581 トマトの追随

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経営コラム SOLID AS FAITH 第581号
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 ご愛読ありがとうございます。第581話をお届けします。

 1年の4分の1が終わり、4月になりました。経営の分野でも新たな仕組みや
制度が一部で始まっています。新たな社員を迎えたりした企業もあるでしょ
うし、廃業した仕入先が新たな仕入先に置き換わったりするケースも大倒産
ラッシュを境に起きているかもしれません。

 ニュースを見ていると実質的な増税だの政治の腐敗だのがとっかえひっか
え登場し、愉快な話や盛り上がる話があまり見当たりません。しかし、時代
は確実に、それも10年20年前の頃の変化より格段に速いペースで変化してい
ます。自社の経営環境の変化に敏感で、適応を何とか続けていくことができ
るだけで、十分及第点以上の経営と見做せるぐらいかもしれません。
 
「残存者利益」という言葉が頭に浮かびます。倒産や廃業する企業や、当該
事業から撤退する企業が増える時代に、その市場に踏み止まり存在し続ける
だけで、消えた競合他社のシェアが転がり込んでくることで伸びた収益のこ
とを指して使う言葉です。色々と経営が大変な時代になりました。その新常
識についていけるだけで企業は収益が伸びるケースを最近よく聞きます。自
社の顧客と経営環境をきちんと把握することの重要性が痛感されます。

 今号は『トマトの追随』と題して、長年幾つかの大手企業に在籍していた
人物が退職後に零細企業に職を求める場面で起きた、些細な出来事を掘り下
げてみます。映画『パルプフィクション』の笑い話も交え、いつもより軽い
ノリになっていますが、有名大学も出て上場企業でも長く務めたことがある
人物がこのような失敗をしても自分で何がおかしいのか分からないといった
状況は、それなりに深刻です。
 
 純粋な仕事の遂行能力以上のことが求められる中小零細企業の現場の現実
なども一考できるかもしれません。いつもに比べて気軽に読める今号をお愉
しみ下さい。ご意見・ご感想をお待ちしております。頂戴したご感想などへ
のお返事の目標納期は5営業日!!

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その581:トマトの追随

 還暦が近い私よりも年上の男性が、私の中小零細企業向け経営支援業の商
売を学んでみたいと言ってきた。彼は日本でも高偏差値の私大の出身で、最
初に勤めたのは有名上場企業。その後、役員の立場も何度も経験している。
彼の大学同窓生の伝には経営者が多いが、その多くの凡庸で杜撰な経営は破
綻しやすく、彼は転職を重ねることになったらしい。
 
 私と同様の立場の個人事業主とは言っても、多様な業態の企業経営の経営
を活かして、ビジネス・モデルは自分で好きに決めるべきと私は早くから彼
に伝えた。屋号を決めることから開業届を出すことまで、一連の独立準備作
業について助言するだけと言っているのに、なぜか彼は私のクライアント先
での勉強会を見たがった。
 
 勉強会後、社長が夕食に誘ってくださった。小さな料亭の席。彼の電話が
頻繁に鳴る。彼は発信元を見ても出ないのが逆に気になるので、社長がどう
ぞと促すと、彼は電話の相手に「今仕事だから、後で」とだけ言った。電話
はその後も何度も鳴り、私達が勧めると、大好きな日本酒で酩酊しつつあっ
た彼は何を思ったかスピーカーにして電話に応じた。

「ケチャップがないんだよ。ふざけんな。約束だろ。5分で持ってこい!」。
 その場に響き渡ったのは彼の中学生の娘の声。彼は「うん。分かったから」
と怒号の合間に何度も反復して電話を切った。そして私達に「生意気なんで、
困っちゃいます」と苦笑した。社長は明らかに不愉快そうになり、私は致し
方なく彼に、「仕事の相手にプライベートを不用意に明かさないのはこの商
売の鉄則です。さっきのケースでは、自分の子供も躾けられない人間に社員
を任せられないと、クライアントの社長は思います」と諭した。

 タランティーノの出世作『パルプフィクション』を帰途に思い出した。劇
中のジョーク噺はトマトの親子のこと。両親のトマトと赤ちゃんトマトが歩
いていると、赤ちゃんトマトが遅れ始めて、父親トマトは赤ちゃんトマトを
ぐちゃぐちゃにして「ケチャップ(Ketchup)!(≒「追いつけ(Catch up)!」
と激怒したという。

 彼にとっては微笑ましい親子関係が全く理解されず、「信頼できない」と
評されたのが余程腹に据えかねたのだろう。真似の必要はないと何度も伝え
たのに「市川さんの素晴らしいサービスに追付くのは難しそうなので、再就
職の道を選びます」と後日連絡してきた。理解力不足ではなく、傷ついた自
尊心を鎮めるための認知不協和的な作話だろう。

 彼はトマトではなく高学歴人間だったので子供からケチャップと怒鳴られ
た。『パルプフィクション』に拠れば、追付けずケチャップと怒鳴られる者
はぐちゃぐちゃにされる。

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【MSIグループの仕入完了報告(抜粋)】

■『漂白される社会』 開沼博 著
■『日本の電機産業はなぜ凋落したのか …』 桂幹 著
■『慰安婦』 小林よしのり 著
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発行:「企業から人へのコミュニケーションを考える」
 MSIグループ 市川正人
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次号予告:
 第582話 『家族の肖像』 (4月25日発行)
 広告を打つ時にはターゲットを精緻にイメージして絞り込む。そんな当た
り前のことをネット上の話題を基に考え直してみました。

(完)