574 改造人間の暗澹

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経営コラム SOLID AS FAITH 第574号
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 ご愛読ありがとうございます。第574話をお届けします。

 とうとう今年も最後の発行号になりました。今年も一年ご愛読を賜った読者
のあなたに深く御礼申し上げます。本号が届くのはクリスマス当日で世間は年
末に向けて慌ただしさのピークを迎えていると思いますが、来年の始まりに向
けてこれまでの当コラムの内容があなたの経営の一助になることを祈念してお
ります。

 偶然ですが恒例のコーナー『MSIグループの仕入完了報告』では、50代後半
から60代前半ぐらいの経営者の方であれば、過去の自分の道程を振り返るのに
最適なベストセラー『ボクたちはみんな大人になれなかった』、現在の経営を
直近でどうするかを考えるための『成しとげる力』、そして将来の人材育成の
ヒントが詰まった『子どもが心配』がきれいに揃いました。過去から現在、そ
して未来に至る何かの思索をまとめるヒントになるかもしれません。宜しけれ
ば、本コーナーの過去の紹介作も含め、ご一読になってみてください。

 今年最後の号は中長期的な現場の合理化をどのように行なうかについて考え
てみた内容です。諸外国ほどではないものの国内でもインフレ基調が定着して
きました。最低賃金も継続的に引き上げられていますので、人件費も上げて行
かねばなりません。価格が高いものは価値が高いはずですから、値段が高くな
った人材は今まで以上の何かができなくてはならないことになります。
 
 現場作業においては人間そのものの価値を引き上げていく方法論と作業の機
械化を進め人間への依存度を下げる方法論があり得て、両者が並行的に進めら
れていくことになるかもしれません。経済成長はマイルドなインフレを前提と
しています。その中でこれらの二つの方法論が持続的にどのように組み合わせ
られるべきなのかを一考する内容です。
 
 零細の工場や倉庫の現場でも、店舗や各種サービス提供の現場でも、機械化
やシステム化は低廉化や汎用化と共にどんどん進めざるを得なくなるでしょう。
そんなことを今年最後の本号の『改造人間の暗澹』を材料にお考えいただけれ
ば幸甚です。ご意見・ご感想をお待ちしております。頂戴したご感想などへの
お返事の目標納期は5営業日!!

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その574:改造人間の暗澹

 町工場のクライアント企業の社長に表を見せながら弟子が解説している。そ
の内容は重量物を持ち上げる社員の腰を保護するベルトの選択肢。金属加工業
のこの会社ではジャッキ付きの台車やフォークリフトを用いているので、重量
物を持ち運びすることはない。ただ製品のパレット移し替えなどの作業で1回
数秒の持ち上げを繰り返すような作業は発生する。女子の採用にも力を入れて
いるこの会社に残る数少ない筋力要請型作業である。

 以前、パチンコ業界の仕事が多かった頃、所謂ドル箱運びは腰を壊す作業と
して知られていて、各社各様、通路幅の違いから各店各様の対策が講じられて
いた。ベルトは最も一般的だったが、各社・各店で名称は一定していない。今
ネットで見ても、「重量物ベルト」、「腰保護ベルト」、「腰痛ベルト」など
様々だ。それらも各台計数機の普及で減少し始め、続くスマート機の導入でさ
らに減るだろう。数年前のパチンコ業界の経験からベルトを検討すべきかと
思っていたが、今では介護業界のパワーアシストスーツがあるという。現場に
多々ある他作業との兼ね合いがどうか分からないが、選択肢にはなるだろう。

 製造業専門の展示会のあちこちでこの課題に言及してみると、やたらに廉価
になりつつある上にプログラミングも殆ど不要になったロボットアームやAGV
を薦められた。人間と協働する装置群ということになっている。ところが隣接
するセクションでは、かなり人型に近いロボット群がせっせと働いている。こ
れも「人間と協働する」と謳われているが、どう見ても「人間を労働から排除
する」が正しい表現に見える。

 人工骨や人工関節も私が幼少時にはあまり聞くことのない概念で、当時の私
が体内埋め込みの人工物で思いつくのは銀歯ぐらいだった。今では失明した人
向けの人工網膜や人工眼球まで開発途上にあるという。実現すれば、赤外線ま
でモード切替式で見えるようになるらしく、ノクトスコープもサーモグラフィ
も人間の能力になる。パラリンピックでは専用義足の選手の記録はオリンピッ
ク選手のものを超えつつあると聞いたことがある。
 
 インフレが続いて、原価のうち材料費の上昇を自社の価格に転嫁することに
は、オカミのお墨付きがある。一方、人件費高騰で価格を引き上げると、低生
産性を何とかしろと糾弾されがちだ。人件費はオカミが最低賃金を勝手にどん
どん引き上げるので、上げざるを得ない。価格が高くなった社員達は何か自然
に能力が増えるのか。社員の教育・訓練・啓蒙と機械的高機能化は、インフレ
をずっと乗り越え続けられるのか。疑問は尽きない。
 
 展示会でせっせと文句も言わず働く人型ロボットを見ながら、「こんなロ
ボットが通販ですぐ届く時代は近いんですかね」と私が尋ねると、担当者は
「はい」と笑顔で即答した。

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☆当コラムはプリントアウトしてお読みいただくと、より一層楽しめます。☆
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【MSIグループの仕入完了報告(抜粋)】

■『成しとげる力』 永守重信 著
■『ボクたちはみんな大人になれなかった』 燃え殻 著
■『子どもが心配』 養老孟司 著
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発行:「企業から人へのコミュニケーションを考える」
 MSIグループ 市川正人
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次号予告:
 第575話 『適量の艱難』 シリーズ『ホルミシスの魅惑』
(1月10日発行)
 新年最初の号からは三回にわたる「自身に負荷をかけること」についてのシ
リーズ『ホルミシスの誘惑』をお届けします。第一回目は『適量の艱難』と題
して、縫い包みに不安や悩みを聞いてもらう人々を材料にして考えてみます。

(完)