『乱暴と待機』

新宿の靖国通り沿いの映画館で見てきました。かなり以前からチラシで知っていて、見に行きたいと思っていました。結構土砂降りの夜ながら、平日の夜でも観客はかなりいました。

『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』に続く、本谷有希子原作の映画第二弾です。映画館では芝居の方の『乱暴と待機』のDVDが販売されていました。『腑抜けども…』に較べて台詞回しが芝居っぽく、さらに場面も非常に限られていて芝居っぽく、ぶっきらぼうで唐突な会話と展開がやたらに楽しめます。

「永遠の愛は疑ってしまうけど、永遠の憎しみなら信じられる」。
この映画のテーマを体現する二人は、好きな幼馴染の女性に告白することもできず、「俺の両親が死んだのはお前のせいだ。だから責任を取れ」と迫り、同居させ、「いつか、これ以上ない復讐の方法を思いつくから待っていろ」とその状態を5年も続けた男(山根さん)と、ヒトから嫌われることを極端に嫌い、一人になることも極端に嫌いなので、男が復讐方法を思いつくまで、ただ同居して待っている幼馴染の女性(奈々瀬)です。

毎晩、二人は二段ベッドの上下に横たわり、下の段の奈々瀬が「お兄ちゃん、明日こそ、思いつくといいね」と言い、山根さんの方は、「そうだな、明日こそ、ものすごい復讐方法を思いついて、それをすぐさま実行してやる」などと訥々と呟く。セックスをする訳でもない、奇妙な同居が存在しています。

このシンプルで異常な毎日の謎が、映画を見る者に断片的に明かされ始めるのは、近所に引っ越してきた奈々瀬の同級生で妊婦のあずさとその夫の番上が、山根さんと奈々瀬の日常に絡みつき始め、一応、普通の人々の目線でおかしな同居状態が理解されていくからです。

この奇妙な物語を支えているのは、山根さんを演じる浅野忠信と奈々瀬を演じる美波の怪演です。ありえない口調、ありえない行動、ありえない展開を、それがあたかも普通であるかのように観る者の感覚が麻痺するまで、執拗に反復してくれます。笑えます。

普段殆どグレーのスウェットを着てお下げに眼鏡の奈々瀬を演じる美波は、一見、『ごくせん』の赤ジャージを身に纏う仲間由紀恵にそっくりに見えます。眼鏡を外す場面で顕になる顔立ちはかなり違います。見たことがないなとパンフレットで調べてみると、『バトル・ロワイヤル』、『さくらん』、『デトロイト・メタル・シティ』など見たことのある映画に何度も出ていました。特に『デトロイト…』では、金玉ガールズと言う博多のバンドのボーカル役でナマでメタルをシャウトまでする大役です。端役続きで記憶に残らなかったのではなく、役毎に印象が大きく変わるので気付かなかったようです。恐るべき演技力です。

一時期のイエロー・キャブの中で、何かむくんだような顔に見えて、どうも好きになれず、その躊躇のせいで『接吻』を劇場で見逃してしまった(あずさ役の)小池栄子もやたらにらみを利かせる場面が多い役に、ふてぶてしい顔がぴったりの名演技です。番上は、『ちゅらさん』の弟役で、『イキガミ』で見たときから、やたらガタイが凄くなってきて今に至る山田孝之です。(『ちゅらさん』や『ドラゴン・ヘッド』ぐらいしか以前は見ていませんが、その頃と較べると印象が非常に違います。)

これは、DVDは当然買いです。

『腑抜けども…』も、『幸せ最高ありがとうマジで!』もDVDで持っている以上、当然です。と言う風に考えると、やはり、本谷有希子作品がすきなんだと自覚せざるを得ません。雑誌『モーニング』に連載する本谷有希子のコラムは、ほぼ毎号流し読み程度ですが、かなり独創的です。そのコラムも連載100回と言うことで、先日、記念に巻頭グラビアになっていて、本谷有希子本人が珍しく姿を表わしていました。私の好きなタヌキ顔です。声優から、脚本書きから、小説書き、など色々な顔があるようですが、こう連発で好きな作品が出ると、今後も買い続けてしまいそうです。『乱暴と待機』の芝居の方のDVDにさえ、誘惑を感じます。