『脱兎見 東京キネマ』を書き始めたころに見に行った『リアル鬼ごっこ』の続編を、第一作と同じ映画館に見に行きました。封切られてから五週程経っている筈の平日の午後。一律料金千円の日でしたが、中学生と思しき子供が数人とそれ以外に私も含めて大人が5?6人の入りでした。
続編(特に第二編)と第一作とを比べて、第二作の方が質が劣るという議論をよく聞きますし、現実にそのような続編を指折り数えると、すぐに指が足りなくなるように私も思います。つい先日見に行った『鉄男』の第三作も、私にとっては第一作に遠く及ばない作品でした。『リアル鬼ごっこ』は全く期待外れの映画で、プロットがお粗末に感じられてなりませんでした。それでも、第一作を見たのだから、という惰性と、一応流行っている映画であるようなので、映画館に足を運んでみました。見終わって、この続編は、私には第一作を大きく超える秀作であるように思えました。
第一作では、物語の本流部分のパラレルワールドは二つで、主人公(兄)は、主人公(妹)の能力によって、その二つを行き来しつつ、「あちら」の世界で毎日決まった時間に実行されている「佐藤さん狩り」に終止符を打つことに苦労の末、(と言うよりも駆けずり回った末)成功しました。成功するや否や、妹に第三のパラレルワールドに送り込まれ、「そちら」の世界の妹を助けることになった所で話が終わります。
この第一作の最後に登場する第三のパラレルワールドが、今回の続編の本流部分のパラレルワールドで、これで映画は第一作とつながっているということになっていますが、この続編でも、主人公(兄)は最後に、また別のパラレルワールドに送り込まれるなど、第一作と全くの相似形の設定・ストーリー構造になっています。(つまり、第三作を作る余地が残されているのみならず、相似形の映画を無限に作れる構造になっています。)
第一作と合わせると、パラレルワールドは…
1 私たちがいる世界
2 第一作で「佐藤さん狩り」が行なわれた、柄本明が王様の世界
3 第一作終盤に登場し、続編で「佐藤さん狩り」の舞台となる、永島敏行が王様の世界
4 続編終盤に登場する、封建制度が延々続いている世界
の四つが登場したことになります。
続編が第一作に比べて好感が持てる理由はいろいろあります。
まず、プロットのお粗末さが圧倒的に少ないので、安心して見ていられるのは、勿論です。そして、レジスタンス視点の戦争映画風に徹している所が、シンプル故の面白さを構成しています。
私たちの世界や柄本明王の世界と異なり、永島敏行王の世界には、世界大戦後のような状況になっていて、日常生活が存在していません。構図的には『ターミネーター』の未来世界のように、主人公たちがレジスタンスの組織で、敵は強力な軍隊と言うゲリラ戦の構図です。柄本明が率いる鬼が賞金目当てのチンピラにお面を被せただけであったのと異なり、永島敏行王の軍団の鬼達は、動物などとDNAレベルで融合を果たした人造人間と言うことになっています。超人的能力を持つ量産された敵という設定も『ターミネーター』風です。この世界で、「佐藤さん軍」と「永島敏行王の超人的鬼軍団」の戦いが繰り広げられている居ることになります。
ここでは、前作のように日常生活を送っている他の名字の人々が(どこにいるのか全く不思議ですが)一切登場しませんので、佐藤さんが役所に行って偽装結婚で他の名字になって難を逃れることはできません。単純にレジスタンス軍は走って逃げながら応戦するしかない状態になっていて、三人の鬼を引き連れたまま、私たちの世界に戻って来てしまった主人公(兄)も、私たちの世界でも基本的に走りながら応戦しています。この「走りながら応戦」が、延々一時間半余り続けられる単純さが、中途半端なプロット破綻を来たした第一作に比べて、面白く感じられる最大の理由かもしれません。
勿論、それでも尚、見ていて疑問に思うことはたくさんあります。
パラレルワールドのいずれかで死んでしまった人間は、他のパラレルワールドでも死んでしまうという原理で、主人公(兄)は第一作で、私たちの世界に存在する柄本明を倒し、柄本明王の世界を圧政から救ったのでした。その経験があるにもかかわらず、主人公(兄)は、私たちの世界の方で正体を現した永島敏行を倒すことをなかなか思いつきません。
永島敏行は15年前に、こちらの世界と向こうの世界の王とで入れ替わってしまったという設定になっていて、こちらの世界にいる永島敏行は、元の世界に戻って(もう一人の永島敏行に代わって)王に返り咲くことを狙っています。この永島敏行は超人的な人間型生物の研究をして軍団としようとしていた筈なのに、私たちの世界に来てからは15年間も平凡な刑事をしていることになります。
また、この永島敏行王が、なぜ「佐藤さん狩り」を始めたかということが、単に自分がスズキなので自分より多い名字が気に食わないからだろうと主人公が噂レベルで説明するにすぎず、結局、なぜそのような状態になったかが、全く分かりません。(この点、柄本明王の方は、動機がまあまあ明確です。)
ターミネーターに比べ、まだまだ弱点だらけに見える永島敏行王の鬼どもに対して、かなりの長期間闘い続けている佐藤さん軍は、なぜか、攻略法を編み出そうとした形跡がない。特に右手の五指がスタンガンになっているので、導電性の高い物質を使って自分自身を容易に感電させられるとあっさり判明しています。
そんなこんなの「?」は残っていますが、シンプルな設定で、登場人物がただただ必死に走り逃げ回るスピード感や切迫感。さらにSFレジスタンス戦争劇のスタイル。そして、前作より私の好みのタイプに役者が代わった主人公(妹)。さらに、私が大好きな『紀子の食卓』で強烈な眼ヂカラを発揮していたセーラー服の少女を演じた渡辺奈緒子がかなりいい役で出ていること。かなり見て楽しい映画ではありました。
『ターミネーター4』並みの面白さなので、DVD購入には至りません。
追記:
渡辺奈緒子の出演している映画を他にも見ようと思い立ち、調べてみたら、佐藤益実という役で、『リアル鬼ごっこ』第一作にも登場していることが分かりました。佐藤さん狩りにあう立場であるのは明白で、第二作の登場人物とバッティングしていない以上、死んでしまう役なのかもしれませんが、全く記憶にありません。しかし、わざわざその役を確かめに『リアル鬼ごっこ』第一作を見返したくはなりません。