『真夏のオリオン』

新宿バルト9の深夜近くの回で見てきました。潜水艦ものの映画を映画館で見たみたいと思ったのが直接的な動機です。封切二週目で、そこそこの客入りでした。

映画で潜水艦ものでは『ローレライ』をDVDで見ましたが、香椎由宇演じる超能力少女の存在が、この手の戦争ものでは非常に存在感が薄い女性のキャラクターの問題を一気に解決はしているのですが、どうも設定的に好きになれず、イマイチ感がありました。

マンガでは、『沈黙の艦隊』がかなり好きでした。政治上のやり取り部分がもたついたように感じられましたが、息を飲む雷撃戦の描写は、当時何度も繰り返し読みました。そんな感じの、結構本気の雷撃戦の実写場面を期待して映画館に足を運びました。

雷撃と言っても『沈黙の艦隊』のやまとも全部で50本ほどの魚雷の装備と知って、「これじゃあ、バンバン撃つわけに行かないよな」と素人なりの発見をしたのですが、それでも、合計8門の魚雷を同時発射する場面は最高でした。今回の映画のイ?77潜水艦は当然終戦直前のディーゼル艦ですので、スペックが違います。魚雷は10本少々しか装備できず、4門しか発射口もありません。

潜行深度も100メートルを突破したあたりで限界になるので、やまととは一ケタ違います。そしてディーゼル艦なので、『沈黙の艦隊』に登場するディーゼル艦同様、潜行時間に限界があり、どんどん酸素不足になると言う制限条件付です。そのような潜水艦と駆逐艦の一対一の、互いの作戦を読み合う知能戦が展開されるストーリーは、結構気に入りました。『沈黙の艦隊』でも、やまとと新鋭イージス艦が一対一で戦い、互いの裏をかきあった上で、やまとが最後の魚雷で相手を航行不能に陥れる展開があります。この映画でも、最後の魚雷一本で相手に一撃を加えるあたりは、かなり似た展開です。パンフを読むと時代考証や登場する潜水艦や駆逐艦のリサーチも念入りにされたようで、見ていても、「多分本当にそうなんだろうなぁ」と思える描写が多々登場します。

映画は(トレーラーしか見ていませんが)『男たちの大和』などにも見られるような、現代での出来事が物語の導入部分となっています。そこから、現代の登場人物の記憶を辿る形で、物語が主要部分に移行する形です。現代の方の登場人物たちの印象や人間描写には物足りなさがありますが、物語主要部の登場人物たちはキャラ設定も明確で、かなり生き生きと描かれています。その点でも好感が持てます。『スウィングガールズ』の頼りない男子学生が頼りがいのある軍医長になっていました。

劇中、乗組員に死者が出るのは、魚雷を装てんしようとして下敷きになった一人だけです。陸軍や海兵隊の戦闘とは異なり、肉弾戦のない海軍と言うのもあると思いますが、戦争映画としては、やや美しすぎるきらいは否めません。

しかし、人間ドラマとしてみた時、楽しめる映画だと思いました。男性が多すぎると言うのがDVD入手には気乗りしないポイントですが、『ローレライ』は持っている以上、それ以上に面白いこの映画は、入手せざるを得ないでしょう。