで始まる新シリーズの番宣目的でリリースされて来た、『プリキュアオールスターズDX(デラックス)』シリーズ三部作は、昨年で終わったと言う話だったので、今年以降プリキュアの一連の作品は、継続されない、ないしは何かフェードアウト的な位置付けになるのかと思っていましたが、全くそのようなことはなく、何部作かさえ分からない新シリーズが始まった様子です。

この新シリーズには以前のデラックス・シリーズとは異なり四点の特徴があります。一つは今までのデラックス・シリーズはプリキュア・シリーズ全体の登場人物が等しく扱われていたのに対して、ニューステージでは、今春から始まると言う『スマイルプリキュア』の5人と今春までの作品『スイートプリキュア』の4人が重点的に描かれていることです。今回は総勢28人に上るプリキュア陣ですが、残りの19人は殆ど、ピンチの時に駆けつけるゾフィーとか仮面ライダー新一号のような扱いです。

確かに、28人にもなって、全体の尺は70分しかないのですから、一人当たりの平均登場時間は、2分30秒しかありません。これでは、着替えや化粧などをイメージしたアクションを伴う長い変身シーンや見得切りを終え、さらに必殺技を放った後は、持ち時間が限られてしまい、物語を支えることができません。プリキュアが互いの生活環境を訪ね合うようなデラックス・シリーズ第一作のような展開が、私は手が込んでいて好きですが、そのようなことは望むべくもないであろうと端っから諦めていました。

二点目の新しいポイントは、この作品が、デラックス・シリーズ第一作の世界観をそのまま引き継いでいることです。デラックス・シリーズ三部作では全く別の世界観の中で物語が展開します。事前に読んだチラシにあった通り、デラックス・シリーズ第一作の横浜市みなとみらい付近が舞台で、そこで爆発して消えたフュージョンと言う敵が、粉々の中から蘇るということから始まるのが本作です。デラックス・シリーズ第一作のことは、劇中でテレビなどでニュース報道されていますし、前作以上にみなとみらいの観覧車やランドマークタワー、マリンタワー、氷川丸は勿論、キング、クイーン、ジャックなどの横浜名所が数々登場します。アニメでここまで現実の都市風景を再現している作品は記憶を辿っても余りありません。横浜は私も産まれた街で多少思い入れがあり、仕事でもよく行くところです。横浜の街並みを見るという観点では、平成ゴジラシリーズの『ゴジラvsモスラ』に並ぶ作品です。

面白いのは、世界観としてはデラックス・シリーズ第一作から数日後と言うことになりますが、その間にプリキュアは14人から一気に28人に増えていることになりますから、一点目のような設定が必要になると言うことなのだろうと思われます。劇中には、若手(?)のプリキュア達から古手(?)プリキュアの面々が「先輩達」と呼ばれているシーンもありますので、何らかの上下関係が意識されていることになりますが、一応想定上、彼らは小学生から高校生まで年齢はバラバラの筈です。「先輩」呼ばわりは前作の決戦でフュージョン本体を倒し、メディアにも有名になっていると言う意味で使われていると言うことなのかもしれません。

三点目のポイントは、デラックス・シリーズと大きく異なり、主人公がプリキュア以外の人物であると言うことです。総勢28人のプリキュア陣は、事実上脇役でしかなく、主人公は、父の仕事の都合で横浜に転校してきたばかりの少女、坂上あゆみで、彼女がフュージョンの欠片の小さな生物をペットにしてしまったことから始まる後日譚です。ペットとして可愛がっていた「ふーちゃん」が、見知らぬ街で疎外感を感じ「自分の嫌いなもの、みんななくなればいい」と思ったあゆみの心に感応してフュージョンへと戻り、街を再度リセットするべく動くのでした。大切なともだちのふーちゃんに自分の犯した過ちと本当の気持ちを伝えようと必死にふーちゃんに近づこうとするあゆみは、その思いの強さ故に、なんと29人目のプリキュアに変身するのです。

ネットで見ると、テレビ登場の予定はないどころか、映画の予告やチラシでも触れられていない(筈の、)“(ネット上では)映画初の味方オリジナルゲストプリキュア”と呼ばれているキャラクターです。思いを伝えたいと言う気持ちからの変身で、まんまの名前の「キュアエコー」になります。ネットにも書かれている通り、新作の『スマイルプリキュア』とはかなりコスチュームが違うので、本当にこれっきりの登場であるのかもしれません。

三点目の特徴から導かれる四点目は、本作には明確な悪役がいないことです。その結果、悪の価値観を乗り越えようとするプリキュア伝統芸の「不撓不屈劇」も殆ど見られません。最近のウルトラマンシリーズや仮面ライダーシリーズにも言えることですが、勧善懲悪の世界観ではないのです。ふーちゃんは、荒れ狂うフュージョンの残骸からあゆみを守るため力を使い果たし、あゆみの心に、まるで『千の風になって』の歌詞のように、「ずっとともだちだよ」と呼びかけつつ、マリンタワーの頂上から横浜の街に溶け込んで消失します。あのまま生き残っていたらペットでは済まされなかったでしょうが、少々ありきたり感ある展開ではあります。

少なくとも、私の知る初期のプリキュア・シリーズでは、善悪の境界はかなり明確で、悪側から善側に寝返る霧生姉妹などの存在はありますし、その後もそのような登場人物が何人か居ると娘は言いますが、悪側に思いを伝えれば分かってもらえるという期待を持った話の展開は、記憶にありません。特にそのような勧善懲悪の世界を真っ向否定するような物語を中心軸にするというのは、或る意味で、画期的なプリキュアのストーリーであるのかもしれません。

プリキュアの各シリーズのDVDボックスがかなり売れているとDVD系の雑誌などにも書かれていますが、今回の話はどうも、そのDVDの特典にありそうなミニ外伝レベルにしか見えませんでした。登場人物が限られていて、且つ、プリキュア達自身が主人公ではなかったからだろうと思われます。色々な意味で異色で面白い作品だと思います。DVDを買うほどではないとは思いますが、娘が買うことにするでしょう。

追記:
 本作の冒頭に登場する第一作の回想シーンには、多分、第一作では出てこなかったフュージョンの怪獣形態が登場します。口から炎のようなものを吐く姿はゴジラを彷彿とさせます。本文にも書いた平成ゴジラシリーズへのオマージュかと思います。