『劇場版そらのおとしもの 時計じかけの哀女神(エンジェロイド)』

雨の日曜日の午前中。明治通り近くの映画館で見てきました。封切後8週近く経っている筈ですが、それでも、天候・時間枠にも拘らず、20人ぐらいの観客が居ました。観客は見た所、全員男性で、多分、私が最高齢です。

通称『そらおと』と言われ、大ヒットアニメだと言うこの作品をコミックでもTVでも、私は全く知りませんでした。見に行った理由は、単純に、この前見た『スーパー!』以降、「非常にみたい!」と思える作品がない中、何か普段とは毛色の違うものを見に行こうと思い立った結果にすぎません。

特に、好きなコミックの延長にある作品群や娘の好きな幾つかのアニメ作品など以外は、アニメ作品は知る機会がありませんので、(話題作などは)多少意識して見ようとは思っています。しかし、そのような考えから見ようと思い立った作品では、『いばらの王』と『サマーウォーズ』は、同時期に見たい映画が多数あったり、仕事との関係で都合が合わずに映画館では見られず、『空の境界』の連作は、チケットが皆売切れで見ることができませんでした。結局これらは、皆、DVDで見ることとなりました。

今回、さて見に行く作品を選ぼうかと、雑誌が無くなったので仕方なくサイトの活用も多少するようになった「ぴあ映画生活」を見渡して、「破壊的なギャグ、いきすぎたお色気で21世紀のアニメをひっかきまわし、話題を集めてきた“叱られアニメ“がスクリーン・デビュー」とあったので、これは見に行った方がよいかと、思い立った結果です。

予習としてざっと読んだウィキペディアのキャラ紹介はやたらに細密な描写で、読破し、概ねの世界観を知るのは一苦労でしたが、(これも、コミックを読んでいないので、特に詳しい訳ではないものの)『ああっ女神さまっ』のような感じが第一印象でした。さらに読み込むと、ダメな主人公の望みを叶えてくれる美少女ロボのようなストーリー展開がメインと知り、実写の映画ですが、『僕の彼女はサイボーグ』や『メイドロイド VS ホストロイド軍団』のような大枠を想定して映画館に向かいました。

僅か100分と言う短い時間の中で、映画は明かに前半と後半に分かれています。ウィキで予習しただけでも十分に分かる、アニメの総集編としての位置づけであろうと考えられる前半と、アニメのプロットを掘り込んで広げたであろう後半です。非常に驚いたのがストーリー構成の複雑さです。男勝りの幼馴染美少女が隣に住んでいつも同伴状態で、それなのに、恋愛感情抜きで(特に他の女子に対して)エロ欲求剥き出しの中二男子のもとに、三体ものエンジェロイドが同居するようになり、学園ドタバタが展開する第一層がまずあります。そこにそのエンジェロイドが元々居た世界、天上界のシナプスというものがあり、そこから主人公の居る街への干渉が、そこそこシリアスなSF劇として展開し第二層となっています。

ここまでは、ウィキを読んで想像はしていたのですが、驚いたことに、主人公の描画タッチでもコマの展開でも明かに異なる展開で、慣れないオッサンにはかなり斬新でした。これが、ウィキで「ギャグエピソード」と「シリアスエピソード」と呼び分けている事柄だったのかと、納得しました。私がこのような使い分けに最初に気づいたのは、当時連泊していたビジネスホテルで深夜にPC仕事を毎日している頃につけっぱなしにしていたテレビで流れていたアニメ『十兵衛ちゃん』ですが、私はてっきり、このようなモード分けは作品固有のものだと思っていました。

さらにもう一つ驚いたことがあります。この映画には第三層のようなものがあることです。それは、風音日和(かざね ひより)と言う名のウィキの配列からするとどうも脇役っぽい同級生の目線で、前半のすべての出来事が描かれていることです。少なくとも劇中で見る限り、どう見ても騒がしいか面倒を起こすかのいずれかに偏りがちなエンジェロイド達や、すぐに主人公を牽制するばかりの幼馴染キャラに比べると、圧倒的にけなげで、愛らしく、優しく、ダントツ人気に描かれている風音日和のモノローグで、延々とストーリーが展開するのです。後半に悲劇が襲う彼女を引き立てるには見事すぎる構成の妙だと思われます。その見事さ故に、前述の通り、原作やアニメでも、この風音日和が主人公で、同様にモノローグで展開してゆくストーリーなのかと前半を見終わるまでは疑ってしまうほどでした。

キャラ設定は、何となくエヴァにも共通するような、と言うよりも、エヴァにも見られるようなタイプ分けでかなり説明できそうな感じがしました。エヴァでは各々がキャラ立ちしすぎているのが、女性キャラがてんこ盛りであるだけ、うまく細分化されていて、私にも好感が持てる感じでした。エヴァでは大好きな綾波レイよりも、比較論では、一途な風音日和やスイカを抱きしめたエンジェロイド・イカロスの方が好感が持てます。しかし、逆にいえば、キャラ設定もやはり既視感を消せないということでもあります。(なぜ「」付きなのか分かりませんが)「非」現実の設定なども面白くはありますが、基本的なストーリー展開でも特段に新しい設定は感じられません。泣かせると前評判が高いらしい後半戦も、確かに急峻なシリアスパートで見る者を引き込むように思いますが、実写映画で見ただけで原作は知らない『最終兵器彼女』を彷彿させます。その意味では、過去の各種の作品を良いバランスでミックスした結果とも見えます。

キャラ全般やら好みの部分が結構見つかったので、テレビ版のアニメはいつか見てみたいと思うようにはなりましたが、わざわざこの映画版のDVDを買ったり再び見ることはないように思います。「キャラ全般」と言うのは、全体的に見てと言うことで、唯一主人公の男子が今一つ好きになれない部分は残念ながらあります。中二イズムの持ち主で、思春期の欲求に正直すぎると紹介されている主人公はエロガキと言うことになっていますが、執着しているのはパンツだのの話でしかありません。今時、少年漫画の領域でパンチラが当初人気だった『いちご100%』でもぎこちない初体験に主人公が至るような時代に、パンツを編隊飛行させるほどの執着がありながら、セックスそれ自体は意識されていないのを、「中二イズム」と呼ぶのは、中二の人々に失礼ではないかと思えたりは一応します。

劇中には、記憶に残すのが私にはほぼ無理と思えるほどに、例えば映画『大魔神』やら、コミック『究極!!変態仮面』などのオマージュがやたらに出てきます。エヴァなどでもオマージュは多々見られますが、それと先述のギャグとシリアスの両立、そして、そう簡単には解き終わらなそうな謎が控えているストーリー設定の三点辺りが、私には、ぴあの書く「21世紀のアニメをひっかきまわし、話題を集めてきた」アニメと言うことかと勝手に理解しました。

追記:
 娘が幼稚園時代によく見ていた『うたっておどろんぱ!』のひとみちゃんこと吉田仁美が、主題歌を歌っていることも発見でした。その流れで彼女のブログも発見しました。