『ディファイアンス』

最近は、見たい映画がなくて困っている中での選択です。(新宿でやっている『ポチの告白』は魅力的ですが、三時間を越える長さに耐えるのは無理なので見送りました。)曇天で花粉の飛散が激しい日、コマ跡地の近くの映画館で見てきました。封切日翌日の晩にしては、観客が少なかったように思います。勿論、数十人の単位ではいましたが。

この映画は、第二次大戦中、ドイツ軍から逃れたユダヤ人を率いて森の中で数年に渡って逃亡生活を送り、結果的に千人を超えるユダヤ人を救うことに成功したビエルスキ兄弟の物語です。

当初、数十人規模から始まった森での生活は、どんどん逃亡者を救い、さらにはゲットーからの脱走まで手引きした結果、数百人単位、最後には千人規模へのコミュニティ生活へと拡大していきます。この組織と言うかコミュニティの成長して行く様子、例えば、ビエルスキ兄弟の長兄が、結果的にリーダーとなっていく様子や、コミュニティのルールを作り、単なる避難施設の様相から、事実上の村落になっていくプロセスは、何か、私の専門の中小零細企業の組織の形成にも似ていて、参考になることが多々あります。

特に、この共同体は戦時下にあって非戦型で、ドイツ軍の追っ手に攻撃されれば時間稼ぎレベルでの応戦はするものの、基本は森の中を逃げる一方です。ですので、村落のインフラを作ってはそれを放棄することの連続となって、生活レベルは向上しません。その結果、粗末な小屋があるような住環境の中、厳寒の越冬を余儀なくされますし、食糧生産が事実上不可能なので、常に食料調達を生存の最大優先事項にすえなくてはなりません。おまけに、食料は、よく言えば周囲の農民の協力、悪く言えば周囲の農民からの収奪によってしか調達できません。ドイツ兵のみならず、森の外の敵は増える一方です。

ルールに逆らうものは、コミュニティ内のユダヤ人の「同胞」であっても、射殺する場面さえあり、飢えて追い詰められて組織内に不協和音が高まる場面などは、現実的です。パンフレットを読んでも、現実に忠実に作ったとのことで、主人公の長兄さえも単なる格好の良いリーダーには描かれていません。等身大の生き様とでも言うべき描写に好感が持てます。

基本的にインドア系の私なので、自分が森の中の逃避行生活を送ることが想像できませんが、森を経由して移動する逃避行ではなく、森の中に生活することを前提としつつ、追い立てられる結果の回避的移動であるところが、私の常識の中にはない生活の形でした。以前、アメリカの退役軍人を描いた映画『 crazy as usual 』で、森にホームレスとなって集団で住んでいる現在の退役軍人を見ましたが、その生活に比べると、60年以上前の森の共同体の方が、不本意な移動を強いられているにも拘らず、文化的生活を営んでいるように見えるのは、発見です。

印象に残るシーンは、やはり、伝令のナチス兵を捕らえて共同体に連行してきたら、ユダヤ人達が、ナチスに殺された家族の名を告げながら、その復讐としてナチス兵を一撃ずつ殴り、最後には集団で撲殺してしまうシーンでしょう。類似のシーンが名作『七人の侍』にも存在しますが、こちらの方が、刃物を使っていない分、兵の死亡に時間がかかり、残酷さがましているように感じられます。

戦争映画として考えると、殺人シーンや戦闘シーンは少ないものの、共同体の生活を舞台とした集団の中の人間の醜さや、戦争の中の価値観の混乱を、淡々と描く秀逸な映画です。しかし、森の中に隔絶された宗教に支えられた共同体の物語としては、『ミッション』の、近くの席で見ていた修道女の集団が泣き出して場外に出てしまうほどの悲惨な現実の方が、数段上質な出来上がりのように感じられます。ですので、DVD購入にまでは少々届かないかなと言う風に思います。