595 人格不詳

===================================
経営コラム SOLID AS FAITH 第595号
===================================

 ご愛読ありがとうございます。第595話をお届けします。

 先月末には無事当コラムの創刊25周年記念特別号をあなたのお手許に届ける
ことができて安堵しております。発行者の立場にあってさえも信じられないこ
とですが、ご愛読下さる多くの方々のお蔭で四半世紀もこの配信を休みなく続
けることができました。心より御礼申し上げます。まだもう少々書き続けるこ
とができそうなので、当コラムを引き続きお楽しみください。

 米国の大統領選も終了し、来年からの米国のありようが少しずつ見えてきま
した。全世界規模の経済のデカップリング、若しくはグローバリズムの反転は、
より勢いを増しそうです。それは一般論では国内の中小零細企業にとって緩い
追い風になるでしょう。米国の関税引き上げも想定されていますが、多くの日
本発のグローバル企業は市場のある国での生産をかなり進めているはずなので、
世の中で言われるほど大きな問題にならないでしょう。
 
 LGBTを含むポリコレ的な動きも、米国ではこれから反転していきますから、
日本はゆるゆる追随していたところへ、最先端だったはずの米国が回れ右をし
て戻ってくる感じになるかもしれません。過度なポリコレは社会運営上の支障
となりつつありますから、或る意味望ましい度合いに辛うじて着地しそうにも
思えます。(『仕入完了報告』欄の『ポリコレの正体 …』をお奨めします。) 
 
 総じて見ると、国内市場に向き合う中小零細企業にはやや好環境になってき
たように思えます。機会をきちんと捉えれば事業を変革し飛躍させることがで
きるでしょう。その過程で、賃金は上昇させねばなりませんので、先般の25周
年記念特別号にもまとめたような生産性向上の取組みも強化していかねばなら
ないことでしょう。来年が中小零細企業の経営動向の一つの変節点のように思
えます。

 今回の号は「人格不詳」と題して、中小零細企業で役立つ人材について考え
てみたものです。特に新卒採用の場面に着目し、自己PRだの自己分析などの慣
行の歪みについて取り上げてみました。参考にしていただければ幸いです。ご
意見・ご感想をお待ちしております。頂戴したご感想などへのお返事の目標納
期は5営業日!!

===================================

その595:人格不詳

 今年も新卒者採用面接に同席していて、就活生達の自己分析や自己PRの茶番
に呆れる。部活のリーダーシップ。卒論への集中と没頭。指導したキャリアセ
ンターの担当者は本当にこれらが企業でのウリになると思っているのだろうか。
孔子は40歳で不惑といった。多くの人間はいい年になっても自分の来し方を評
価し得ない。大人になっても大抵の人間は、自分には何が足りなかったのか、
自分は何に向いていたのか、全く分からない。なりたい仕事に就いた人も周囲
にあまりいない。どうやって今の仕事を選んだかも判然としない。
 
 人間の五感は毎秒1100万要素の情報を脳に送り、脳は無意識のうちにそれら
を処理している。一方で意識が処理できるのは毎秒たった40要素程度。30万倍
近い処理能力の相違があると著書『自分を知り、自分を変える…』でティモ
シー・ウィルソンは述べている。ウンウン唸って自分の過去を振り返り、自己
PRを何とか捻り出すのは意識。
 
 その自己PRを何とか語る学生達を、語感を通して把握する面接官の評価は、
意識の30万倍速い無意識。これでは、自己PRが胡散臭く感じられない方がおか
しいようにさえ感じられる。自分の評価を自分でしても当てにならない以上、
他人による評価や適性検査、そして興信所に依頼する自分調査の方が余程秀逸
な答えが出るだろう。

 嘗てドイツのモルトケは能力の高低と意欲の高低の組み合わせで部下を四種
類に分けた。最も価値ある部下は「能力が高くて意欲が低い」。戦場のど真ん
中で議論は不要。指示を直ぐ理解し的確に実行する無欲な人物が望ましい。最
悪な部下は「能力が低いのに意欲が高い」。実行能力もなく指示も満足に理解
できないのに意欲だけが高かったら、今でいう「意識高い系」の人々のように
面倒この上ないだろう。
 
 どうせあまり役に立たない自己分析。試しに「自己分析不要」と銘打って採
用活動を実施するように或る企業に奨めてみた。結果、確かにモルトケの言う
無欲だが能力は格段に高い人材が雇えた。方針も教えると、自律性がどんどん
生まれて幹部化していく。一方で、能力がなく今まで高く評価されたこともな
いので、自己分析のしようがなかったような人材も混じり込んできた。やたら
に承認欲求が強く、指示されない無用な仕事を積み重ねて充足感を得ている。
日々スタンドプレーを連発するためだけのやる気が漲っている人材達。彼らは
周囲からの自分の評価に気づくことがない。

 経営は科学。科学同様に経営では「避けることができないのに、よく分から
ないもの」へのアプローチは「仮説と検証」と相場が決まっている。中小零細
企業の現場レベルの人材管理には、まだまだ「仮説と検証」の普及の余地が広
がっている。

===================================
☆当コラムはプリントアウトしてお読みいただくと、より一層楽しめます。☆
===================================

【MSIグループの仕入完了報告(抜粋)】

■『ポリコレの正体 …』 福田ますみ 著
■『インティマシー・コーディネーター …』 西山ももこ 著
■『街場の成熟論』 内田樹 著
===================================
発行:「企業から人へのコミュニケーションを考える」
 MSIグループ 市川正人
下のアドレスにご意見・ご感想を頂ければ幸いです。
 bizcom@msi-group.org
このメールマガジンは、
インターネットの本屋さん『まぐまぐ』を利用して発行しています。
(http://www.mag2.com/ ) 

毎月10日・25日発行 盆暮れ年始、一切休まず足掛け26年。

マガジンID:0000019921 (ナント、たった5ケタ)
★弊社代表のコラムが色々満載。
 ソリアズのバックナンバーも各号の全文が読める弊社ブログ。
 http://tales.msi-group.org/?cat=2
★講読の登録・解除はこちらのURLでお願いします。
 http://msi-group.org/msi-profile/saf-index/
===================================
※ ご注意!!
 サーバのエラーなどで読者登録が解除されてしまった方がいらっしゃる様
子です。当メルマガは毎月10日・25日に休まず発行しております。発行状況
のご確認は上述の弊社ブログにて行なってください。
 また、まぐまぐからの連絡によると、一部フリーメール運営企業でサーバ
の受信量規制を行なっているケースがあり、その場合は大幅にメールマガジ
ンの到着が遅れるとのことです。
「届かない」、「再送希望」などの連絡は、まぐまぐの窓口である
「magpost@mag2.com」に、メルマガID(#0000019921)、タイトル(『経営
コラム SOLID AS FAITH』)、購読アドレス、再送希望の旨を記載の上、
メールにてご連絡下さい。
===================================
次号予告:
 第596話 『環境適応企業』 (11月25日発行)
 老人の害を「老害」というのに対して、若者の害を「若害」と呼ぶことがあ
ると最近知りました。若害の実体について考えてみます。

(完)