593 暗黒大陸

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経営コラム SOLID AS FAITH 第593号
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 ご愛読ありがとうございます。第593話をお届けします。

 街を見ると、外国人インバウンド旅行客も見かけますが、観光スポットや
ターミナルでもない所で多々外国人を見かけるようになりました。政府が把
握している合法な在留外国人の数だけでも200万人を超えていて、そのうち
中国人が80万人を超えたと言われています。ネットのニュースでも大分報じ
られるようになりましたが、この数は少ない方から並べると、(総務省の
2024年の情報ですが)鳥取県、島根県、高知県、徳島県、福井県の各々の人
口を上回り、山梨県や佐賀県に匹敵することが分かります。

 今号の『仕入完了報告』に載せた『人口と世界』によると、全世界規模の
総人口はとうとう増加が止まって、減少に転じかけており、今後、世界の総
人口は増える見込みがないとされています。世界の総人口は減るのに、戦争
や弾圧などによる難民や国外逃亡者、政治体制や税制により不利益な自国を
離れる中流以上の人々が目指す魅力ある国々では、そうした人々の増加が人
口減少を自ずと緩和することになるでしょう。
 
 人口比で日本の数十倍も刑務所の収監者の割合が高い国々や政治犯などの
収容所で弾圧が行なわれている国々は先進国の中にも存在します。若手人材
を中心に失業率が日本の数倍という国々も多数存在します。現状、国外に移
住を希望する人々の行きたい国のランキングで日本はトップクラスです。
「自虐的“日本はもうダメだ論”」をよく耳にしますが、生まれ育った場所
であっても人々が去りたくなるような国々を、表層的な事実関係だけで見
習ったり真似したりすることは避けねばなりません。
 
 今回お届けするコラムは『暗黒大陸』と題して、店舗の新規出店時の商圏
調査について具体例を踏まえつつ考えてみた内容です。立地・物件の良し悪
しは間違いなく存在し、その後の収益を大きく左右します。大きな努力なく
一定のお客が足を運んでくれる店舗と、常に集客の努力をしなければ売上を
作ることができない店舗では、経営の難易度が雲泥の差です。しかし、そう
した事実を店舗経営に踏み出す人々に教えるような機会は少ないようで、多
くの誤った選択が為され続けています。
 
 中小零細企業の経営者で、「経営は理屈ではない」とか「事業には情熱と
か思い入れが一番大事だ」などと仰り、厳然と存在する経営の王道的な原理
原則を軽んじる人々に会うことがあります。経営の上で機動性が重要な中小
零細企業においては「走りながら考えること」が必須であるのは間違いあり
ませんが、理屈もなく思い入れだけでただ走り回っても良い結果は訪れない
でしょう。世田谷区の零細店舗の出店事例からそのようなことを一緒にひと
時お考えいただければ幸いです。ご意見・ご感想をお待ちしております。頂
戴したご感想などへのお返事の目標納期は5営業日!!

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その593:暗黒大陸

 世田谷区の隅にある商店街を抜けると低層のマンションと戸建ての住宅街
が延々と続く。夜9時。街灯が整備されている道路には全く人通りがない。
静まり返った街に小洒落たバーや小料理屋がぽつぽつと存在する。数少ない
常連がだべっている様子が見える。

「西側は、ここで南北に幹線道路。その向こうの先は隣駅だから、ハフモデ
ル的に無理。南側も北東に向かって幹線道路。これで南には行けない…と。
北側もほぼ東西にバス通り。」
 街灯の照らす範囲に立ってスマホで地図を見て考える。繁華街地下、急行
が止まる最寄りの地下鉄駅まで徒歩15分。三角地帯の外からの流入は期待で
きない。三角地帯の中の成人人口はオカミの統計で僅かに4000余り。ター
ゲット近い年齢性別に絞ればその1割程度。買い物したり飲んだり食べたり
は駅に近い大規模繁華街で済ますだろう。

 知り合いの紹介の女性から「世田谷にちょっと飲める小料理屋を作る」と
聞いたのは二週間前。飲食店を経営する知り合いはこの女性の出店の夢を長
年聞いていて、厨房機器の手配や内装工事まで手配してやろうと意気込んで
いたが、不動産屋からこの物件で過去次々と飲食店が消えて行ったことを知
って、何かがおかしいと感じ始めた。

 コンビニや大手飲食店チェーンなど、コストも抑えて出店できる磨きに磨
いた仕組みを持つ事業体でも、個々の出店候補地を商圏分析のエキスパート
が評価する。ましてや実質的な素人が手掛ける無名の店舗の立地なら、さら
なる慎重さは必然だろう。

「これは厳しいですね。三角地帯の最寄駅と真逆の位置のコンビニだって幹
線道路の車客目当てで、住人は全然来ていない。三角地帯の人々のターゲッ
トはごく僅かで彼らも既に駅チカの繁華街に幾らでも行きつけを持っている
でしょうし。街灯も疎らな中小路は夜は真っ暗で人が歩いていない。夜10時
には電気が全部消えている家も多い。とんでもない差別化でもできて、その
ネタで物理的な商圏ガン無視で集客できない限り無理ですね」。
 私が苦笑して言うと、知り合いは「これ、風水とかより当たりそう」と笑
って応じた。

「The Dark Continent」。19世紀にヨーロッパ人達は嘗てローマ帝国も及ば
なかったアフリカ大陸のサハラ砂漠以南の広大なエリアを「暗黒大陸」と呼
んだ。未知の人種、過酷な自然、数々の未知の致死的疫病。征服どころか入
植することさえ殆ど儘ならない地。そこはリヴィングストンらによってじわ
じわと知識が蓄積することで漸く暗黒ではなくなった。

 商圏の認識さえなく、借金までして出店しようとする俄か事業者にとって、
東京のど真ん中でも暗黒大陸は入植者を拒み滅ぼしている。

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☆当コラムはプリントアウトしてお読みいただくと、より一層楽しめます。☆
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【MSIグループの仕入完了報告(抜粋)】

■『人口と世界』 日本経済新聞社 編
■『はじめての催眠術』 漆原正貴 著
■『ルックバック』 藤本タツキ 著
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発行:「企業から人へのコミュニケーションを考える」
 MSIグループ 市川正人
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次号予告:
 第594話 『試される資産』 (10月25日発行)
 遊休資産という言葉があります。VUCAの経営環境の到来と共に愈々中小零
細企業でも経営に余裕がなくなり、遊休資産も目に見えて減少しているよう
に見えます。そんなことを考えてみました。

(完)