渋谷駅南側の映画館で観てきました。『ぴあ』でみた上映最終日の三日前で、ギリギリのレイトショーに滑り込んだものと思って行ったら、好評につき上映期間が延長になったと貼り紙がありました。
この映画は、ナチスの党大会を映画とした記録映画で、ナチス・ドイツを賞賛する問題作として広く公開されることがないままになっており、今尚、ドイツ国内では上映禁止になっているようです。気合そのものの映画タイトルは、党大会一回一回につけられたスローガンのようなもののようで、その二年前の党大会は『信念の勝利』と言うものだったとパンフに書かれています。
この映画を見る前に、偶然ですが、『ヒトラーの経済政策』と言う新書を読みました。ナチスの正式名称が、「国家社会主義ドイツ労働者党」で、第一次大戦後の窮状にあったドイツにおいて、労働者への福祉の極端なまでの充実を掲げて、ドイツ国民から熱狂的に支持され、政権を獲ったことを再認識したばかりでした。その経済政策である「欧州新経済秩序」は、ケインズからも賞賛され、失業問題の解消に始まり、当時の先進国では較べるもののない水準の医療厚生の実現など、ホロコーストのイメージなどを常に伴う後期のナチスの評価とは全くかけ離れた事実に驚かされました。
労働者・農民などから熱狂的な指示を得ていたナチスの党大会の様子をドキュメンタリーとしてまとめたのが本作品ですが、NHKで私が好きな番組の『映像の世紀』(主題曲の『パリは燃えているか』が印象深いです)の特別編か何かをじっくり見ているが如く、単なる記録映画の枠を超えて、鑑賞に耐える以上に、観る者を虜にする力を持った映像が延々と続きます。熱のこもった演説と整然としたパレード、そしてそれに打ち震える人々。これらがモノクロの画像独特のシルエットの深まりの中で交互に登場します。
軍服であろうと私が思っていた、ナチスの党服は着ている者の半数以上が、シャベルを担いだ労働団の青年たちで、先述の『映像の世紀』などで観ているパレード風景の大半は兵員によるものではないことが分かります。また、「まず平和を愛することだ。それを心に刻み込むべきだ」と満場の青少年団に対して熱く語るヒトラーの姿は、印象的です。
パンフレットを見ると、「のちにナチスが行なった暴虐の数々を知らずに『意志の勝利』を観ることはあまりに危険である。その魔力はいまだに衰えていない」と作品解説にあります。単なるマスゲームの映像でもなく、単なる政治演説集でもなく、パンフレットに「暗示的・陶酔的」な映像美学と述べられている魅力的な世界がそこに見て取れます。そして、記録破りのインフレ、分割割譲された国土、ドイツ一国に集中した戦争賠償責任、これらに打ちひしがれた人々に、「一つの民族。一つの国民」を訴えるナチスがどれだけ素晴らしい存在に見えたかを想像するに難くありません。
以前、マーケティング職に初めて就いたとき、先輩が「広告の原理はゲッペルスで完成している」とよく言っていました。そのゲッペルスの意見・判断さえも干渉として、監督が排除したというこの作品の魔力は、パリ万博でグランプリを獲得したことさえ、当り前過ぎて驚くに値しないほどです。
そして、「ナチスはなぜドイツを掌握できたのか」、「ナチスはなぜユダヤ人虐殺を行なわねばならなかったのか」、「ドイツ国民はなぜナチスを熱狂的に支持したのか」など、偏見やバイアスを除いて考えさせる優れた作品です。DVD化されるのであれば、間違いなく買います。