592 知足の事態

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経営コラム SOLID AS FAITH 第592号
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 ご愛読ありがとうございます。第592話をお届けします。

 関東から西では暑さが続いていますが、風に秋が感じられるようになりま
した。東北以北では日中の最高気温が20度を超えない日も多くなり、秋本番
に入っています。季節の変わり目のど真ん中、ご自愛ください。

 中小零細企業の淘汰が進んでいます。きちんと清算しているケースもあれ
ば、夜逃げ同然の廃業もありますし、事業はそのままに吸収合併で会社が消
える場合もあるでしょう。統計ではなかなか実態がつかみにくいですが、き
ちんと生き残ることが可能であることが、最早「企業の強み」と言えるよう
な事態になりつつあります。
 
 国際的な影響も簡単に受けるようになった経営環境の変動や、デフレから
一転してジワジワと続くインフレや、働き手不足や後継者不足、地方経済の
縮小・消失など、報道解説などでも色々な理由が挙げられています。勿論、
それらはかなり影響力の大きな経営不振の直接的な原因となり得ます。
 
 しかし、その背景には、日常レベルでの経営の劣化があるように思えてな
りません。VUCAと呼ばれるほどに経営環境は見えづらく分かりにくいものに
なりましたが、それを最低限理解する「読解力」の発揮と、環境変化に自社
を最低限適合させることの継続ができなくては、早晩経営は行き詰まってし
まいます。
 
 経営資源が限られていて、向き合う市場も限定的な中小零細企業には、経
営環境変化に適合するにも打てる手はかなり限られていることが殆どです。
今何をやらねば未来が損なわれるのかを真剣に考えてみる必要があります。
今回お届けするコラムは『知足の事態』と題して、そういった経営環境適合
の施策の中でも非常によく例示されるICT活用の推進について考えてみます。
 
 中小零細企業のICT活用が進みにくい要因にはいろいろありますが、ICT活
用でできるようになる事柄の可能性が全く認識されていないことが、スター
ト時点でICT活用の道を閉ざしていることはよくあります。それが認知され
ていなければ、ICT化の知識不足や資金不足、業者選定の困難などのよく挙
げられるICT化推進上の障害などは、発生するまでもなく、ICT活用など夢の
また夢の話になってしまいます。自社のICT活用の可能性に考えを巡らせつ
つ、ご一読ください。ご意見・ご感想をお待ちしております。頂戴したご感
想などへのお返事の目標納期は5営業日!!

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その592:知足の事態

「で、今回実施日が決まった工事が終わったら何をしたらいいかな」。
 既に半年以上に渡って繰り返された問いを今日もメンバーに繰り返し問う
た。工事とはこの町工場にネット回線を引くための工事。この会社は創業半
世紀以上。1970年代から急激に普及したインターネットが仕事にも使えると
分かってからすでに半世紀。この会社で社内ITインフラのメンテや改善改革
を進める担当者を社内で育てるようになってからもうすぐ10年。それほどの
時間が経過した後にも、社員に「工場にもネット環境があると良いか」と尋
ねると、「別になくても困っていない」と皆口を揃える。
 
 ITインフラ担当者が調査・検討を進め、この会社ではタイムカードが無く
なった。出先でもスマホで打刻できる。大方の社員にとってはその程度の有
難味。集計作業は格段に効率化されたが、そちらの有難味を知る社員は限ら
れている。
 
 花粉が吹き荒れる春の日、お台場を歩いてビッグサイトに行くと、そこに
はありとあらゆるIT活用の手法を売ろうとする業者が集結していた。工場関
係だけでも、予定表や図面の共有、金型や原材料・仕掛品・製品のRFID管理、
各種センシングによる品質管理や安全管理、アイトラッキングやモーション
キャプチャーによる暗黙知の解析と記録、作業ロボットやAGVによる作業の
自動化・省力化などなど、枚挙に暇がない。これらのうちネット環境無くし
て機能が完結するような仕様のものはどれほどあるだろう。

 誰かが流行らせるほどに、そのような商品開発の誤謬に陥る者が増えてい
る時代なのか、最近読んだ書籍数冊の中で自動車王ヘンリー・フォードの言
葉が何度も目に入る。
「もし顧客に、彼らの望むものを聞いていたら、彼らは『もっと速い馬が欲
しい』と答えていただろう」。

 顧客は自分が欲しいものを分かっていないとはよく知られた教訓。しかし
顧客はニーズを露わにして事業者に迫り、少なくとも何かを欲しがる。製造
に当たる社員に望むものを聞くと、今まで教えられたままの作業の知識・経
験で縛られた彼らは、「特に何もない」、「別段困っていない」と答える。
スマホで日々ネットの恩恵に預かっていても、魔術化したIT技術の世界観の
全貌を想像だにしない。

 IT系の展示会に行くと大手企業の財布事情に合わせたIT導入ばかり紹介さ
れる。補助金活用をして購入する以前に、どんなことをどんな技術ですれば
よいかの判断がつかない。中小企業庁の指摘を待つまでもなく、ITに敏い担
当者が中小零細企業にも必要だ。しかし、ITを社員が分かっても、堅牢な認
知フレームがさらに立ちはだかっていると知る。

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【MSIグループの仕入完了報告(抜粋)】

■『西田幾多郎 …』 櫻井歓 著
■『データ管理は私たちを幸福にするか?』 堀内進之介 著
■『陰謀論とニセ科学 あなたもだまされている』 左巻健男 著
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発行:「企業から人へのコミュニケーションを考える」
 MSIグループ 市川正人
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次号予告:
 第593話 『暗黒大陸』 (10月10日発行)
 長い経験を積まなくても、意識して地図を見ると店舗開業に向かない場所
がそれなりに分かるようになります。それぐらい出店に当たっての商圏分析
は基本中の基本です。ある商圏分析事例を振り返ってみました。

(完)