今は跡形もなくなっている元のコマ劇場の近くの映画館で日曜日の昼に見てきました。今までにこのコラムに書いたどの映画の時よりも館内に子供の数が多かったように思います。昨年10月末に封切になって、未だにこれほどの人気があることに期待感が湧きましたが、最終的な感想は今一つと言う感じです。
御当地ヒーローの琉神マブヤーと龍神ガナシーの二人がキジムナーのキジムンの助言を受けつつ、マジムン(どうも魔物と言う意味のようです)達と闘うというのがベースのストーリーですが、如何せん、沖縄テイストの緩さなので、決して悪玉が爆死したりすることはありません。
見たことのある人によると、2008年秋からスタートしているテレビシリーズでは、マブヤーとマジムンが闘っている最中に、その脇に三線(さんしん)弾きが何の脈絡もなく現れ演奏を始め、すると、マジムン達がつい踊り始めてそのまま踊り去ると言うほどの緩さなのだそうです。映画はそれほどの緩さではありませんが、それが逆に中途半端な感じになっているようには思えます。
所謂、B級SF、B級ヒーローものの域を出ていない特撮とチープ感なのですが、それを例えば、『日本以外全部沈没』のような馬鹿らしさで徹底して面白くすることもなく、かと言って、例えば『超忍者隊イナズマ!』クラスの大真面目な作品テイストになっている訳でもありません。
例えば、マジムンの首領はハブデービルという名前で、デービルが沖縄方言で「?でございます」と言う意味とパンフにはあり、マブヤーのパワーの源が「ちむぐくる」気持ち、つまり、相手を思いやる気持ちと言うことで、この他にもこのような沖縄の人には分かる面白さが多々配置されている様子です。
さらに、沖縄関係の芸能人に色々と召集がかかっており、ハブデービルはガレッジセールのゴリが大熱演をしていますし、龍神ガナシーはISSAが演じています。チョイ役では仲間由紀恵まで登場します。このように見て行くと、どうもやはり地元受けの作品と言う枠を越えられないまま全国規模の映画にしてしまった所に多少の無理が感じられるとくくれそうな気もします。
仲間由紀恵はマブヤーを導く立場で、本当に道に迷った主人公に正しい道を指さして見せますが、そのポーズは『トリック』の定番であったように見えます。また、主人公はヒーローショーで戦闘員役を務めるさえない男で、「バク転もできない」と悩んでいますが、そのヒーローショーのトップ役者がISSAで、ウィキで見るとISSAはバク転に失敗して入院し、仕事に大穴をあけたと言う話ですから、そのような楽しみ方も一応ある映画ではあります。
もともとビシッとした演技が光るような役者が存在せず、ユルキャラテイストの登場人物ばかりなので、演技が下手なのかうまい演技で緩キャラ役をこなしているのかよく分からない状態で映画がどんどん進んでいくのには、見ていて疲れを感じます。その中で、独りゴリの演じるハブデービルは、複雑な心理描写を難なくこなしていて、映画全体を辛うじてつなぎとめているように見えます。ストーリーラインを追いかけて行こうとすると、どうしても、ハブデービルの言動に注意が向いてしまいます。
地域振興の一つの成功事例としてみると、非常に面白い作品ではありますし、最後には、ハブデービルがマブヤーにも協力してウチナー(沖縄)を救い、悪態をついて見せても結局地元の人々から拍手喝采を受けながら去るなど、平和志向の究極の物語としてみることもできます。しかし、どうも、DVDを入手するほどの決め手に欠く作品でした。