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経営コラム SOLID AS FAITH 第600話発行記念特別号 第三弾
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目次
1 ご挨拶
2 第602話 『扶養家族』 =励起粒子(03)=
3 非雇用化の背景(02) 価値観の多様化
4 非雇用化導入時の留意点(03) 自律向け知識・スキルの充実
5 非雇用化のメリット(03) 管理コストの低減
6 関連情報 関連書籍の紹介
7 MSIグループの仕入完了報告(抜粋)
8 次号予告
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☆注意:お読みになる際には、枚数がかさみ恐縮ながら、プリントアウト
の上お読みになることを、心よりお勧め申し上げます。
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1 ご挨拶
御愛読御礼申し上げます。第600話発行記念特別号シリーズ『励起粒子』
全5話をお届けしています。このシリーズのテーマは「非雇用化」で、今回
は第三話です。
先日、お引合いをいただいた埼玉県西部の社員数10人弱の会社に伺いまし
た。その会社はビルメン関係の業務を行なっています。採用は辛うじてでき
るものの、離職者が多く、その原因は会社の営業方針と社員の価値観の齟齬
が大きいというお話でした。単に資格上の最低限のサービスを行なうだけで
良いと考えている社員と、お客様企業(ビルの管理会社)の満足度を上げる
べく附帯的なサービスで対応する要望にも積極的に応えようとする社長の事
業方針が食い違っているのでした。おまけに人件費の負担も重くなる一方と
のお悩みでした。
採用は辛うじてできるとのことでしたので、採用時のミスマッチ解消策が
定石と言えますが、いっそやるべきことをきちんと委託契約の中に定義して、
業務委託の人材を募集するアプローチもあると説明しました。社長は今時の
求人広告には社員募集ばかりではなく、業務委託者の募集の広告が多々存在
していることさえ知りませんでした。ここでもまた、今回のシリーズ・テー
マの「非雇用化」のニーズに遭遇したことになります。
社員の非雇用化は丁寧に行なわねば、違法な「偽装請負」などの形になっ
てしまいます。合法的で、その人材にもメリットが大きく、且つ、会社側に
も得るものが大きい制度をきちんと設計する必要があります。工務店の多く
の職人など、従来の業界慣習で成立させられれば、そうした注意は無用です
が、新たに自社で取り組む「非雇用化」にはそれなりに留意するべきポイン
トがいくつか存在しています。現実的な経営の選択肢としての「社員の一部
非雇用化」について今回のシリーズ『励起粒子』で知って戴けたら幸いです。
シリーズ第三回の今回は、『扶養家族』と題して雇用負担の膨張の一例と
して社員の奨学金負担の福利厚生について考えてみることにしました。本文
に対するご意見・ご感想をお待ちしております。頂戴したご感想などへのお
返事の目標納期は5営業日!!
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2 第602話 『扶養家族』 =励起粒子(03)=
1980年代後半に米国の田舎町の大学に完全私費留学した。11月に誕生日が
来る私は9月の入学2ヶ月後のサンクスギビング連休の最中、一人寮に残って
25歳の誕生日を迎えた。
入学して1年生向けのクラスの教室に入って見渡すと、髭を生やしたオジ
サンや前掛けをして家の台所から真っ直ぐ来た主婦のような人々が数人いる。
私は在学中にクラスの平均年齢より高かったことがない。80代後半の“同級
生”が在校中に逝去したことさえある。
北海道の田舎町の裕福とは言えない家で育ったので、地元の公立高校には
奨学金とバイトで行った。3年になって進路指導の教員から頻りに大学進学
を薦められたが、大学は田舎町にないので、進学するなら学費以外に生活費
もまるまる掛かる。奨学金という借金をさらに膨らませ、バイトにも明け暮
れなければならない。学びたいことも見つからないので、高卒で就職した。
大学に行ってみたく思えたのは、それから6年後。英語とビジネスとIT系知
識を一気に学び、短期間でモノにするには留学が良いとの奨めで、退職金と
貯金のすべてに、服や本まで売り払った金まで合わせて留学することになっ
た。
「今度、奨学金の返済まで一部肩代わりするようにするんだ」と訪問先の社
長が或る日私に言い出した。奨学金の金利は消費者ローン並み。4大でフル
に借りると600万にもなるらしい。中小零細企業の初任給で600万もの借金を
背負う生活を無名大学の学生達がなぜ18で選ぶのか、私には全く分からない。
私の時代よりもAO入試が充実し、無名大学も社会人学生に門戸をより開いて
いるらしい。放送大学もあれば、海外大学がネットの通信教育を安価に提供
しているケースもあるらしい。稼いでから大学に行く方法は幾らでもある。
奨学金返済の肩代わりは中小零細企業の義務ではない。けれどもそれをせ
ねば人を雇えないと考える経営者はそれなりに存在する。雇用の負担は増え
る一方だ。最低賃金は野放図に上がる。法定福利も膨らむばかり。退職金も
積み立てた方がよい。家賃も補助し、どこに住んでいようと通勤費も払う。
制服も名刺も用意する。育成にも時間とカネを投じる。本人の一生モノにな
る資格取得でさえ、業務に使うなら研修費用・受験費用・維持費用も会社が
負担する。累積残業時間も有給消化も健康状態も事務コストをかけて全部管
理せねばならない。今に毎朝「ハンカチ持った?」と確認する義務まで生じ
るかもしれない。
優秀な社員はコストがあまり掛からない。無理して大学に行って借金を背
負ったりしない。通勤時間を短くするため職住接近を図り、通勤費も安い。
頭が良いから育成も手間要らずで資格取得もすぐ終わる。ミスも少なく、お
客からクレームも来なければ、労災を起こしたりもしない。ハンカチも忘れ
ない。「そんな夢のような社員が雇えたらなあ」と社長は嘆息する。「その
社員が契約社員だったらもっと気楽ですよ」と私はニヤリと笑った。
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3 非雇用化の背景(02) 価値観の多様化
前回から非雇用化が必要とされるようになった背景要因を考えています。
2回目の今回は、社会全体の「価値観の多様化」について考えてみます。
集客をするときにマーケティングの考え方に則って、ターゲット・カスタ
マー(以下、TC)という典型的なお客様のモデル像を設定するのが一般的で
す。このTCのニーズを満たすような事業方針を推し進めることで効率的・効
果的な経営が実現します。実は同じことが社員にも言えます。自社の風土や
組織の運営方針を決めると、それにあった人が社内に増えますし、会社とし
てもそうした一様な価値観の人材を揃える方が効率的・効果的な組織運営が
できます。
このように言うと、「多様化の時代なのだから、雇う人材の価値観を一様
に揃えるのはよくない」といった表層的な意見がよく言われます。しかし、
現実論で、例えば就業規則に家族手当の規定を入れると、独身者が増えてき
た場合、不満が出やすくなりますが、同居家族が多い既存社員はその制度が
動機づけに繋がっています。逆の場合も同じで、同居家族が居ようと居まい
と同一の賃金を支払う制度設計にすると、例えば、地域行政の人口増加策な
どにあからさまに反した方針になる可能性もあります。
就業規則や各種の社内規則を読み解くと、その会社の一定の「人材観」が
潜在的に存在していることが分かります。それでも、少なくともライフスタ
イルを始めとするいろいろな価値観が多様化しているのは間違いありません。
それは自社の「人材観」に合わない人々にも活躍の場を提供する会社組織に
なる必要性が増加しているということです。
その対応策の一つは「非雇用化」です。そうした多様な人々を組織の外に
置いてしまえば良いでしょう。社内でも社外でもない位置関係の人々を、雇
用契約よりも緩くて柔軟なつながりで結び付けて自社の組織を再構築するの
です。
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4 非雇用化導入時の留意点(03) 自律向け知識・スキルの充実
非雇用化制度導入時の留意点を全5回で5点に分けて紹介します。今回は3
点目です。
能力の高い社員から非雇用化しアウトソーサーに変えていくというのが
「社員の一部非雇用化」のスキームですが、その実践に当たって必要な自律
(&自立)に向けた知識・スキルの教育について簡単に説明します。
ここで紹介する非雇用化は、例えばUber Eats の「配達パートナー」のよ
うな自由である代わりに立場も不安定な状況に自社の社員を置いてしまうこ
とでは決してありません。社内の業務をより柔軟により包括的に進めてもら
うための手段です。そのような人材には従来会社で働いてきた際に必要とさ
れる知識・知見以外に、「6 関連情報」で後述する書籍にもあるような、
自律型人材としての働き方の知識やノウハウが必要になります。
例えば、自営業者としての申告の仕方や経費管理の考え方もそうですし、
今まで会社任せになっていた保険や年金の知識も必要になります。仮に会社
で培った経験を基に他社の仕事も扱うようになるのであれば、集客や販売促
進、営業などのスキルも最低限必要になることでしょう。自分のキャリア展
開を自分で想像することも、多くの中小零細企業の社員は在職する中でやっ
たことがないケースが多いでしょう。
9条件の中にも「業務に時間的・場所的な拘束があるか」がありますので、
非雇用化後は、自分で適切な働き方を考えて実行する必要があります。究極
のワーク・ライフ・バランスの実現機会が発生するのですが、社員の立場で
は労働時間の枠内で時間を微調整して行なうことしかできなかったのに対し
て、大きな可能性の違いがあります。
独立起業すれば当り前のことを、非雇用化のタイミングで学ぶ必要が発生
するのです。こうした教育プログラムを最低限用意し、対象の人材が自社の
業務をベースにキャリアを大きく広げられるスタート地点までは、自社がサ
ポートするという考え方が重要です。
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5 非雇用化のメリット(03) 管理コストの低減
非雇用化のメリットを全5回で5点に分けて紹介します。今回は3回目で
す。
社員が行なう残業の合計時間の上限についての認識はかなり浸透しました
が、その残業時間を会社側がモニタしなくてはならない構造に気づいている
会社は意外に少ないようです。当り前と言えば当り前ですが、社員全員の残
業時間が上限を超えないように管理するのは会社の責任範疇です。同様に有
給休暇の取得状況も取得が最低限度を超えて進んでいるかを全社員について
管理監督せねばなりません。
或る会社では労基の担当者から、「累積の残業時間の状況や有給休暇の取
得状況を各々の社員が常時把握できるような体制づくりが望ましい」と言わ
れたケースもあります。つまり、会社が管理監督しているだけではなく、そ
の状況を社員が常に把握している体制を作れということなのです。
労災適用上の問題となる可能性があるので、社員の通勤経路は把握せねば
なりませんし、手当などの都合で同居の家族構成などを把握する必要もある
かもしれません。健康診断を受けさせて、健康管理もしなくてはなりません。
それ以前に法定福利に関する手続きをしてやらねばなりません。
安全管理を行なうために講習を行ない、作業に必要な資格を取らせ、ハラ
スメント対策は行ない…と、社員を抱えることは単にどんどん上がる人件費
を払い続ける以外にも、多様な管理を行なうが故に発生する見えにくいコス
トが膨大に存在します。
ネット上のCMでもそうしたテーマの展示会でも、このような手続きを大幅
に省力化するアプリやこのような手続きを請負うアウトソーサーなどが目に
つきますが、当然ながら相応にコストがかかりますし、中小零細企業の実態
にはしっくりこないものであるケースもあります。それならば、社員を減ら
す対策も検討した方が早道でしょう。社員の一部でも非雇用化すれば、その
分、こうした管理コストが減少して行くのです。
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6 関連情報 関連書籍の紹介
社員の非雇用化を実現しようとする時、最終的な制度設計や具体的な進め
方について疑問が湧くことがあります。その際に、参考となる書籍があると
便利ですが、その分野にズバリ専門特化した書籍はあまり見当たりません。
工務店の多くの職人や保険外交員など、既存の事例はかなりあるにもかかわ
らずです。そこで、今回は参考となる書籍を一部紹介してみることにしまし
た。
数少ない先行事例の具体的な解説書として参考になるのが『タニタの働き
方革命』です。制度設計のイメージが湧く内容です。
また、非雇用化を進める際に最も重要なステップは対象社員の理解と納得
を得ることです。非雇用化されても、単なる外部のフリーランスになるので
はなく、今までの経験や知見を活かして自社で働き続けるのであることを理
解し、自分にとってのメリットをきちんと把握してもらうことがとても大事
です。そういった考え方を紹介する書籍は、具体的な事例の書籍とは異なり
多種多様に存在しますので、その一部を合わせて三冊紹介します。
■『タニタの働き方革命』
https://amzn.to/438ggpJ
■『不条理な会社人生から自由になる方法 働き方2.0vs4.0』
https://amzn.to/41f9ZpM
■『起業家のように企業で働く 令和版』
https://amzn.to/41f94Wv
■『「自営型」で働く時代 ― ジョブ型雇用はもう古い!』
https://amzn.to/4k7AyG1
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7 MSIグループの仕入完了報告(抜粋)
■『脳にいい!通勤電車の乗り方 脳内科医がズバリ解説』
加藤俊徳 著
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■『世界のニュースを日本人は何も知らない 6』
谷本真由美 著
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■『催眠術入門 自分と他人の心を自在にあやつる心理術』
多湖輝 著
https://amzn.to/3Qvj8FL
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8 次号予告
第603話 『VR的人生設計』 励起粒子(4) (3月10日発行)
個人事業主になったと周囲の人々に伝えると、ほぼ必ずMLMの勧誘が来ま
す。世の中一般のMLM参加による独立起業を改めて考えてみます。
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発行:「企業から人へのコミュニケーションを考える」
MSIグループ 市川正人
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(完)