617 ゼロ・アメニティ =R6メリケン奇聞=

===================================
経営コラム SOLID AS FAITH 第617号
===================================

 ご愛読ありがとうございます。第617話をお届けします。

 自民党総裁選が終わりました。これで停滞していた政局に取り敢えずの目途
がつく目が少々出てきたように思えます。日本初の女性首相の誕生の可能性が
話題となりますが、寧ろ、首相目前の段階で、「ワークライフバランスという
言葉を捨てる」と言い、自党の政治屋の面々にも「馬車馬のように働いていた
だきます」と明言した人物が首相になることの方が、明治以降の数少なかった
のではないかと思えます。

 当コラム第240話『不本意な取柄』には「何。ワークライフバランス?働き
もせずに、どうやって食って行けって話なんだ。能力もカネも知名度もある奴
が1時間働くなら、こっちは何もないんだから、せめて3時間でも4時間でも働
かなきゃ、簡単に淘汰されるぞ」と宣った社長が登場します。蓋し名言だと思
います。

 持たざる者は持てる者より多く働かねば伍して生き抜くことができません。
セーフティネットのお世話になる人が出ることもあるでしょうが、誰でも皆が
セーフティネットのお世話になることはできないため、まずは自助努力が必要
であるのは自明です。その努力の度合いは自分のアセットとの逆相関になるの
もほぼ自明でしょう。

 政治屋さんは本来持てる者の人々でしょうが、国難とさえ言われるこの状況
において、持てる者でさえ国家を支えるには馬車馬のように働かなくてはなら
なくなるというのは、今まであまり公言されなかった事実ではないかと思えま
す。

 ネット記事によると、「首相になる人間がワークライフバランスを捨てるな
どと言うな」とか「政治家を馬に例えるな」とか、極めて低次元で表層的な反
応があるようですが、今尚、霞が関や大手町のビル群の灯りは終電時間を過ぎ
てもかなりの階で点いたままですし、本来ワークライフバランスを十分実現し
ているはずの欧米でも、エリートと目される人々は、それこそ馬車馬のように
働くのが常です。

 現段階で首相になる人は誰であっても「火中の栗を拾う」ことになると言わ
れています。高市早苗新総裁は周辺国からも警戒されていると報道されていま
すが、安易に舐められスルーされて始まる安牌の人物よりも、外交においては
国益を実現しやすいように思えます。このコラムの次号があなたのお手許に届
く頃には米国大統領来日間近のはずですので、その展開のありようから目が離
せません。「火中の栗だろうが何だろうが拾う」と言っているようなので、あ
とは灼熱の栗があっという間に掌から零れ落ちないことを祈るばかりです。

 今号は6回シリーズ『R6メリケン奇聞』の第3回目です。このたびの米国旅行
で最も衝撃的だった光景と、そこから透かし見える付加価値ゼロ社会の根深い
貧困について描いた内容です。ご意見・ご感想をお待ちしております。頂戴し
たご感想などへのお返事の目標納期は5営業日!!

===================================
■第240話『不本意な取柄』 http://tales.msi-group.org/?p=371
===================================

その617:ゼロ・アメニティ  =シリーズR6メリケン奇聞(3)=

 米国の貧富の格差は大きく広がって、日本より遥かに高いと言われる賃金上
昇率も、その恩恵に預かっているのは上位の一握りしかいない。多数派の貧し
い人々は賃金もたいした上らないのに、日本を常に上回る高インフレに喘いで
いる。特に2021年からの3年間は酷く、各々の年のインフレ率は4.68、7.99、
4.13だったとネットにある。
 
 第597話『洋風奴隷』でも触れたように、増田悦佐の書籍には、米国では物
価上昇について行けない庶民が通常のスーパーマーケットを去り、ディスカウ
ント・ストアで食品を買い漁るようになり、さらにはそれも困難になって日本
でいう100均に群がり出したことが統計で分かると書かれている。その書籍
『いま、日本が直視すべきアメリカの巨大な病』が出版されたのは2015年。そ
れ以降事態はもっと酷くなった。
 
 米国オレゴン州の州都で米国版100均のダラー・ショップを数店訪れてみた。
取り分けダウンタウンの店舗は店舗の体を為していなかった。棚の上の商品は
地震被災の直後の状況のようにグチャグチャで、値札が付いていないものも見
つかる。どうやって在庫や売上を管理しているのか全く分からない。同行した
クライアントの小売店店主が言葉を失う。
 
 床は汚れそこに商品が落ちているのに、店員はそれを拾わない。惨状を晒す
商品棚の前を平然と歩き過ぎていく。辛うじて商品が並んでいるのはウォーク
イン冷蔵庫内の飲料と冷凍食品だけに見える。日本の100均と異なり生鮮食品
は一切ない。増田悦佐が2015年に書いた100均に依存している人々は、冷凍加
工食品ばかり食べていることになる。
 
「楽しく安心の買物体験とかよく聞くじゃない。清潔な売場で丁寧に陳列され
た奇麗な商品。それをきちんと扱う店舗スタッフ。2割値段が高いけど同業の
店をこの隣に作ったら、この人達は買いに来てくれるだろうか。そういう付加
価値を感じそうにない人々だよね」。
 棚の写真を撮りながら私が言葉を失ったままのクライアントに言うと、彼は
「まあねぇ」としか答えなかった。タトゥー率ほぼ100%の来店客が行き交う。

 過去に私が訪れた中で、香港の地元住民が集う裏路地の商店街は、どう見て
も不潔で、クーラーもない開け放たれた飯屋の奥では撚れたシャツに短パンの
男が鶏の首を刎ねていた。気温39度。湿度90%の日照りの中で人々は、脂が滲
み出そうな木のベンチに座ってテーブルを囲み、ワイワイと談笑していた。安
Tシャツに短パン、無精髭の私に何事かを広東語で話しかけて大笑いしていた。
ふと思い出したあの飯屋には喜びや愉しみがあった。

 そして米国のダラー・ショップの棚に、暴力的なまでに剥奪された付加価値
を思う。

===================================
■第597話『洋風奴隷』 http://tales.msi-group.org/?p=3979
===================================
☆当コラムはプリントアウトしてお読みいただくと、より一層楽しめます。☆
===================================

【MSIグループの仕入完了報告(抜粋)】

■『「当たり前」を疑う100の方法 …』 小川仁志 著
  https://amzn.to/3IX28Ie
■『多様性バカ…』 池田清彦 著
  https://amzn.to/4o4Qt9l
■『日本再発見』 ティムラズ・レジャバ 著
  https://amzn.to/4gYLiFI

===================================
発行:「企業から人へのコミュニケーションを考える」
 MSIグループ 市川正人
下のアドレスにご意見・ご感想を頂ければ幸いです。
 bizcom@msi-group.org
このメールマガジンは、
インターネットの本屋さん『まぐまぐ』を利用して発行しています。
(http://www.mag2.com/ ) 

毎月10日・25日発行 盆暮れ年始、一切休まず足掛け26年。

マガジンID:0000019921 (ナント、たった5ケタ)
★弊社代表のコラムが色々満載。
 ソリアズのバックナンバーも各号の全文が読める弊社ブログ。
 http://tales.msi-group.org/?cat=2
★講読の登録・解除はこちらのURLでお願いします。
 http://msi-group.org/msi-profile/saf-index/
===================================
※ ご注意!!
 当メルマガは毎月10日・25日に休まず発行しておりますが、当コラムが届
かないというご連絡をいただくことがあります。
 まぐまぐでは長期に亘る無料メルマガ読者に講読意思の確認を行なってお
り、その確認を終えるまで配信が停止されることがあるようです。また、サ
ーバなどの不具合でメルマガが不達になると、そのまま読者登録が無効化さ
れることもあるようです。
(さらに、不達にはなりませんが、Gmailの翻訳機能により、メルマガの内
容が改変されて表示されるケースもあるようです。その場合は、メール本文
上部に表示される「原文を表示」をクリックすると回復するようです。)
 このように各種の不達理由が考えられます。不達の場合は、まず当コラム
の発行状況を上述の弊社ブログ『MSI-TALES』にてご確認ください。発行状
況を確認の上、不達の解消には、まぐまぐ(「magpost@mag2.com」)に、メ
ルマガID(#0000019921)、タイトル(『経営コラム SOLID AS FAITH』)、
購読アドレス、再送希望の旨を記載の上、メールにてご連絡下さい。
===================================
次号予告:
 第618話 『買物リスト』 
 シリーズ『R6メリケン奇聞』(4) (10月25日発行)
 動画サイトではオピオイド中毒で「ゾンビ」と呼ばれる状態になった路上の
米国民の様子が見られます。その社会的背景事情を考えてみました。

(完)