『鉄男 THE BULLET MAN』

新宿の伊勢丹近くの映画館のレイトショーで見てきました。限定三週間、一日一回の上映なので、終わる前に滑り込みで見に行った感じです。

この『鉄男』は、シリーズ三作目です。私は89年に発表された第一作をビデオもまだそれほど普及していない当時、映画館で見て、かなり気に入ってしまいました。主人公役の田口トモロヲの怪演が最高ですし、或る日から徐々に鉄化し始め、性器まで鋼鉄化し交際相手を殺してしまう展開や、その後の敵の登場と闘いなど、不条理感や理由の分からない展開が満載なのに、それを気にしている暇のないほどのスピード感や独特の映像美が、印象的でした。

第二作は、その3年後ぐらいに発表されて多少興味は湧いていましたが、復讐劇と言うことになっていることや、怒りがスイッチとなって鉄化が始まるなど、前評判の段階で既に先述の「訳の分からなさ」が大幅に削減されている予想がつき、見ないままになってました。

同じ監督(実際には、脚本や出演者でもあるのですが)が、今回の第三作を長いインターバルの後に作ったということなので、第二作と同様の復讐劇であることは知っていましたが、取り敢えず、見に行きました。

音響のレベルを上げ、「爆裂体験が実現した」と言う演出で、入口付近の案内には通常よりも音が大きいことに関する注意があります。

入ってみると、確かにやたらと音量が大きく、効果音や音楽がたたみかけるスピード感や緊張感の演出に大きく貢献しているのが分かりましたが、いかんせん、音割れが酷く、数十年前の安ディスコの音響を思い出させるようなものでした。音源の問題なのか会場の音響設備の問題なのか、私には分かりません。もともと耳は良い方なので、メタル系のコンサートでも、周囲の人以上に音量の大きさが気になる方なので、単に私の問題である可能性もかなり残っています。いずれにせよ、個人的には、この「爆裂音響」が好きになれませんでした。逆に映像やストーリーに集中できないぐらいだったので、途中でティッシュペーパーを千切って耳に詰めて、ちょうどいい感じの音量にしました。

前二作と異なり、今回は主人公が外国人です。主人公の父も外国人です。この二人が加わっている会話、つまり、映画の中のほとんどの会話は英語です。文化文明が雑多にまじりあった近未来のような設定になっているというということなのでしょうが、(その割には、変異を始めた異様な面相の主人公が父を問い質しに、半狂乱で父の家に向かう手段は自転車だったりします)どうも、これら二人の外国人以外の英語がぎこちなくて耳障りです。

分かりやすい復讐劇であること。最後には愛によってすべてが丸く収まる、美しすぎるぐらいの結末。さらに、第一作の機械的な鉄男と異なり、どちらかと言うと、南部鉄瓶の文鎮を思い出させるような鉄塊的で鈍重な今回の鉄男の設定。どれもいまひとつ、好きになれませんでした。

田口トモロヲの一瞬の出演や、主人公の母が、以前『ストロベリーショートケイクス』で、強烈な印象だった役をこなした好きな女優さんだったことなどは、ちょっとした収穫でしたが、私にとっては第一作に遠く及ばない程度の魅力しかないので、DVDの入手に至ることはないでしょう。